第15話 大海フィッシング
「うわぁ、凄い! 気持ちいい!」
魔導モーターボートに乗った私とミルティちゃん。そして、運転席のユノちゃんは、沖で釣りをするためボートをひたすら走らせていた。
「3人も人を乗せて、こんなにスイスイ海の上を進めるなんて、このお船は本当に凄いですね……!」
「うっへへへ〜……。もっと褒めても良いのよ〜?」
ミルティちゃんにおだてられ、上機嫌でボートを走らせるユノちゃん。お金が無いことを忘れようとしているのかもしれない……。
「えーっと、確かあの辺でデカい魚を見たような気が……。この魚群探知機は、魚の微弱な魔力を感知するんだけど、まだ大きな反応は無いわね……。」
ユノちゃんは、魔力で動く魚群探知機とやらと岩場の特徴を比べながら、大物を発見したポイントを探している。こういうのって、ちゃんとした知識がないと見つけるのは難しいんだろうなぁ。
「あっ、わたくしが海中から様子を見て来ましょうか?」
「おっ! そうね、助かるわ! お願い出来るかしら?」
「はいっ! では、行ってまいりますっ!」
ミルティちゃんは勢いよく海へと飛び込んだ。ユノちゃんはボートを停め、ミルティちゃんの報告を待っている。しばらくすると、ボートの近くで水飛沫が上がった。
「ぷはっ! いました! あちらの方向に大きな影が!」
「よし、でかした! 全速前進!」
ミルティちゃんの指差した方へ、ユノちゃんはボートを走らせた。魚群探知機にも大きな反応が見え始めた。
「どうやらこの辺りみたいね。コルク、釣りの準備始めてくれる?」
「あっ、ひとつ説明し忘れてたんだけど、私の釣りは具体的なイメージがないと狙った物が釣れなくて……」
「じゃあ、“とりあえずなんでも良いから大きいの釣れろ”で良いんじゃないの?」
「そうしたら、この前はクジラよりも大きな魚が釣れたよ?」
「えぇ〜……? クジラはさすがに持って帰れないわ……。なら、1回姿を確認するしかないか……」
すると、ユノちゃんは海に向かって何かを撒き始めた。海面には、魚が何匹が集まっているのが見える。
「あの、あれは一体……?」
「撒き餌よ。ああやって魚を誘き出すの。集まった小さい魚を、大きな魚が食べる可能性もあるから」
「なるほど〜……。そんな知恵もあるのですね〜」
「ミルティも食べられないように気を付けなさいよ?」
「大丈夫です! わたくし、食べられたとしても再生出来ますので!」
「いや、グロいから、そんなシーン出来れば見たくないんだけど……」
そんな話をしていた時、大きな岩がひとつ、ボートの側まで流れてきた。私たちは、岩を眺めながら顔を見合わせている。
「ねぇ。ちょっと良い?」
「う、うん。何?」
「岩って、海面を流れて来ると思う?」
「いや、思わない……」
「ゴガアアアアアアッ!!」
岩が突然、咆哮を上げた。岩だと思っていた物は岩ではなく、岩の肌を持つ、全長5メートルはある大きな魚だった。
「あ、あれよ! アタシが見た魚は! あの岩肌にアタシの銛が刺さらなかったのよ!」
「あの魚を釣れば良いんだね!? よし、やるぞ! “ヒッパレー”!!」
魚の姿は確認出来た。あとはあの“岩の魚”を釣りたいと強く願うだけだ! 私は魔力の糸を海面へ投げ入れた。
「グオ、グガ、ゴガアアアアアッ!!」
岩魚は相変わらず、岩が激突する音のような厳つい咆哮を上げ続けている。私は意識を集中して、岩魚が釣れるように必死に“ヒッパレー”に念じた。……だけど。
「なんか全然釣れないわね……。あの魚は勝手に大騒ぎしてるし。何この時間……?」
「おかしいな……。今までこんなに釣れなかったことないのに……」
「わたくし、ちょっと岩のお魚さんを説得してきます!」
「えっ!? ミ、ミルティちゃん、それはやめた方が……」
ミルティちゃんは、私が制止するのを聞く前に海に飛び込んでしまった。このシチュエーション、前にも見た記憶が……。
「凄いわねミルティ。魚と話す特技も持っていたなんて」
「いやぁ、それは……」
「グオ! ゴガ! ゴッガアアアアン!」
「ぐごぐご? がつがつ、ごつごつ」
「ゴガガ! ガギゴギ! ズドゴガーン!」
「がごがが? うごがご、ごりごりら!」
「グッゴオオオオオオオオオン!!」
「ひぃぃぃぃっ!? すみません!! 全然分かりませんでしたぁ!!」
「何やってんのよ、あんたぁ!?」
心配していた通り、言葉が通じなかったミルティちゃんは岩魚に追われ始めてしまった……! 早く助けないと……!
「“ヒッパレー”!!」
“ヒッパレー”は岩魚の岩肌になんとか巻き付いた。私はそのまま釣り上げようとするが……。
「うわっ! 岩肌が取れた!?」
ボロッと崩れるように、岩魚から岩が取れて、魔力の糸も解けてしまった。身体の一部がこんなに簡単に取れるものなの!?
「ん……? あの魚、そういえば、どこかで見た記憶が……」
ユノちゃんが、顎に手を当てながら何かを思い出そうとしている間にも、ミルティちゃんは岩魚に追われ続けている……! 諦める訳にはいかない! もう一回チャレンジだ!
「“ヒッパレー”!!」
魔力の糸が、さっきよりも上手いこと岩魚の身体にぐるっと巻き付いた! よし、今度こそ、このまま釣り上げる!
「グゴ……ンゴガアアアアアッ!!」
「えっ……!?」
岩魚の全身の岩は、まるで爆発するかのように全て吹き飛んでいた。“ヒッパレー”も吹き飛ばされてしまった。自爆した!? 今、一体何が起こって……!?
「コルク! あそこよ! あれが岩魚の“本体”よ!」
ユノちゃんが指差した方向を見ると、そこには、中型の魚が、ミルティちゃんを追って泳いでいるのが見えた。少し大きいけど、なんの変哲もない“イワシ”だ。
「あれは“ロックフィッシュ”よ! 岩を纏って岩に擬態するイワシ! 本体は普通の魚の姿なのよ!」
「ロ、ロックフィッシュ!?」
そんなダジャレみたいな魚いるの!? 私が困惑しているのを尻目に、ロックフィッシュはミルティちゃんを追い続けている。岩をパージしたロックフィッシュの速度は急激に上がっていた……!
「そうか! さっきロックフィッシュが“ヒッパレー”で釣れなかったのは、本体が岩の姿じゃなかったからなんだ!」
「ひぃぃぃぃん! は、速いですぅ! このままじゃ追いつかれますぅ!」
「待っててミルティちゃん! 今度こそ釣り上げる!」
私は、“ロックフィッシュの本体”を釣り上げたいとイメージする。“ヒッパレー”の先端の玉は、私の気持ちとシンクロするように激しく光り輝き始めた。
「ウオ? ウオウオ?」
ロックフィッシュは、“ヒッパレー”の光に引き寄せられ、先端の玉にパクっと喰らいついた! よし、今だ!
「引っ張れええええええっ!」
「ウオオーン!?」
水飛沫が高く上がった。“ヒッパレー”の先端には、ロックフィッシュがしっかりと喰い付いていた。大きさは1メートルはある。岩を纏っていた姿よりもだいぶ小さくなってしまったけど、大物には違いなかった。
「や、やった……! 釣れたぁ……!」
心の底から感情が溢れるような感覚が私を襲った。くすぐったいような、心地よいような刺激。この感覚は、海賊に追われていた時に、“白い化け物”を釣った時にも感じていた。
「そうか……。私、今、“楽しい”んだ……」
釣り上げた時にだけ起きる現象。その正体に私はようやく気付いた。楽しい。めちゃくちゃ気持ち良い。もっとこの感覚を味わいたい……!
「やったわね、コルク! 狙っていた時より小さくなっちゃったけど、ま! 最初はこんなもんでしょう!」
「最初……?」
「そうよ! まだまだ海は広い! 釣れる魚は、これからもっともっと大きくなる! それは、あんたが一番よく分かってるでしょ?」
そうだ……。もっと釣りたい……。これが、“私のやりたいこと”なんだ!
「うん! 私、もっともっと釣りがしたい!」
「コルクさん……。なんだかとっても、キラキラしています……!」
私とミルティちゃんとユノちゃん。この3人なら、もっと楽しいことが出来る。もっと凄いことが出来る。私の未来は、希望に満ち溢れていた……!
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