第22話 怒涛の最終決戦!

 タイブレークの姿を確認しに向かったミルティちゃんは、体力を使い果たして意識を失った。これじゃ、ミルティちゃんの頑張りが無駄になってしまう……。


「悔しいわね……。みんな一生懸命やったのに、ここまでなんて……!」


 ユノちゃんが、震えた声で拳を握り締めていた。目には涙が滲んでいるのが見えた。そうだよ。みんな頑張ってた。私も悔しい……。ユノちゃんと同じ気持ちだ……。


 ジルちゃんの様子を見ると、タイブレークに追いつく寸前だった。今の彼女の実力なら、恐らく釣り上げられると思う……。


「ミルティちゃんが見た記憶を……私が引き継げたら良いのに……!」


 私がつい、そんなことを口走った時だった。“ヒッパレー”は勝手に発動し、ミルティちゃんの頭に引っ付いていた……!


「コルク! あんた何やってるの!?」


「いや、これは私の意思じゃなくて! ちょっと! “ヒッパレー”! ミルティちゃんから離れてよ!」


 私が慌てて引き離そうとしても、“ヒッパレー”は離れない! 怪しく輝きながら、ミルティちゃんの頭にくっつき続けている……!


「あ……。これは、水の中……!?」


 突然、私の頭の中に映像が浮かび上がった。水中を猛スピードで突き進み、空高く吹き飛ぶ映像。この映像は……ミルティちゃんが見ていた光景……!?


 何度も何度も吹き飛ばされ、景色がひっくり返る。実際に体験した訳じゃないのに、これを見ているだけで目が回ってしまう……。ミルティちゃんは、こんなに大変な思いをしていたんだ……。


「あっ! この魚は……!?」


 視界の中央に、普通のタイとは似ても似つかない厳つい魚の姿が映った。この魚がタイブレーク……!? 私が想像していた姿と全く違っていた。これじゃ、“ヒッパレー”に正しく伝わらないのも無理はないよ……!


 その直後、再び視界は空を舞った。最後は、ボートに戻り、私とユノちゃんが映ったあと、スケッチブックに絵を描こうとする場面で映像は途切れた……。


「コルク!? コルクどうしたの!? しっかりして……!」


「あっ……。ユ、ユノちゃん……?」


 ミルティちゃんの映像を見終えた私が我に返ると、ユノちゃんが心配そうな顔で私の肩を揺すっていた。


「2人して意識失うなんて! こんな状況でアタシ1人にされたら泣くわよ!? 一体何があったのよ!?」


「ご、ごめん……。えっと、今、“ヒッパレー”から、ミルティちゃんが見た映像の記憶が送られてきたんだ……」


「映像の記憶を……!? そんなことまで出来たの……!?」


「引き出したり、引き寄せたり、“引っ張る”に関することなら、なんでもありなのかも……。いや、そんなことより! タイブレークの姿は確認出来た! 早く釣らないと!」


 ジルちゃんにいつ釣り上げられてもおかしくない……! もう一刻の猶予もなかった。私が海に向かって手を突き出そうとした時、ミルティちゃんの声が聞こえた。


「コルクさん……。勝たせてあげたかった……。うぅ……」


「ミルティちゃん……」


 意識を失いながら、ミルティちゃんは、夢の中でも私のことを考えていた……。その想いは、私がちゃんと引き受けたから……!


「“ヒッパレー”!!」


 私はタイブレークを思い浮かべながら、魔力の糸を思いっきり遠くへ伸ばした! “ヒッパレー”の先端は強く光り輝いている。すると、その光に引き寄せられ、凄まじい水飛沫が迫ってきた……!


「来た……! 絶対に釣り上げる……!」


 タイブレークが喰い付いた瞬間、“ヒッパレー”を放出している右腕が引っ張られた……! 私は、そのまま釣り上げるよう“ヒッパレー”に伝えた……!


「うわああああっ! 釣れたあああっ!」


 タイブレークは、魔力の糸の先端に喰い付いたまま飛び出してきた……! 私が勢い余って尻餅をつくと、タイブレークはボートの上に落下し、ビチビチと力強く跳ね回っていた。


「大会開始から5時間が経過しました! 大会終了です!」


 拡声器から、大会終了のアナウンスが響き渡った。そうか、もうそんなに時間が経っていたんだ。ギリギリの決着だった……。


 私たちとジルちゃんは、大会本部がある小島付近へと戻った。そこでボートに乗った運営スタッフが魚の数の最終確認をする。本当にこっちの数はジルちゃんを上回っているのか……? ちゃんと確認した訳じゃない。正直、かなり不安だった。


「ジルチーム37、コルクチーム38。よって、コルクチームの優勝です!!」


「優勝……! やった! やったよ! 本当に優勝出来たんだ……!」


「うん……! ミルティ、あんたのお陰よ……?」


 ユノちゃんは、ボートの屋根の下で眠っているミルティちゃんの頭を撫でていた。一緒に優勝の瞬間を味わえなかったのは残念だけど……ミルティちゃんは、眠りながら笑顔を浮かべていた。


「おめでとう……! コルク……!」


 シーホースに乗ったジルちゃんが、私の元へやって来ていた。ジルちゃんの目元は赤くなっていて、悔しくて泣いていたのが分かった……。それでも、握手を求めて来てくれた。


「ありがとう、ジルちゃん……! こんなに強いライバル、他にいないよ……!」


 私とジルちゃんは握手を交わし、激闘を繰り広げた釣りタイ会は、こうして幕を閉じたのだった。


   ◇


「さぁ! お疲れ様会よ! アタシの握ったタイの握り、どうぞ召し上がれ!」


「うわーいっ!」


 スシBAR『MAGOKORO』に戻った

私たちは、釣ったタイでスシパーティーを開いていた。そこには、ジルちゃんの姿もあった。


「ウマーいっ! 本当にユノちゃんのおスシは美味しいよ!」


「当然よ! ほら、あんたも食べなさいよ!」


「う、うん……。あっ、本当、美味しいです……!」


「お嬢様がお友達とお食事出来るなんて……。良かったですね……。お嬢様……」


 ジルちゃんは美味しそうにスシを頬張っていた。その隣では、侍女が涙を流していた……。


「うぅ〜ん……。ここは……?」


「あっ……! ミルティちゃん、ようやく目が覚めたんだね……!」


「コルクさん……。皆さん……。どうもおはようございます……。あっ! 皆さん、おスシ食べてる! ズルいです! なんで起こしてくれなかったんですか!?」


 店の中で寝かされていたミルティちゃんが目を覚ました。起きるなりスシに飛びつくその姿に、みんな、笑いが止まらなかった。

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