第26話 再会

 シャルお姉様は、ほうきを砂浜に着陸させ、ブランの前に立ちはだかった。私は、予想外の姉との再会に、状況の整理が追いつかなくなっていた……。


「あ、姉ですってぇ……?」


「……久しぶりね、コルク。しばらく会わない間に大きくなったんじゃないの?」


「シャルお姉様……。ど、どうしてここに……?」


「……なんだか分からないけど、この町に向かわなきゃって、そう強く感じたの」


 そうか! さっき“ヒッパレー”で念じたブランの特徴……。それは、シャルお姉様にも当てはまっていたんだ……!


「ふん! ポンコツの妹の姉が来たところで、所詮はポンコツでしょうが……!」


「……そう思うなら、試してみる?」


 シャルお姉様は、涼しい顔でブランの挑発を受け流した。その隙のない佇まいに、ブランは動揺を隠せないでいる。


「くっ! “ライトニングボール”!!」


「……“ライトニングバレット”」


 ブランの光球とシャルお姉様の光球がぶつかり合った! ブランの放った魔法より小さなシャルお姉様の魔法は、あっさり“ライトニングボール”を貫通していた……!


「そ、そんな、馬鹿なああああっ!?」


 ブランは雷を纏った爆発を起こし、今度こそ、完全に意識を失ったようだった……。


「……あなたの魔法、魔力の糸が使えるのね。上空から見えていたけど、さっきの戦い、惜しかったわね」


「お、お姉様……。私……」


 私は、気まずくて俯いた……。自分の実力を過信して魔術師に戦いを挑んだこと。そして、魔法使いの里の風習。階級の低い魔法への差別。私はまた、家族から罵られるのが怖かった……。


「……ふふ。コルク。あなたも魔法を鑑定する歳になったのね。私も、15歳だった頃を思い出すわ」


「お姉様は……怒らないんですか……?」


「……何を怒ることがあるの? あなたは、あなただけの魔法で、あなたの守りたい者のために戦った。そうでしょ?」


「あ……」


「……私は、あれから世界を見て回った。だからこそ、里の価値観に疑問を感じたの。あなたは、何も間違ってない」


「ひぐっ……シャ、シャルお姉様ぁ……!」


 私は、溢れる涙を堪えることが出来なかった……。今まで溜め込んでいた想いが、涙と一緒に、溢れ出した……。


 そんな私を、お姉様は優しく抱き締めてくれた……。私は、全ての涙が枯れるまで、お姉様に身体を預けていた。


 しばらく泣いて泣き続け、私の心は、ようやく落ち着きを取り戻した……。


「……その子は、あなたの友達?」


「う、うん……」


「はじめまして、コルクさんのお姉様……! わたくし、ミルティと申します……! 」


「……コルクと仲良くしてくれて、ありがとね。この子、変に真面目だからいろいろ大変でしょ?」


「い、いえ! わたくしは、コルクさんに本当に良くしていただいております……!」


「……ふふ。セイレーンの友達か。大事にしてあげなさいよ?」


「は、はい……! 絶対に、一生大事にします……!」


「……ふふ。よろしい。じゃあ、私はこの男を騎士団に連れて行くから。もし、機会があればその時、会いましょう」


「はいっ! シャルお姉様……! 本当にありがとうございました……!」


 シャルお姉様は、空飛ぶほうきに跨り、そこにブランを指も動かせないようにチェーンで縛り付けて飛んでいった。……その姿が見えなくなるまで、私は見送り続けた。


「コルクさんのお姉様、素敵な人でしたね……!」


「うん……! 私もいつか、シャルお姉様みたいになれたら良いな……」


 正直、私は魔法使いに苦手意識を感じていた。みんな、お父様たちのような人間なんじゃないかと思っていた。でも、違った。魔法使いにも、良い人と悪い人が、ちゃんといるんだ……!


「ちょっと、君たち? 僕のこと忘れてない……?」


「あっ! ごめんココちゃん! 完全に忘れてた!」


「本当に忘れてたの!?」


 いつの間にか、ココちゃんも私たちの元へ合流していた。そうだった。ブランとの戦いは、ココちゃんを救うための戦いだった。いろいろありすぎて、そのことをすっかり忘れていた……。


「まぁ、お陰で僕を追い掛ける人間は退治されたみたいだし……。これなら、ミルティも逃げなくても大丈夫かな……? ミルティのことを守ってくれる友達もいるみたいだし」


「ココちゃん……!」


「でも、僕はまだ人間を完全に信用した訳じゃないから……! ミルティも、悪い人間に騙されないように気を付けるんだよ!? 一見、良い人そうに見えていた人が実は……。なんてことはいくらでもありえるんだから……!」


「もぉ~……。ココちゃんは心配性なんですから。分かりました……。気を付けます……」


「それじゃあね……! 人間! ミルティを泣かせるようなことをしたら許さないからね……!」


「うん……! じゃあね、ココちゃん……!」


 結局、ココちゃんが私に心を開いてくれたのかは分からなかったけど、ココちゃんを狙っていたブランは捕まえたんだし、良しとしよう。

 

 ココちゃんは、何度も後ろを振り返りつつ、海の中へと潜っていった。もう人間に、酷い目に遭わされることがなければいいな……。


「うぅ〜ん……。今日はゆっくり過ごそうとしてたのに……。なんだか真逆になっちゃったなぁ……」


「そうですね……。今からでも、ゆっくりしましょうか……?」


 初めての魔法使いとの戦い。久しぶりの姉との再会。短時間に消化するにはあまりにも濃厚な体験に、私は心身ともに疲れ果ててしまった……。そんな疲れを癒やすため、改めて、ミルティちゃんとの癒やしのひとときを過ごすことにしたのであった。

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