第24話 良い人間と悪い人間

 巨大ウナギの口の中から現れた、セイレーンのココちゃん。人間への警戒心が凄くて、彼女はミルティちゃんを連れて逃走を図ろうとしていた……。


「ココちゃん、一回落ち着いて……! ココちゃんをウナギから助けたのは、コルクさんなんですよ!?」


「あんなの偶然だよ! ド悪人な人間は、誰かを助けようなんて気持ち、持ち合わせてないんだよっ!」


「あの、2人とも、取り込んでるところ悪いんだけど、ちょっとウナギを海へ逃してあげても良いかな……? このままだと弱っちゃうから……」


「えっ? ど、どうぞ……」


「ありがとう、ココちゃん」


 私はココちゃんの了承を得て、“ヒッパレー”で持ち上げて、ウナギを海へ帰してあげた。口の中がスッキリした巨大ウナギは、機嫌が直ったようで優雅に沖へと泳いでいった。


「ほ、ほーら! ココちゃん! 見ましたか! 今のを! コルクさんには、ウナギさんの命を助けてあげる優しさがあるのですよっ!」


「ふ、ふんっ! あんなのたまたまだよっ! その日の気分で逃してあげてるだけ! 人間は、命を弄ぶド最低な生き物なのさっ!」


 まぁ、確かにココちゃんの言う通り、ウナギはたまたま逃してあげただけなんだけど……。それにしても、どうしたらココちゃんと仲良くなれるのかな……。


「ほらっ! ミルティ、早く逃げ……」


「あっ! ココちゃん!? どうしたんですか!?」


 ココちゃんが急に倒れた! 私は急いで2人の元へ駆け寄った。ココちゃんは、青白い顔で苦しそうにしている……!


「ど、どうしよう! お医者さんに診せた方が……! でも、セイレーンを診てくれるお医者さんなんているかなぁ!?」


「コ、コルクさん、落ち着いてくださいっ! 今はとりあえず、ダメ元でもどなたかに頼んでみるしか……!」


「う、うぅ……。お、お腹が……すいた……」


 私とミルティちゃんは、ココちゃんの言葉を聞いて2人して顔を見合わせた……。前にも同じようなこと、あったような……。


「ふぅ、待ってて、今何か食べ物を探してくるから……」


「コルクさん、すみません……。わたくしの友達がお手数おかけしまして……」


 それから私は、港町で持ち運べそうな食べ物を探した。ココちゃんの好みが分からないし、とりあえず、スープとパンで良いかな……?


 数分後。


「ほら、ココちゃん。ご飯持ってきたよ」


「コルクさん、ありがとうございます……!」


「ふ、ふん……。そ、そうやって、僕を油断させて、毒の入った食事を食べさせるつもりなんだ……」


「まったくもうっ! まだそんなことを言ってるんですか!? だったら、わたくしが代わりに全部食べちゃいますよ!?」


「そ、それは困るぅ……!!」


 ミルティちゃんの言葉で観念したココちゃんは、ようやく私が買ってきたバスケットに入った数種類のパンと、木の器に入ったスープを食べてくれた。


「お、美味しい……。人間のご飯のクセに……。うぅ、屈辱だぁ……。美味しすぎるぅ……。ううううう……」


「良かったぁ……。ココちゃんの口に合うか心配だったんだ……。美味しいって言ってくれて安心したよ」


「う、うぅ〜……!」


「ほらっ! いい加減認めたらどうですか!? コルクさんは良い人なんですよ! お礼も言えないなんて、失礼なんじゃないですか!?」


「わ、分かったよ……。ごめんなさい……。コルクさん、どうもありがとう……」


「いやいや! ココちゃんの気持ちも凄くよく分かるから! 私は気にしてないから、大丈夫だよ……!」


「うぅ〜……! 良い人すぎるぅ……! こんな人間がこの世にいるなんてぇ……!」


 ココちゃんは泣きながらパンとスープを頬張っていた……。私なんかより、もっと良い人もこの世にいるから……。


「ふぅ……。お腹いっぱい……。コルクさんのお陰で助かりました……」


「どういたしまして。ココちゃん、いろいろあったみたいだけど、どうしてウナギの口の中にいたの?」


「そうですね……。そういえば、どうしてあんなことになっていたのでしょうか……」


「僕は人間から逃げてきたんだよ……」


「に、人間から……!?」


 ココちゃんは、真剣な表情で、今までの自分の身に起きたことを話してくれた。


「雷を飛ばす魔術を使う人間だよ……。僕たちの肉を食べれば不老不死になれるなんて、そんな馬鹿げた迷信を信じてる奴さ……」


「あ、やっぱりあれって迷信だったんだ……」


 以前、海賊が話していたことを思い出した。あの海賊はすっかり信じ切っていたけど、不老不死なんてもの、そう簡単になれるはずがない……。


「とある海岸付近を泳いでいたら、たまたまセイレーンを探し回ってる海賊に見つかっちゃって……。空を飛びながら僕をずっと追い掛け回してきて怖かったよ……」


「海賊が空を飛んだの……!?」


「なんか、海賊が雇った用心棒の魔術師だとかなんとか言ってた……。それで、どこかに隠れられる場所はないかと思って、慌てて飛び込んだのがウナギの口の中だったってワケ……」


 人間に命を狙われていたんだ。警戒心を抱くのは当たり前だよ……。自分の身勝手な願いのために、セイレーンを狙うなんて許せない……。


「だからミルティ、ここは危険なんだよ! 僕と一緒に、どこか遠い所へ逃げよう……!」


「えっ……。で、でも、わたくしは……」


 ミルティちゃんは、困った表情で私の顔をじっと見つめている……。私と離れたくない。そう思ってくれているのかな……。私も、ミルティちゃんとお別れなんて、そんなの嫌だ……!


「とりあえず、その悪い人間を捕まえれば良いんだよね……?」


「えぇっ……!? コルクさん、何言ってるんですか!? に、人間同士で戦うつもりなんですか……!?」


「セイレーンを狙う人間なんて、このまま放っておけないよ……。だったら、こっちから仕掛けようと思うんだ……」


「君は、人間よりセイレーンを選ぶっていうの……?」


「私は、友達を助けたいだけだよ……!」


「コ、コルクさん……」


 本当は、私のやろうとしていることは正しいのかどうか分からない……。でも、このままじゃ、ミルティちゃんと一緒にいられなくなる。結局、私も自分のワガママを貫きたいだけなのかもしれない……。

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