第2話 暗黙の了解

 片方のワイヤレスイヤホンを装着すると。最新の音楽が流れ始める。音楽など普段聴く習慣がない、私でも知っているヒットナンバーだ。


 しかし、この同じスマホから二人で同じ音楽を聴くのはまるでバッカプルのようである。


 これで二人の距離は縮まった気分だ。そして、友美の降りるバス停が近づいてくる。私はイヤホンを友美に返すと友美は『じゃ!』と言ってバスを降りる。


……。


 これで良かったのであろうか?やはり、異世界で聖騎士をしていた頃を思い出す。比べてはいけないと思いながらも寂しい気持ちになる。バスを降りる頃には辺りは真っ暗であった。


 私は友美から借りたワイヤレスイヤホンの残留思念を思い出していた。独りで夕食を食べながら音楽を聴く光景であった。私と同じ境遇であった。親の愛など知らずにただ生きくだけの世界であった。今度、異世界に転生したら一緒に行こうと誘うのも悪くない。そんな事を思いながら自宅に着くのであった。


 翌日、私は仮病を使い登校を午後からするつもりでいた。


 うん?


 友美から着信がある。確か数日前に携帯の番号を交換したのだ。


『達也君、仮病でしょう、私の勘は間違いがないから』


 コイツ、ウザい。私は自由であるはずだ。


『短期留学で出席日数が足りなくなるよ』

『あぁ、ありがと』


 気遣いは嬉しいが。私は二度目の挫折の中にいたのだ。この世界に絶望して実感はないが交通事故に合い異世界に転生した。そしてマベルと出会う。何度も言うが、私はマベルを失い二度目の挫折となったのだ。


『留年はカッコ悪いよ』


 友美の言葉に動かされて登校する事にすることにした。仕方がない、10時までに登校すれば遅刻扱いで欠席にはならなない。私は渋々支度をして登校する。


 今日は暖かく日差しが降り注いでいた。高校に向かうバスの中で上を見ていると一粒の涙が落ちる。これは未練の涙ではない。


 マベルへの未練ではなくテルーナ王国に戻れない事への涙だ。似たようなモノか……。


 私はスマホを取り出してゲームでもしようか迷う。


うん?


 友美の横顔の写真を見つける。こんな物撮ったのか。昨日のエピソードでお互い異性として意識している事は確認できた。


 私は再び空を眺める。手を伸ばしてテルーナ王国の事を思い出す。虚しさだけが残り私はどうしていいか分からないでいた。とにかく、テルーナ王国での出来事は忘れよう。


 そして、教室に着くと友美が寄ってくる。相変わらず、シャンプーのいい香りがする。


「泣いていたでしょ」


 はあ?いきなり確信の事を言うな。心苦しいが認めよう。私は下を向き落ち込んでいると。


「ぎゅーっとしてあげようか?」


 友美はそう言うと。私の背後に回り両手でぎゅーっとする。


「ここは教室だぞ」

「関係ないよ、だって、もう、クラス公認のカップルだもの」


 ふーう……。


 私は大きく息を吐くと諦めてきゅーっとされる。しばらくして、飽きたのか友美は私から離れると。


「えへへへへ」


 ホント、やれやれだ。マベルはおしとやかな性格であった為に困惑していた。


 私は中庭の芝生の上で横になり、昼ご飯を食べていた。食べる物は菓子パンであった。日中は更に気温が上がり晩秋とは思えないほど暖かく小春日和であった。


 しかし、隣には当たり前のように友美がいた。


「私のタコさんウインナー食べてよ」


 シャンプーの甘い香りと共に甘えてくる。そう、友美は自作のお弁当であった。故に、私に色々勧めてくる。


「タコさんウインナー」


 はいはい、食べますよ。諦めモードで、私が手でウインナーを食べようとすると。


「ダメ、だよ、この箸で食べてよ」


 友美はウインナーを箸で掴むと私の口の前に持ってくる。


 間接キスか……私は眼を瞑り現実逃避をしてタコさんウインナーを食べる。


「次は卵焼きを食べてよ」


 ここは少し反撃してみるか。


「違うだろ『それとも私を美味しく食べてよ』と言はないと」

「えー私食べられちゃうの?」

「そうだ」

「モジモジ、心の準備が……」


 ダメだ、どこまで、バカップルなのだ。


 私はトイレに逃げ込む。マベル、君はこの状況をどう思うと、失ったマベルに問いかける。トイレから出ると青空を見ながらテルーナ王国の事を思い出す。


 もう、異世界転生など望んではいけない。


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