第25話 vs魔法使い
「2人とも、ひと気のない場所に隠れてて……!」
「コルクさん……! 本当に、大丈夫なんですか……!?」
「大丈夫。私には“ヒッパレー”があるし、策もある。私を信じて……!」
「わ、分かりました……! 気を付けてください……!」
ミルティちゃんとココちゃんが隠れたのを見届け、私は、自分の頭の中で立てた作戦を実行に移す。
「さて、やるぞ……!」
こんなことやるのは初めてだから、さすがに緊張感が半端ない。落ち着け。やれるのは私しかいないんだ。しくじる訳にはいかない……!
「“ヒッパレー”!!」
私は、“ヒッパレー”を天高く伸ばした。
そして、ココちゃんから改めて聞いた魔術師の特徴をイメージする。雷を使う魔術師。ほうきに乗って空を飛ぶ。身長が高く、髪は金色……。チャンスは最初の一度きり。
私はしばらくそのまま待ち続ける。これは釣りだ。罠に引き寄せられたところをそのまま捕まえる……!
“ヒッパレー”はセイレーンや鳥も引き寄せられる。だったら、人間も引き寄せられるはず……! そして、私は、人間よりも大きな魚を捕まえることが出来るんだ!
「き、来た……!!」
上空に、ほうきに乗った魔術師の姿が見えた……! 明らかに“ヒッパレー”に引き寄せられている……! 近付いたところを一気に捕らえる!
「“ヒッパレー”!!」
「うおわぁっ!? な、なにこれぇ!?」
不用意に魔力の糸に近付いた魔術師を、私は“ヒッパレー”で一気に締め上げた……! 身動きが取れなくなったのを確認して、私はそのままゆっくり地面へと降ろした。
「な、なんなのよ、アナタ……。これは一体どういうつもりよぉ!?」
捕まえた魔術師は、女口調の若い男だった。人違いでした。なんてあってはならない……。本当は、ココちゃんから“ヒッパレー”で映像の記憶を送ってもらうのが一番なんだけど、人間に不信感を抱いている彼女の頭に、見るからに怪しい“ヒッパレー”をくっつけることなんて出来なかった……。
自分で確かめるしかない。爆発しそうな心臓の鼓動を誤魔化しながら、男の正体を探る。
「セイレーンのこと、知ってますよね……?」
「セイレぇーン? 何よ? アナタも永遠の命を狙ってるクチなワケぇ? 不老不死を叶えるのは、アナタみたいなちんちくりんじゃなくて、この偉大な魔術師のワタシ、ブラン様よぉ!」
「不老不死の話は迷信らしいですけど……」
「迷信んん? なんだってそうよ。この世には不確かな物はいくらでもある。でもね、そういう話が出回るってことは、何かそれに近い物が潜んでいる可能性が、大いにあるってことなのよねぇ!」
駄目だ……。話し合いが通じる相手じゃなさそうだ。だったらこのまま、騎士団にでも引き渡すしかない。ココちゃんは、この人は海賊に雇われた用心棒だって言ってた。最後にそれも確認してみよう……。正直に話すかは分からないけど……。
「あなたは、海賊の用心棒なんですよね……?」
「何よそれ? ワタシは海賊なんて低俗な奴らとは組まないわ! だって、ワタシの魔法で破壊と略奪なんて朝飯前なのだから! 海賊なんかよりワタシの武勇伝の方が遥かに上よ! 上!」
やっぱり海賊の仲間だとは認めないか……。でも、悪事を働いていることは隠せていない。正直安心した。それなら、遠慮なくこのまま罪人として引き渡すことが出来る……!
「……アナタ。随分余裕たっぷりって感じだけど。ワタシがこの程度の魔法に、拘束されているとでも思っているのかしらん?」
「えっ……!?」
「“ライトニングソード”!」
ブランは、指先に纏った雷の刃で“ヒッパレー”を切り裂いていた……。そ、そんな、“ヒッパレー”がこんなにあっさり切られるなんて……!?
「ふふふ……。可愛いわねぇ。動揺しちゃって……。自分の実力を見誤った井の中の蛙ちゃんかしら?」
マズイ……! 両腕を使えないように拘束してしまえば、反撃出来ないと思っていたのに、指先の魔法で拘束を解くなんて……! 私は、本当に井の中の蛙だった……!
「さぁて。どうしてくれようかしら? アナタのその可愛い顔が醜く歪むくらい、お仕置きしちゃおうかしらぁん?」
落ち着け……。相手は私が格下だと確信して油断している……。“ヒッパレー”の応用。それに賭けるしかない……!
「痺れちゃいなさい! “ライトニングボール”!!」
「うわあっ!?」
ブランの右手から雷の魔法が放たれ、私の頬を光球が掠めた! は、速い! 反応が間に合わない……!
「ふふふふ! 弱い者いじめって、本来ワタシの趣味じゃないんだけどぉ、アナタの反応は妙にそそるわねぇ! 新しい扉を開いちゃいそうよぉ!」
雷の魔法は、わざと私のギリギリを狙って撃ち続けられている……! 強い! 私なんかより、魔法が洗練されている……。このままじゃ、負ける……!
私は横目でミルティちゃんたちが隠れている場所を確認する。ミルティちゃんは、今にも飛び出して来そうだった……。負ける訳にはいかない! 私を信じてって、言ったんだから……!
「“ヒッパレー”!!」
私は、“ヒッパレー”を自分に向けて放つ! そして、自分に眠っている能力を引き出すように念じる……!
「なぁにそれぇ? 自分を引っ張るなんて、ヤケになっちゃったのかしらん? じゃあ、そろそろ遊びはおしまいにしようかしら〜」
「“ライトニングボール”!!」
「……!!」
見える……! さっきまで反応出来なかった魔法が、まるで時間がゆっくりになったかのように、どこに飛んでいくのかがよく分かる。私は、“ライトニングボール”を余裕を持って回避した……!
「よ、避けたぁ!? こんなの、マグレよ、マグレ!!」
“ライトニングボール”は私に向かって撃ち続けられる。でも、全部見える! “反射神経を限界まで引き出した”私は、全ての光球を避け続ける……!
「キィーっ!! 生意気よ! アナタァ!! “ライトニングウィップ”!!」
新しい術……! でも、問題ない! 見えている!
「“ヒッパレー”!!」
「な、なんですってぇ!?」
私は魔力の糸で雷の鞭を引っ張って千切った! そして、そのままブランを“ヒッパレー”で再び巻き付ける!
「うおりゃあああああっ!!」
「ぐぎゃああああああっ!?」
魔力の糸で拘束したブランを、空中で一回転させて地面に叩きつけた! ブランは、白目を剥いて気絶していた。
「はぁ……はぁ……。あ、危なかった……」
「コルクさん……っ!!」
勝利に安堵していると、ミルティちゃんが後ろから私に抱きついてきた。その両腕は、弱々しく震えていた……。
「心配しました……! やられちゃうんじゃないかって……!」
「ご、ごめん……。本当にごめんね……」
「でも! コルクさんが信じてって言ったから……! わたくしは、信じていました……!」
「うん、ミルティちゃん……。ありがとう……」
私は、自分の魔法がハズレ魔法なんかじゃないって、そう思いたかった……。きっと、他の魔法に負けないくらいの凄い魔法なんだって、思いたかった……。
でも、現実は違った。やっぱり、階級の高い魔法は強かった……。今回は、たまたま相手が油断していたから勝てたけど、もし、そうじゃなかったら……。私は……。
「ぐぎぎぎ……! ワタシが、この程度で、やられるなんて、思ってるんじゃあないわよぉ!!」
「“ライトニングソード”ォ!!」
えっ……? まさか、まだ意識があったなんて……。雷の剣が、私の胸に向かって伸びていく……。見えているのに、足が、動かない……。
「コルクさん!!」
「終わりよぉ!!」
駄目だ。もう、死ぬ……。
「……“ライトニングバレット”」
私に迫る雷の剣。それが私の胸を貫こうとしていた時だった。雷の剣は、雷の弾丸に掻き消されていた……。一体、何が起こったのか……。
雷の弾丸は上空から放たれていた。私が上を見上げると、そこには、ほうきで空を飛ぶ人物の姿があった。
「なっ!? アナタ、何者よぉ!?」
「……私は、この子の姉よ」
「え……。シャ、シャル……お姉様……?」
私の窮地を救ったのは、魔法使いの里を旅立っていた3番目の姉、シャルお姉様だった。
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