第37話 友達の力

「コルク……! しっかりして! 目を覚ましてよ……! コルクぅ!! うああああああっ!!」


 ユノちゃん……。ユノちゃんの方は、ワイバーンを倒せたんだね。良かった。でも、ごめんね。私、お姉様の魔法の直撃を受けて……。またユノちゃんを泣かせちゃった……。


「コルクが……あんな、黒焦げに……。あれじゃ、あの子は、もう……」


 ロゼお姉様たちの声が聞こえる。なんだ。まだ、私のことを気にしてくれる心は残ってたんだね……。


「……さあ。コルクは死んだ。あとは、あなたたちの番よ」


 やめてください。シャルお姉様。これ以上、お姉様に、人を傷付けて欲しくない……。でも、駄目だ。私は死んじゃったんだから……。


 ミルティちゃん。ごめんね。結局、助けてあげられなかった……。


 なんだろう。身体が温かい。まるで、天国にいるみたいだ……。


「コルク……!? あんた、身体が、再生してる!?」


「え……?」


 さっきまで動かなかった身体が、少しずつ動かせるようになってきた……。あれ? 私生きてる……?


 私は、試しに立ち上がってみた。何事もなかったかのように、普通に立てた……。服はあちこちボロボロになっちゃって、ちょっと、恥ずかしいけど……。


「……そ、そんな馬鹿な……。なんであなたが、再生能力を……?」


「いや、それは私の方が知りたいんですけど……。そうか! さっき、シャルお姉様を拘束した時!」


『お姉様、お願いします。ミルティちゃんの能力を返してください……!』


 私は、お姉様に“ヒッパレー”を巻き付けている状態でそう強く願った……! その想いが“ヒッパレー”に伝わって、お姉様からミルティちゃんの能力を引き剥がしていたんだ!


「……コルク、その力はようやく手に入れた私の全てなのよ! セイレーンの力を、私に返しなさいよォ!!」


「……“ライトニングケーブル”!!」


 シャルお姉様の両手から無数の魔力の管が伸びて……!? あれは、私と同じ力!? マズイ、あれに捕まったら、また能力を奪い返されてしまう!


「おりゃああああああっ!!」


「ユノちゃん……!!」


 ユノちゃんは、私の前に飛び出し、“ライトニングケーブル”を銛で全て薙ぎ払っていた……! 魔法を物理で防ぐなんて、本当に無茶苦茶だ……!


「……そんな!? 銛なんかで私の“ライトニングケーブル”を!?」


「やっちゃいなさい、コルク! あいつはもう、再生能力を持ってない!!」


「うん! “モットヒッパレー”!!」


「……うぐっ! 性懲りもなく、また拘束を!」


 よし、またシャルお姉様に魔力の糸を巻き付けた! 簡単に焼き切られないように数も増やした! でも、これじゃ、まだお姉様は捕まえられない!


「……“ライトニングボルト”!!」


「がはっ……!!」


 私の身体に雷が落とされた! 身体が焼ける……! 凄く痛いッ……! でも、我慢だ! さっきは怯んでしまったけど、今の私は、攻撃をいくら食らってもやられることはない! 私には今、ミルティちゃんの力が宿っているんだから!


 ミルティちゃん、一緒に勝とう!!


「うおおおおおおおおおっ!!」


 私はお姉様を思いっきり空中で振り回す! お姉様、覚悟してください! 私は何度もこうやって、“ヒッパレー”で強敵を倒してきたんです!!


「……うああああああッ!!」


 私は、渾身の力でお姉様を投げ飛ばした。シャルお姉様は、地面に叩き付けられ悲鳴を上げた。手が震える……。本当は、こんなこと……したくないのに……。


「はぁ……はぁ……」


 まだだ……。ちゃんと勝ったか、確認しないと……。


「……コ、ルク……」


「……さ、すが、私の、自慢の……妹……」


「シャ……シャル、お姉様……」


 お姉様は、最後に私のことを褒めて、微笑みながら、気を失っていた……。


「勝った……? 今度こそ、あのコルクが、シャルに勝った……?」


「やったあああああ! 里は救われたんだ! さすが、コルクだ!」


「コルク様! 私たちはあなたを信じていましたよ!」


 私の家族が、里の人たちが、私に感謝している……。なんで、今さら……。里中から歓声が上がる。私の名前を叫んで、私のことを称えている。


 でも、全然嬉しくないよ……。やめてよ。もう、私のことは放っておいてよ……!


「フンッ!!」


 ユノちゃんが、銛を地面に思いっきり突き立てた……! 地面には、大きな亀裂が出来ている……。


「黙りなさい!! あんたたちには、自分たちが今までやってきたことが、どれほどコルクを傷付けていたか分からないの!?」


 ユノちゃんの怒号で、里は静まり返った……。ユノちゃんは、まるで自分のことのように、悔しそうな表情を浮かべてくれていた……。


「シャルがあんな風になっちゃったのも、里が壊滅しかけてるのも、全部、あんたたちが招いたことよ……? それを自覚しているの……!?」


「ユノ、ちゃん……」


「コルク……。帰るわよ……。胸糞が悪いわ……」


 ユノちゃんに連れられ、私は里を立ち去った。……私は、最後に、気を失って倒れているシャルお姉様を見た。私は、お姉様のことは、救ってあげられなかったのかな……。


「コルク……? 大丈夫……?」


「……うん、大丈夫だよ。覚悟は、決めてたから……。ありがとう……」


「コルクは、本当に偉いね……」


 ユノちゃんは、シャルお姉様の代わりに、私の頭を撫でてくれた。柔らかい指の感触が本当にあったかくて、凄く安心出来た。……私の目から、その優しさが溢れ出ているかのようだった。


   ◇


「ジルちゃん! ごめん! 遅くなった!」


「コルク! 庶民!」


 私たちは、大急ぎでスシBARに戻ってきた。あれから5時間は経過している……!

2階の私の部屋のベッドで、ミルティちゃんが寝かされていた。その傍らで、ジルちゃんと侍女さんが看病してくれていたようだ。


 ミルティちゃんに早く能力を返さないと、手遅れになる!


「“ヒッパレー”! ミルティちゃんに能力を引き渡して!」


 私は、ミルティちゃんの胸に魔力の糸の先端をくっつけた。魔力の糸は、私の手のひらからミルティちゃんへ流れるような輝きを放っていた。これで能力は元に戻ったはずだ……! 良かった……。


「ミルティちゃん。もう大丈夫だよ……」


「ね、ねぇ……。コルク……。ミルティが、動かないんだけど……。さっきから、全然……」


「……え?」


 私は、必死にミルティちゃんに能力を返そうとして、気付いてなかったけど……。ミルティちゃんは、生気のない顔色をしていた……。


「す、すみません……。コルクさん……。先程まで手を尽くしていたのですが……」


 侍女さんが、涙を浮かべている。ジルちゃんの顔も、よく見たら涙で濡れていた。そんな。間に、合わなかった……?

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