憧れだったカードゲームの世界に転移して最強を目指せ!

いずも

1話

「王様と王の右腕にはシナジーがあるのに、王様と王の左腕にはシナジーがないのっておかしくない?」

 僕の問いかけに彼――タケルは頭は動かすことなく「またか」という眼差しを向け、すぐに視線は下に戻る。

「このカードゲーム――カードフォージバトルの話か」

 そして今しがた僕が召喚した王様と王の左腕のカードをちらりと見て、そこに書かれているテキストを対面から読んでいる。


「そう! なんで右腕だけに追加効果があるんだろうって。左腕だって王様の側近でしょ? だったら王様と一緒に出したらパワーアップしたっていいじゃん」

「それはテキストに何も書かれていないから。海琴みこと、お前がいつも言ってるのはフレーバーテキストって言って、ルール上何の意味も持たない空想みたいなもんだよ。きちんと明文化されてるルールテキストが正義なの。自分勝手な妄想もいいけど、ちゃんとカードテキストを覚えておかなきゃ俺みたいに『マスターズリーグ』への挑戦権は手に入らないぜ」

 タケルの言うことはもっともだ。

 実際、彼は草の根大会からどんどん勝ち進んで地方大会でも入賞、ついには世界チャンピオンを決める大会であるマスターズリーグに出場するまでに至った。


「えー、僕はいいよ。カードゲームは楽しく遊べたらそれでいいっていうか」

「なんだよー。せっかく未来のチャンピオンがコーチしてやってるのに。来週の大会出るんだろ、絶対優勝しろよ!」

「はは、頑張るよ……」

 それはタケルが出ないから、もしかしたら僕にも勝てるチャンスがあるかもしれないって思っただけ。彼がいたら絶対に優勝なんてできっこない。


「カードに書かれてるテキストは少なすぎるよ。もっといろんなシナジーが存在してもいいはず。カードの組み合わせの数だけシナジーがあってもおかしくない」

「はいはい。お前の空想がテキストに反映したら良いのにね。だけどそんなことはありえないからまずはカードテキストの暗記からな」

「タケルの鬼ー!」



 こうしてタケルにみっちりしごかれた僕は、商店街にあるカードショップで週末に行われた大会で見事に優勝した。参加人数は10人にも満たない小さな大会だけど、それでも僕にとっては嬉しい出来事だ。


「はーい、それじゃこれが優勝賞品ね~」

 店員の美幸お姉さんから賞品が手渡される時間。

 憧れていた光景に胸が高鳴る。

 いつもタケルや他の大人たちとお姉さんのやり取りを横目に見ているだけだったけど、僕にもついにこの瞬間がやってきた。少しだけタケルに追いつけたような気がした。

「ありがとうございます」

「おめでと~。これで海琴っちも一人前の決闘者デュエリストだね!」

 よくわからない決めポーズとともに差し出された商品を受け取る。上位入賞者だけが貰える絵違いの限定カードだ。

「じゃあ子供は暗くなる前に帰りなー。特に海琴っちは夜道を一人で歩いてたら襲われちゃうぞ~」

「僕は男ですってば、もう!」

 中性的な顔立ちで名前も海琴みことということもあって、よく女の子に間違えられる。僕はもっと男らしくなりたいんだけどなぁ。



*********


「あれ? 美幸ちゃん、ここにあったカードは?」

 閉店後、店長が問いかける。

「ああ、ちゃんと渡しましたよ。今日の大会の優勝賞品」

「違うよっ、あれは『マスターズリーグ』への挑戦権カード! 今日の商品はわかりやすいように棚に移動させとくって言ってたでしょ」

「あー……」

 しまったという顔で棚に取り残されたカードを見つめる。

「ま、まぁ来週の大会も来るだろうから、連絡してその時にでも持ってきてもらえば大丈夫ですよ」

「君も結構なうっかりさんだよねぇ……」



*********



 その後夜道で不審者に声をかけられる――なんてこともなく、無事に帰宅する。

 どっと疲れが襲いかかってきたので夕飯もそこそこにベッドに突っ伏した。明日の宿題のこととか考えようとしたけど、初めて大会で優勝できた嬉しさが何よりも勝って他のことなどどうでも良かった。この多幸感に包まれたまま眠りたい。


 そして次に目を覚ました時、状況は一変する。



「――え、ここ、どこ。学校は……?」

 僕の知らない世界。だけど見覚えのある光景。


 そこはどう見ても開門ポータル領域ゼノバース。

 つまり『カードフォージバトル』の舞台。

 どうやら僕はカードゲームの世界に迷い込んでしまった……らしい。

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