第2話「99式自動貨車」(歩兵科部隊への配備)

 4人乗りの乙型は、16年秋より量産され、歩兵科・工兵科を中心に配置され、甲型とともに活躍した。


 第一に、前線間近への歩兵部隊独自(輜重部隊が必ずしも近くにいるわけではない)の必要品の輸送や、歩兵隊配備の

九二式歩兵砲(大隊砲)・四一式山砲(連隊砲)・九七式曲射歩兵砲

九四式三十七粍砲・一式機動四十七粍砲

などの牽引・輸送を行った。トラックや牽引車対応の機動砲や砲機動運搬車(牽引式)があるものはそのまま牽引できるが、車輪にサスペンションを持たない砲は分解前提(駄馬、もしくは人力で運ぶ)であり、また牽引の砲運搬車・弾薬車{牽引式)などもトラックでは牽引できない。このためトラックの荷台か被牽引車 (トレーラー)に載せる必要があった。

 99式自動貨車用に、99式と同じタイヤを使う被牽引車 (トレーラー・搭載量500kg)を、金剛製作所(アメリカのフルハーフ社の技術を導入して、民間用のセミトレーラーを開発)や朝日自動車(廃トラックをもとに戦時型のトレーラーを提案)がそれぞれ量産し、ともに「一号被牽引車」と制式命名されたが、通り名の「一号トレーラー」もしくは単に「トレーラー」と呼ばれた。朝日自動車のトレーラーは99式の荷台と同じ高さに荷台を置き、対して金剛製作所のトレーラーはシャーシに荷台を付ける形でタイヤハウスが荷台に出ている(ピックアップトラックの荷台を想像すれば良い)ため、嵩張るものは載せにくい反面、荷台が低く重心を低くでき、砲や弾薬などを運ぶのには喜ばれた。

人力中心の弾薬分隊に配属される人材は、花形とも言える歩兵隊の中にあっても兵役検査で低い評価を受けた体格が良くない者ばかりであったため、兵士の苦労は大きかった。

 例えば、1個歩兵大隊に対し大隊砲2門を擁する大隊砲小隊が付随するが、この99式自動貨車乙12台で編成し、2台が先行偵察・指揮連絡車、4台で砲2門+即応弾薬40発、4台で弾薬240発、残りの2台がガソリンその他の消耗品を荷台やトレーラーに載せることとなっていたが、以前はこれらすべて(約4トン)を人力で賄っていたことを考えれば、どれだけ兵隊の進軍・行軍能力を奪っていたのかが分かる。

 但し、この編成は、理想的な、優良部隊のものであり、半数以上の師団(特に戦時編成の2桁後半師団、3桁師団)では終戦まで輓馬・駄馬・人力が中心であった。


 第二に、前線の先行偵察(斥候)・連絡(伝令)の役割である。中隊ごとに中隊本部付きとして4〜5台(独立中隊では、これに小隊ごとに火力支援車として各1台)が配備された。

 先行偵察は単独移動が多く、せいぜい2台での活動であり、うまく敵に見つからずに済めばいいが、本来敵の状況を探るものであるので敵前線・先行部隊に出会うことがしばしばあった。したがって、索敵・先行偵察を担う車両には、後半に述べる火力増加のタイプや無線機搭載タイプ(2台編成の場合)のものが割り当てられることが多かった。


 第三に、火力支援である。

 ここで特記すべきなのは、武器への改造を基本的に許さない陸軍がこと99式自動貨車については、部隊ごとではあるが改造を許し、なおかつ有効なものを陸軍自動車学校宛に報告する「義務」を有する、という指示が陸軍自動車学校校長名(当時は落合忠吉少将)と大本営兵站総監部参謀長連名で出された。これは、単に輸送手段としてのトラック以外の利用法を検討するためであり、結果として「武装して戦闘車両化できる」

ことが認められ、99式自動貨車が中隊レベルにおける貴重な運営手段となったのである。

 武装強化の一例として、助手席側に軽機関銃1丁を置く(甲型・乙型ともに銃架を置き搭載できるようになっている)ことは当然として、後部座席(跳ね上げ式座席)中央に対空銃筒を置き、軽機関銃1丁を配置したものがある。軽機関銃として、十一年式軽機関銃・九六式軽機関銃・九九式軽機関銃などの制式兵器だけでなく、「チ」式七粍九軽機関銃(智式軽機関銃、ブルーノZB26軽機関銃など)の準制式兵器や、鹵獲品のイギリスのブレン軽機関銃・アメリカのブローニング M1918、中には九七式自動砲、航空隊の九八式旋回機関銃(MG 15 7.92mm機関銃のライセンス生産)や鹵獲品のブローニングM2重機関銃を搭載したり、後部の荷台に十五糎多連装噴進砲(5門の砲身を並行に配置しともの)で実戦に臨んだ部隊もあった。


 第四に、その機動力を活かして師団砲兵(連隊砲、野砲など)の前進観測の役割である。

 主に歩兵隊用に開発した近距離通信用の無線機である九四式六号無線機(全22kg、通信装置、発電装置、空中線材料、付属品、他材料)もしくはその改良版の軽無線機乙を後部座席一つに装備し、無線電話連絡に用いることを重視して通信距離は最低電話1km、電信では2kmを確保しており、連隊砲である四一式山砲(最大射程7,100m)の実戦交戦距離程度には十分役立っていた。(受信側の能力が高いため、通信距離は倍以上になる)

 中には、94式対空3号無線機(地上から飛行中の航空機に対する短距離通信用、車載されることが多かったのは本来落下傘部隊用の4号)を搭載し、戦闘機の救援を依頼したり、九八式直協・九九式襲撃機に対して地上目標を誘導したり、観測機からの野戦重砲部隊への間接連絡の役割を担っていた。送信装置、受信装置など一式全備重量は50kg。約30kmの距離で電話通信が可能だった。但し、よほど余裕がない限り単条と言えども垂直6m・水平20mの空中線を張ることができず、車体に固定された4m垂直アンテナ(折りたたみ・組み立て式)では、交信可能距離は半減していた。

 これら通信対応の自動車には機関部の電気系統に無線遮蔽(ノイズ対策)を施し、無線機用に発電機・バッテリーを強化、後席への直流コンセントの配置、地上へ鎖状のアース(通信時)を取り、垂直型2本(4本の場合もある)の空中線はアンテナ基部を車体に固定したため、通信機搭載の車両は見分け易い。この車は車体生産自体は豊田自動車であるが、通信機対応のための改修は横浜の京三製作所(豊田自動車が資本提携)が陸軍通信学校の監修のもとに通信機の搭載等を行った。

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