第20話 猛進のユノ!
私たちがタイを釣る糸口を見い出せない間に、他の参加者との差はどんどん広がっていく。このままじゃ、本当に負ける……!
「ミルティの偵察も、コルクの“ヒッパレー”も通用しないなんて……! アタシは、何も役に立ててないし……! アタシにも、2人みたいな凄い特技があれば良かったのに……!」
「ユ、ユノちゃん……」
思い詰めた表情のユノちゃんに、私は声をかけることが出来なかった……。そんな私に代わって、ミルティちゃんが身を乗り出して、真っ直ぐな瞳でユノちゃんと向き合っていた。
「ユノさん、そんなことありません! ユノさんは、いつもわたくしたちを引っ張って突き進んでくれます! おスシが握れて、ボートを操縦出来て、いろんなことに詳しい凄い人です! わたくしは、そんなユノさんが大好きなのですから!」
「ミ、ミルティ……!」
「そうだよ! 後ろ向きなユノちゃんなんて、ユノちゃんらしくないよ……!」
「コルク……。2人とも、ありがとう! アタシは、アタシのやれることをやる!」
ユノちゃんの瞳に光が宿る。そのままボートの操縦席へ乗り込むと、魚群探知機を凝視し始めた。
「カネメダイやツラレタイ、オレタイもいたんだから、他のタイも必ずどこかにいるはず……! ミルティでも見つけられないようなタイが、どこかに……」
真剣な眼差しで、ユノちゃんは魚群探知機を睨みつける。その姿に、思わず息を呑む。ミルティちゃんは、指を組んで祈るようにユノちゃんを見つめていた。
「ん……? 今、何か、一瞬見えたような……」
ユノちゃんは一度手の甲で目を擦り、そして再び魚群探知機を見つめた。瞬きを我慢しながら、集中し続けている……。
「あっ! いた! 見つけた! 一瞬だけ現れる妙な反応を! これ、かなり怪しいわ……!」
ユノちゃんは、何か手掛かりになりそうな反応を見つけたようだ。だけど、その表情はまだ険しかった。
「でも、これじゃタイなのかどうかも分からない……! このままじゃ、コルクにも釣れない……! こうなったら……」
「わぁっ!? ユ、ユノちゃん!? 何を!?」
ユノちゃんは、おもむろに着ていた服を脱ぎ捨てた……! 一瞬、ドキッとしたけど、服の下にはちゃんとビキニを着ていた。
「アタシが銛で一匹仕留めてくる! そうしたら、コルクも狙えるようになるでしょ?」
「だ、大丈夫なのですか……? どんな魚かも分かりませんのに……」
「引っ張って突き進んでくれるアタシが好きなんでしょ? だったら、まかせておきなさいよ……!」
「あっ、は、はいっ!」
ユノちゃんは、いつものようにニカッと笑った。この根拠のない自信。やると決めたら猪突猛進。それでこそユノちゃんだ……!
ユノちゃんは、ボートの運転席の傍らに備え付けられていた銛を手に取り、さらにゴーグルを装着すると海へ飛び込んだ。透明度の高い海だから、ユノちゃんの姿は、ボートの上からでも薄っすらと確認出来た。
「ユノちゃん……。頑張って……!」
今は、ユノちゃんを信じて見守るしかない……。ユノちゃんは海中で辺りを警戒している。魚群探知機の反応を思い出しながら、その周辺を探っているようだった。
その時、ユノちゃんが銛を構えた。そして、目にも止まらぬ速さで、銛を前へ突き出した!
「うおっしゃああああっ! 捕ったどおおおおおっ!」
海面から勢いよくユノちゃんが飛び出した……! 銛の先には、姿が消えたり現れたりを繰り返す謎のタイが突き刺さっていた。
「おーっと! 銛を使っての漁はポイントにはなりませんが、姿を消すのが得意なタイ、“キエタイ”を捕った参加者が現れました!」
「キ、キエタイ……!?」
なるほど。ミルティちゃんにも見つけられなくて、魚群探知機にもほとんど映らなかったのは、姿が消えていたからなんだ……!
「コルク、しっかりとキエタイを目に焼き付けなさい!」
「うん! これなら“ヒッパレー”で狙える!」
姿がなかなかはっきりしないキエタイを、私は目を凝らしてしっかりと記憶する。この消える魚を、私は釣りたい!
「“ヒッパレー”!!」
魔力の糸を投げ入れてから、すぐに手応えがあった。でも魚の姿は見えない。だからこそ、それがなんの魚なのか確信が持てた。
「よしっ! キエタイ、ゲット!」
ユノちゃんのファインプレーで、ついに私はタイを釣ることが出来た。さぁ、ここからが本番だ!
「ふふふ……。さすがは私のライバルです。そうでなくては、張り合いがありません……!」
「お嬢様がこんなに楽しそうに……。侍女として、とても嬉しく思います……!」
大会は終盤戦に突入し、私はキエタイ、ジルちゃんはカネメダイを順調に釣り続け、最終的に私たち2組が熾烈な戦いを繰り広げていた。
「おっと、どうやらコルクチーム、ジルチームが同点の模様。しかし、お互いに釣っていたタイの姿はもう確認出来ません!」
「ど、同点……!? これ、どうやって決着つけるの!?」
その時、私たちとジルちゃんの間を凄まじい速度で水飛沫が通り過ぎていった……! 私たちは、突然の事態に言葉を発することが出来なかった。
「え……。な、何、今の……?」
「どうやら、その時が訪れたようです……!」
意味深な言葉を放つ解説者。大会も大詰めという状況で、私たちの闘いは、新たな局面へ突入していたのだった。
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