魔法使いと海賊編

第23話 ミルティの友達

 釣りタイ会で優勝を収め、大きな額の賞金が入ってきた。スシBARの生活にゆとりが出てきた頃、ユノちゃんがこんなことを言い出した。


「アタシはスシ屋が本業なのであって、漁師ではないのよ……」


「え……? そ、そうなの……?」


「そうなのじゃないわよ! あんたはこの店に住んでるんだから、それは分かってるでしょうが!?」


 最近は釣りに出掛けることが増え、ユノちゃんはスシBARのことを忘れているんじゃないかと思っていたが、そんなことはなかった。


「でも、客足が少ないのも事実……。だから、アタシはテコ入れをする方法を模索することにしたのよ!」


「そ、そうなんだ……。それで、具体的にはどうするの?」


「それをこれから考えるのよ! という訳で、アタシは、この港町で人気のあるお店に潜入調査に出掛けるから、今日は『MAGOKORO』はお休み!」


 結局お店休むんかい! と、思わず突っ込みを入れそうになるが、ここは我慢しておこう……。


「コルクも最近いろいろあって疲れたんじゃないの? 少し羽を伸ばしてきなさいよ」


「あ、うん……」


 でも、私は釣りを楽しんでいたから、そんなに疲れた感じでもなかったけど……。そう言葉を続けようとしているうちに、ユノちゃんは帽子と伊達眼鏡で変装してさっさと出掛けてしまった。


「お休みかぁ……。どうしようかなぁ……」


 とりあえず、やっぱり私はミルティちゃんに会いたい。会おうとしなくても、いつもお店から出ると待っているんだけどね。


「コルクさん、おはようございますっ!」


 満面の笑顔に出迎えられ、私の心は癒やされ、思考が停止していく……。今日は何も考えずに、ミルティちゃんと2人でゆっくり過ごそう……。


 そんなこんなで、私とミルティちゃんは、ひと気のない海岸へ向かったのだった。砂浜でミルティちゃんと肩を並べて2人っきり。極上の癒やしのひとときが始まった。


「なんだか、2人っきりというのも久しぶりですね……! 出会った時のことを思い出します……!」


「そうだね~。あの時は大変だったなぁ……。今は毎日が楽しいし、無人島から脱出出来て本当に良かったと思うよ……」


 好きなことが思いっきり楽しめて、大会でも優勝出来た。こんなに充実している生活は、魔法使いの里に住んでいた時には経験したことがなかった。


「見たこともない魚を攻略するワクワク感も好きだけど、たまにはこうやって静かにゆっくり過ごす時間も、私は好きだなぁ〜……」


「分かります〜……。わたくしも、普段は海の中をひたすら漂って、夢見心地な気分を味わうのが好きなんです〜……」


 波の音を聞きながら、潮風を浴びて、隣には気心の知れた友達がいる。最高の時間だ……。いつまでもこうしてまったりしていたいなぁ……。


「んん……? あれはなんでしょう?」


 私がそう願っていた時、お約束と言わんばかりに何か不穏な物音が聞こえてきた。海の方を見ると、巨大な魚が砂浜に迫ってきているのが見えた。


「あれは、袋のように大きな口のウナギさんです……!」


「なんだか、不機嫌そうにしているように見えるけど……?」


 袋のようなウナギは、口を膨らませながら海の上で荒れ狂っている。せっかく静かなひとときを過ごしていたというのに、一気に騒がしくなってしまった……。


「私、ちょっとあれ釣ってくるよ」


 このまま暴れられると落ち着かないし、釣りが出来るチャンスだ。せっかくだから、あの魚に釣り上げる快感を味わわせてもらおう……!


「それっ! “ヒッパレー”!」


 魔力の糸の先端は、強い光を放つ。今回は目の前に釣りたい魚がいる。袋のウナギは   あっさりと“ヒッパレー”に喰い付いていた。


「それっ! 釣れた……!」


「わぁっ……! さすが、コルクさん……! 見事な釣りっぷりでした……!」


 釣り上げられた巨大なウナギは、宙を舞いながら砂浜に落下した。ウナギは、私とミルティちゃんがまるまる飲み込まれるほどの大きさだった。


「大きいなぁ……。今はユノちゃんもいないし、この魚は海へ逃がすしかないかな」


 “ヒッパレー”で、ウナギを沖の方へ運ぼうとしていた時、ウナギの口がモゴモゴと蠢いているのが見えた。一体、何が……。


「ぶはぁーっ! 死ぬかと思ったぁーっ!」


「えぇっ!? 誰っ!?」


 ウナギの口の中から、女の子の上半身が飛び出してきた。ミルティちゃんと似た鮮やかで綺麗な髪色の女の子だ……。


「あっ! あなたは、ココちゃん!?」


「ミルティ!? ミルティなの!? 良かった! 無事だったんだっ!」


「ミルティちゃんの知り合い……!?」


 ココちゃんと呼ばれた女の子は、ミルティちゃんを見るなりウナギの口から完全に脱出した。今まで見えなかった下半身は、ミルティちゃんのように魚の尾ひれのような形状をしていた。ココちゃんはセイレーンなのか……!


「えっ……。に、人間!? ミルティ、なんで君、人間と一緒にいるのさ!? 早く逃げなきゃ、食べられちゃうよ!!」


「あっ、いえ、コルクさんは悪い人間さんじゃないんです……!」


「悪くない人間なんてこの世にいる訳ないよ!? 人間はみんな、ド鬼畜でド残虐でドスケベな生き物なんだから!!」


「ド鬼畜でド残虐でドスケベ……」


 なんだか分からないけど、妙に傷付くことを言われつつ、ココちゃんはミルティちゃんをガッチリ抱き締めるながら、私から遠ざかっていく……。


「ココちゃん、落ち着いて……! ほら! コルクさんは、何も危害を加えようとはしてないですよっ!」


「騙されちゃ駄目っ! ああやって僕たちを油断させて、酷い目に遭わせようとしてるんだからぁ!」


 初対面なのに、私は、ココちゃんにめちゃくちゃ嫌われているようだ……。どうしよう、このままミルティちゃんを連れ去られそうな勢いだよ……。

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