第27話 マチルダ・グリーンズ

「そう……。アタシがいない間にそんなことがあったんだ……」


 その夜。私はスシBARでユノちゃんに、ミルティちゃんの友達と出会ったこと、魔術師と戦ったこと、そして、シャルお姉様と再会したことを話していた。


「コルクも結構無茶するタイプよね……。でも、無事で本当に良かったわ……」


「ご、ごめん……」


「ミルティたちのために戦ったんでしょ? コルクのそういう熱血なところ、アタシは好きなんだから……」


「う、うん。ありがとう……」


「でも、次からはアタシにも相談しなさいよ? 出来ることはあまりないかもしれないけど、知らない間に事件に首を突っ込んでるなんて、やっぱり心配だからさ……!」


「うん、分かった……。えっと、そういえばユノちゃんの今日の成果はどうだったの?」


「お店のテコ入れのこと? う〜ん……。正直まだ、これだ!っていう物が思い付かないのよね……。みんなスシに苦手意識があるみたいだから……」


「そうか……。苦手意識を変えるのってやっぱり難しいよね……。私も、初めてスシを見た時はちょっと怯んでたし……」


「そんな訳で、もう1日だけ調査に行っても良い……? 今日は人気店を見に行っちゃったけど、人気店よりも、もっとニッチなお店にヒントがあるかもしれないからさ……」


「う、うん……。私は全然構わないけど……」


 普段は店のことに無頓着なユノちゃんが、珍しくやる気になっている……。なんだろう……。変なことが起こる前触れじゃなければいいけど……。


 翌日。


 ユノちゃんは予定通り、今日もスシ屋のユノだとバレないように軽く変装をして、他店の調査に出掛けていった。さて、2連休になっちゃった訳だけど、今日もミルティちゃんと一緒に過ごそうかなぁ……。


 その時、スシBARのガラス戸がノックされる音が聞こえてきた。ユノちゃんは休業中の札を下げたはずだ。お客さんがノックなんてするだろうか……? それとも、他の用件で誰か訪ねてきたのかな。とにかく、ユノちゃんがいないんだから、私が対応しないと……!


「あっ、えっ……?」


 ガラス戸を開けた私は、思わず間抜けな声を発してしまった。そこに立っていたのは、予想外の人物だったからだ。


「休業中失礼する。君はこの店の関係者なのかな?」


「あ、あの……。そうですけど……。何の用件なのでしょうか……」


 店を訪ねてきたのは、頑強そうな鎧を身に纏った騎士団だった。前に1人、後ろに4人の男性。並ぶように、一切の乱れなく綺麗な姿勢で立っていた。あまりの威圧感に私の喉は塞がりそうになる……。


 もしかして、魔術師と戦ってしまった件がマズかったのだろうか……。心臓の鼓動が苦しい……。私、このまま連行される……?


「情報があったんだ。この店に、海賊が潜んでいる可能性があるってね」


「か、海賊……!?」


 予期していなかった話題に、私は再び間抜けな声を上げた。それと同時に安堵していた。海賊は私とは全く無関係なのだから。きっとガセネタでも掴まされたのだろう。


「いえ、海賊なんていませんけど……。何かあったんですか……?」


「最近、とある海域で釣り大会が開かれていたのは知っているかね? そこで、手配書が出ている海賊によく似た人物が目撃されていたそうだ」


「そ、そうなんですか……」


 あの大会に海賊が……。全然気付かなかった。みんな真剣に釣りをしていたし、海賊だったら、一体なんのために大会に参加していたんだろう……。


「これがその海賊の手配書だ。もし何か気付いたことがあれば、我々に届け出て欲しい」


「はい、分かりました……」


 私に手配書を1枚手渡し、そのまま騎士団は店を後にした。き、緊張した……。何も悪いことしてないのに、なんで私はこんなに怯えているんだろうか……。


「えっと、これが指名手配されている海賊か……」


 私は改めて手配書を見た。海賊の名前はマチルダ・グリーンズ。右目に眼帯をしていて、金髪のポニーテールの少女だった。……なんでだろう。冷や汗が止まらない。私、こんな子知らないはずなのに。


 私は、この子によく似ている子を知っている……。


「ユノ、ちゃん……?」


 落ち着け。似てるだけだよ。だって、名前が全然違うし、ユノちゃんは眼帯をしてない。確かにユノちゃんは金髪だけど、髪型も違うし……。表情もこんなに怖くない。明るくて、優しい女の子なんだから……。


『ミルティも、悪い人間に騙されないように気を付けるんだよ!? 一見、良い人そうに見えていた人が実は……。なんてことはいくらでもありえるんだから……!』


 昨日のココちゃんの言葉が蘇った。やめてよ……。そんなことない……! 私は、何を考えているの……!? ユノちゃんは、私の大事な友達なんだから……!


「確か、記憶喪失って言ってた……。でも……」


 ユノちゃんは出会った時にそう言っていた。それなのに、初めて乗ったはずのボートの操縦は上手くて、まるで経験があるかのようだった。それに、ただのスシ屋とは思えない戦闘能力。あれは全部、海賊だったから……? 記憶喪失は嘘だったの……?


 無人島で遭遇した海賊は、ミルティちゃんを騙して、人身売買を目論んで、丸腰の女の子2人に大砲を撃ち込むような本当に最低な人間だった。もし、ユノちゃんも、セイレーンの不老不死の力を狙っていたら……? 今までのが全部演技だったら……?


 考えれば考えるほど、私はユノちゃんを疑ってしまう……。不安な気持ちと、友達を信じられない自分の情けなさに、心が痛む……。


「ユノちゃんを探そう……」


 ユノちゃんは町に調査に出掛けている。もし、騎士団とユノちゃんが鉢合わせてしまったら……? 人違いだとしても、疑われて連行されてしまうかも……。私は居ても立ってもいられず、店を飛び出していた。

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