第36話 追放令嬢の戦い

「“ヒッパレー”!!」


 私は自分の胸に“ヒッパレー”を放った。シャルお姉様の魔法には、今のままじゃ絶対に勝てない。反射神経と身体能力、そして魔力を可能な限り引き出す……!


「……やる気満々って感じね。所詮あなたも、他の家族と同じ。私のことを認めてくれない。愛してくれない……」


「なんと言われようと、私は、シャルお姉様を愛しています。だからこそ、私はあなたを止めるんです……!」


「……止められるものなら、止めてみなさい! “ライトニングバレット”!!」


「無理だぁ! コルクは出来損ないの魔法使い! 不死の力を手にしたシャルに敵う訳がない……! もう里はおしまいだぁ!!」


 お父様が錯乱する声が聞こえてきた。あなたは、あの時から何も変わっていないのですね……。でも、私は、あの時の私じゃない!!


「“ヒッパレー”!!」


「シャ、シャルの魔法を捉えたぁ!?」


 私は、魔力の糸で“ライトニングバレット”を釣り上げ、上空へと放り投げた。見える! 対応出来ている! 続けざまに放たれる“ライトニングバレット”を、私は全部釣り上げた!


「……凄いわ、コルク。あなたは、あの時から成長しているのね……」


「魔術師のブランと戦ったあと、私はずっと考えていました……。どうしたらもっと上手く立ち回れたのか。私に出来ることは他になかったのか……」


 そう、私はあの時、シャルお姉様に助けられなければやられていた……。だから、たくさん反省した。私のせいで、友達を心配させないように!


「……じゃあ、これならどうかしら。“ライトニングディヴィジョン”!!」


 一見“ライトニングバレット”と変わらない魔法。これなら、さっきと同じように釣れば……。そう思った次の瞬間、光球は破裂し、数が4つに増えていた!


「分裂する魔法……!?」


 雷の弾丸は、4方向から私に向かって飛んできている。私の魔力の糸は1本しか出せない。今まではこれが限界だった。……でも、今の私なら!


「“モットヒッパレー”!!」


 私は、“ライトニングディヴィジョン”と同じ数の魔力の糸を両手から伸ばす! 四方から私を狙う光球は、全て“モットヒッパレー”で捕らえた!


「お姉様、これ返しますっ!!」


「……ッ!」


 私は、“ライトニングディヴィジョン”を全てお姉様に投げ返す! お姉様に対抗するなら、お姉様の攻撃を利用するのが一番だ!


「……“ライトニングソード”!!」


 シャルお姉様は、手のひらから雷の剣を生成し、投げ返した光球は斬撃で全て薙ぎ払われてしまった。ブランとの戦いで、私はあの魔法に一番苦しめられたんだ……!


「……ふふ。この術を攻略出来なければ、あなたに勝ち目はないわよ?」


 お姉様が剣を構えて飛びかかってきた……! お姉様の言う通り、私は、お姉様の全ての魔法に打ち勝たないと、ミルティちゃんを救えないんだ……!


「“モットヒッパレー”!!」


「……“ライトニングソード”を受け止めた!?」


 私は、可能な限りの大量の“ヒッパレー”を生成する。そして、その魔力の糸を雷の剣に向けて一斉に伸ばし、剣をガッチリと拘束した。このまま一気に決める!


「……魔力が吸収されている!」


 “ヒッパレー”に雷の剣の魔力を引き寄せる。そして、“ヒッパレー”からお姉様の魔力を体内で受け取り、吸収した“ライトニングソード”を私の手のひらから引き出す!


「はぁッ!!」


「……ぐぅッ!」


 私は、そのまま雷の剣を突き出した。鮮血が私の頬に飛び散る。……お姉様の左肩には、“ライトニングソード”が深々と突き刺っていた。


「う、ぐぷっ……!」


 吐くな……! 戦いの最中なんだから……! こうでもしないと、お姉様には勝てないんだ……! 耐えろ、私……!


「ま、まさか……。コルクのクソダサ魔法が、シャルの雷魔法を上回るなんて……!」


「はぁ……はぁ……。サロンお姉様、離れていてください。シャルお姉様には、再生能力があるんですから。戦いはまだ、終わっていませんよ……」


「こ、この子、本当にあのコルクなの……!?」


 ミルティちゃんの再生能力は確かに強力だ。でも、ミルティちゃんがダメージを受けた時には、しっかり痛みを感じていた。なら、シャルお姉様にダメージを与えて、精神的に追い詰められれば……!


「……今のは驚いたわ。“ライトニングソード”を吸収して、さらに体内から引き出すなんて」


 雷の剣が突き刺さり、重傷を負っているにもかかわらず、シャルお姉様は涼しい顔をしている……。なんであんなに平然としていられるんだ……?


「……攻撃が効かなくて困惑しているって顔ね」


「……私は、再生能力についてずっと研究していた。だから、その弱点も把握している。私は傷が治るまでの間、雷魔法で脳の電気信号を一部遮断して、痛覚を一時的に感じないようにコントロールしているの」


 お姉様は雷の剣を引き抜き、すぐに再生してしまった……。しかも、精神的なダメージも期待出来ない……。やっぱりシンプルにダメージを与える作戦は駄目か……! もっとも、それが通用するなら、ロゼお姉様たちが勝利しているはずなのだから……。なら、次の策だ!


「“ヒッパレー”!!」


 私は、地中に魔力の糸を潜り込ませた。そして、大地を引っ張り上げるように命じる!


「うおりゃあっ!!」


 “ヒッパレー”で、辺りが影で覆われるほどの巨大な岩石を釣り上げた。この岩で押し潰して動きを止める! 再生能力があるシャルお姉様には、これくらいやらなきゃ勝てない! 手加減は無用だ! 岩は真っ直ぐお姉様に向かって飛んでいく……!


「……“ライトニングバレット”!」


 シャルお姉様の放った雷の弾が、岩石に命中し、岩は空中で大爆発を起こした! ……爆発で生じた煙幕と、砕け散った岩の破片が辺りに舞っている。


「……岩で押し潰そうとするなんて強引ね。でも、こんなことで私を止められると思って……」


「捕まえました、シャルお姉様……!」


「……えっ?」


 さっきの岩は目眩まし。本命は、お姉様に魔力の糸を巻き付けることだ。私は“ヒッパレー”をお姉様の指先まで覆うように巻き付け、シャルお姉様を拘束することに成功した!


「コルクが、シャルに勝った……!?」


 里からどよめきの声が響く。本当にこれで終わったの? 私は、お姉様を止められたの……?


「お姉様、お願いします。ミルティちゃんの能力を返してください……!」


「……よくやったわね、コルク。正直、ここまで戦えるなんて思っていなかった。……私は、あなたのことを認めるわ」


「シャルお姉様……」


 良かった……。これで終わったんだ。もう戦わなくて済む……。


「……最大の障壁としてね。“ライトニングショック”!!」


「うあああああああッ!?」


 な、なんだこれ!? 身体が痺れて! “ヒッパレー”に電流を流されてる! まさか、手を使わずに使える魔法……!?


「……あなたは、私の魔法に酷似した相手と戦った。だからこそ、対策もたくさん練ることが出来た。でも、あの魔術師が使えなかった魔法を、私はまだ持っているのよ」


 駄目だ……! これ以上電流を受け続けたら、私の身体が持たない! でも、魔力の糸の拘束を……解く訳には……!


「……“ライトニングボルト”!!」


「うわあああっ!?」


 お姉様の身体から“ライトニングショック”が空に向かって飛んだ! その魔法を雷に変化させて攻撃を!? 後ろに倒れてなんとか直撃は免れたけど、こうも新しい魔法ばかり使われたら対策が追いつかない!


 上空からの雷が“ヒッパレー”を焼き切り、拘束は解かれ、お姉様は再び身体の自由を取り戻してしまっていた……。


「……コルク。あなたには、無限の可能性を感じる。放っておいたら、私よりも遥かに強い魔法使いになる……」


 シャルお姉様の魔力が、今までにないほど高まっているのを感じる……。来る……! 大きい魔法が……! 早く、立ち上がらないと……! そして、撃たれた瞬間に魔法を分析して、すぐに対処する!


「……ごめんね、コルク。私の邪魔をするあなたは、ここで始末するしかないの……」


「……“ライトニングバースト”!!」


 視界が電撃で埋まるほどの大きな魔法……!? こんなの、防ぐことも、逃げることも出来ない……!


「お姉、様……」


 目の前が、真っ白になって……。駄目だ。もう、何も……見えないよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る