第3話 甘々
そんな事を思いながら中庭に戻ると。友美は居なかった。これは振られたのかな?
私は芝生に座ると、少し寂しかった。
「誰だ?」
柱の裏から声がする。それは友美であった。
「友美は何故隠れているのだ?」
「私はSなの」
いや、性癖など聞いてない。まるで私がMみたいなことを言うな。
「寂しかったでしょう?」
「……少し」
本音が漏れると友美はニタニタする。ううう、負けた気分だ、いや、本当にSMなのか?
「さ、お弁当の続きをしましょう。ミートボールもあるよ」
柱の影から隣に座る友美は上機嫌であった。再びお弁当箱を開けると、ミートボールを箸でつまみ、私に差し出す。
「はい、ミートボールだよ」
仕方がない、食べるか。不意にお弁当箱に触れると静電気の様にバチっとして、友美がキッチンでお弁当を作る光景が浮かぶ。本当に友美の手作りなのかと思う。
「どうしたの?」
友美は不思議そうにしている。いかん、ミートボールを食べるのであった。
「本当にいいのか?朝早く起きての手作りだろ」
私はミートボールを食べる前に友美に問うてみる。
「えへへへへ、二人分作るのも楽しいよ」
「そうか……」
私は素直になり、美味しそうなミートボールを食べるのであった。今日は快晴、小春日和である、この天気は友美の心の様に澄んでいた。
朝、目覚めると何も無かった。微睡の中でマベルと大樹の木の下で話していた。
しかし、目覚めると、独りである。
父親は仕事、母親は不倫、ペットの金魚に餌を与えるのが朝の日課だ。勿論、高校に通うより聖騎士の方がいいに決まっている。私は現実を深く受け止めて学校に行く準備をする。バスに乗り友美の乗ってくるバス停に止まる。
「達也君、奇遇だね」
「ああ、毎日の事とは思えないな」
何時からだろう、友美と仲良くなれたのは?確か宗教の勧誘から始まったのだ。
今から思えば友美の策だった気がする。友美は私の後ろの席に座り。ワイヤレスイヤホンの片方を差し出す。どうやら、同じ音楽を聴くのが気に入ったらしい。
バスに揺られながら音楽を聴くとマベルの事を思い出す。マベルはハーモニカを奏でるのが好きだった。異世界の音楽はヒーリングミュージックに近かった。そう、私はマベルの奏でた音楽に癒されたのだ。
不意にワイヤレスイヤホンからの音楽が止まる。後ろの様子を見ると友美は寝ていた。お姫様はお休みらしい。このまま、寝かせておくか迷ったがいつの間にか降りるバス停が近づいてくる。
私は友美の肩に触れると。友美の残留思念が流れ込んでくる。
ネグレクトか……。
友美も親の愛を知らない。
「あぁ……高校のバス停に着いたのね」
眼を覚ます友美は寂しそうであった。
「不思議な気分なの、心が満ち足りた気分です」
眠り姫の心の闇を見られたのは友美との関係の通過点なのかもしれない。そんな想いは何時かきっと。
何故か、祝日に友美と日帰り温泉に行く事になった。目的地は箱根で、観光する時間はない。日帰り温泉を解放している施設で温泉に入るだけである。
「鎌倉でも良かったのよね」
友美は何やらブツブツ言っている。
「あーのー、友美、何で日帰り旅行をするのだ?」
「デートに決まっているでしょ」
「日帰り温泉が?」
「熱海の方がよかった?」
「問題ないです」
この友美の実行力は将来苦労するな。大体、女子が日帰り温泉をチョイスするのは間違っているはずだ。それは化粧とか髪とか色々と問題があるはずだ。
「その顔、私のこと心配しているのね。大丈夫、化粧は色付きリップだし、髪は濡れても乾かすわ」
……。
「はい、問題ないです」
今日、二度目のセリフであった。昨日までセンチメンタルな気分は何処に行ったのだ。しかし、帰りの電車の中で横に座る友美は眠り姫の再現である。
やはり可愛い……。
私がキュンとしていると。外に雨粒が見える。雨か、天気がもってくれて良かった。
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