第34話 失意と決意

 シャルお姉様の手のひらから、“ヒッパレー”のような魔力の管が伸びていた。……その管は、ミルティちゃんの胸に繋がっていた。ミルティちゃんは、電撃を帯びていて、凄く弱っていた……。


「シャルお姉様……。大変です……。ミルティちゃんが倒れて……」


「……コルク。よく聞いて。私はこれから、魔法使いの里を潰しに行く」


「えっ、え……?」


 お姉様が何を言っているのか分からない。ミルティちゃんを早くお医者さんに診せないと……!


「……セイレーンから奪った再生能力。この力さえあれば、2人の姉にも対抗することが出来る……!」


 お姉様、やめてください……。そんな話、聞きたくない……。


「……あなたも、あの里に苦しめられたんでしょ!? 私と同じように! だから、私はあなたのためにも、奴らに復讐する! 悪しき風習を、ここで断ち切るの!」


「コルク……! 大丈夫!? 今、凄い音が聞こえてきて……!」


「ユ、ユノちゃん……」


「な、何よこれ……? なんでミルティが倒れてるのよ……。なんでコルクが泣いてるのよ……」


「……コルク。大丈夫よ。あなたのことは、私が救ってあげるから……! 必ずこの力で復讐を……!」


「なんで泣いてるのかって、聞いてるのよ!! シャルッ!!」


「……待ってて、コルク。すぐに終わらせる。“ライトニングバレット”」


「うわっ!? 魔法で煙幕を……!? 何も見えない……! 待ちなさい……!」


 一体、何が起きているんだろう……。分からない……。ユノちゃんが、シャルお姉様を睨みながら何か叫んでいて、辺りに土煙が舞っている……。なんで、こんなことになっているんだろう……。駄目だ……意識が……遠退いて……。


「あっ! コルク! どうしたの……!?」


「一体何事ですか……? これは……?」


「ジル……! ミルティが、コルクが、突然倒れて! ど、どうしよう……!」


「落ち着いてユノ……! 私の侍女は、回復魔法の心得があります……! 彼女に任せましょう……!」


 その会話を最後に、私の意識は途絶えた……。


   ◇


「コルクさんの失神は、極度のストレスによるものなので命に別条はありません。ですが、ミルティさんの方は……」


「そんな……。どうにかならないの……!?」


「魔法で無理やり能力を引き抜かれたんです……。その影響で、身体がどんどん衰弱し続けていて……」


 再び意識が覚醒した私の耳に、取り乱すユノちゃんと、ジルちゃんの侍女さんの声が聞こえてきた……。私は、地面の上に横になっていた。隣には、ミルティちゃんが、白い顔をして横たわっている……。


「ミルティちゃん……。お姉様……」


「あっ! コルク、気が付いたのね! あんた、急に気を失って倒れたのよ……!」


「無理もありません……。あんなことがあったんですから……」


 あんなこと……。そうか……。やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ……。


「私、お姉様の言っていたこと、なんとなく分かってた……。私は追放されたから、もしかしたらって……」


「コルク……? 無理しなくて良いわよ……。今は心を落ち着けて、ゆっくり休んで……」


「シャルお姉様は、旅に出たんじゃない……。私と同じように、家族から、追放されていたんだ……」


「え……?」


「今でこそ、お姉様は強力な雷魔法の使い手だけど……。初めて見たお姉様の魔法は、静電気しか起こせなかった……。それから、お姉様は、あまり屋敷に姿を見せなくなってしまって……」


「それから数週間後、シャルお姉様の静電気の魔法は雷魔法に成長していた……。きっと、魔法の特訓を、血の滲むような努力をしていたんだと思う……。でも、あの里は、持って生まれた上級魔法しか認めない……。結局、お姉様の努力は水の泡になってしまったんだ……」


「でも、その時の私は、まだシャルお姉様の身に起きていることがよく分かってなくて……。お姉様は努力を怠らない凄い人なんだって、そんな風に思っていた……。自分が無人島に追放されて、さっきのお姉様の憎しみに染まった顔を見るまでは……」


「その数日後、シャルお姉様が旅に出たとお父様から聞かされた……。あれは、本当は追放だったのに……」


「コルク……」


「私、ミルティちゃんを、シャルお姉様を助けに行きたい……! ミルティちゃんを、死なせたくない……! お姉様に、これ以上、過酷な運命を背負わせたくない……!」


「コルクがそう言うなら、アタシはどこまでもついて行くわよ……!」


「ちょ、ちょっと待ってください……! 行って勝算はあるのですか……!? それに、里がどこにあるのかも……」


「大丈夫だよ、ジルちゃん。私には“ヒッパレー”がある……」


「ごめん。アタシたちは、こういう時止まれないタイプの人間なの……!」


「えぇ〜っ……!?」


「お嬢様。庶民の考えは庶民にしか理解出来ぬものです。諦めましょう。……ミルティさんのことは私に任せてください。あなた方のお店に連れて行き、出来る限りの治療を続けます」


「気が利くわね……。頼んでも良い?」


「よし……。行こう、ユノちゃん……!」


 侍女さんは力強く頷いていた。ジルちゃんたちがいてくれて良かった……。


 シャルお姉様……。私は、魔術師のブランに苦戦していた。お姉様は、そんなブランを一撃で倒していたんだ。あいつとは、比べ物にならないほど強い……。私に、お姉様を止める力なんてあるのかな……。


 でも、ミルティちゃんも、シャルお姉様も、私の大事な人だ。私がやらなきゃ、駄目なんだ!

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