第3話
目が覚めた。
まだ部屋は暗い。
本来寝るために作られていないソファで寝たがために、首元に違和感があったが仕方がない。
ゆっくりと上体を起こしベッドを見やると、薄手の布団が盛り上がっていた。寝ている者の顔までは見えない。
今まで助手と同じ部屋で寝たことはなかったし、昨夜のこともあったので、御子柴はシャワーを浴びて意識をはっきりさせることにした。
時刻は午前10:時を少しまわったあたりである。部屋は遮光カーテンで暗いままだ。
1週間の宿泊予定であるが、こんな狭い部屋だ。やはりもう一部屋追加する方がいいだろう。
そう考えながら全身を洗っていくうち、汗をかくことを想定して、あらかじめ冷水で冷やしておくことにした。
昨日と同じく、腰にタオルを巻いただけの姿でバスルームから出る。
出ると、部屋が明るかった。
先刻までベッドに寝ていたはずの星名と目が合った。彼女がカーテンを開けたのだろう。
「おはよう」
「起こしたかな」
星名はすぐに御子柴から目を逸らし、問いかけに首を振る。
「昼から行動するって言ってたから起きないとと思って、アラームかけてたんだよ」
「なるほどね」
御子柴は星名の前で全裸になるわけもいかず、替えの下着を持ってバスルームにとって返そうとしたが、星名があっちを向いてるからと声をかけたので室内に戻った。
「気を遣わなくても大丈夫だよ」
「だからって、若い女の子の前でハイそうですかと全裸になってもね」
星名に背を向けて、白い半袖のYシャツにスラックスといつもの服装に身を包んでいく間に、星名も昨日とはタンクトップの色だけ違う服装に着替えていた。
「今日はどこに行くの?」
「まずはH社だ。死んだ横関の人柄やここ数日の様子などを聞き込んでいく」
「あたしも行っていいの?」
「ああ。いいよ。でも君は口を開かずに、相手の表情や反応をさりげなく見ておいてくれないかな」
「わかった」
星名は御子柴の顔を見て、うれしそうに口元をほころばせた。初動調査に同行するのは初めてなのだ。
そのほころんだ口元を見て一瞬「かわいい」と素直に言いかけた。危ない。
しかし。それを星名にさとられてはいけない。
男女の関係に優劣や勝ち負けなどないが、親子ほど年下の娘に惚れるわけにはいかないという自分の変な男としてのプライド、仕事へのプライドの両方に気づき、御子柴は苦笑するしかない。
人によっては、御子柴の切れ長な目で見られながら質問されるよりも、星名に何気なく訊かれたなら答えてしまう可能性もあるだろう。
今までそうして来なかったのは、若い女性を違法な可能性がある物件の現場に立ち合わせるのがはばかられたからである。
しかし今回はただの調査だ。御子柴の勘が警告を発しなければ問題無い。
星名と一緒に部屋を出て、人がすれ違える最低限のスペースを確保した廊下を少し歩き、エレベーターに乗ってロビーへ出る。
フロントにキーを預ける際、隣の部屋をもう一部屋借りることはできないか尋ねてみると、スタッフは同情めいた眼差しを御子柴に向けて、申し訳なさそうに首を横に振った。
彼は御子柴を待っている星名にチラチラと目をやりつつも、行ってらっしゃいませと丁重に二人を送り出した。
御子柴は怪訝に思いつつも、星名の恵まれたルックスに心を奪われる男性が多いのはいつものことなので、気にせずに駐車場行きのエントランスから出て、車に乗り込んだ。
車内時計がさす時刻は11:00すぎであった。
まずは昼食を済ませ、アポイント先に向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます