第12話 ウニパーティー
ウニとの死闘を終えた後。私とユノちゃんは、今まで港町を苦しめていたモンスターを倒した者として持て囃されていた。
ミルティちゃんは、不死の力を持つ者として狙われているセイレーン。そんな事情もあり、私とユノちゃんとは別行動で、しばらく身を隠すことになってしまった。
それから私とユノちゃんは、港町の町長直々に賛辞を送られていた。白髪と白い髭をたくわえた、まさに町長という風貌をしているおじいちゃんだった。
「町を代表してモンスターと戦ってくれていたユノ殿が、甚大な被害を及ぼしていたモンスターを討伐してくださった! なんとお礼を申したら良いか!」
「まぁ、最後はアタシというより、ほとんどこのコルクがやってくれたんですけど」
「コルク殿! なんと、うら若きお嬢さんが、そんなにボロボロに薄汚れるまで戦ってくれたのですな! 本当にありがとうございまする!」
「あははは……。どうもどうも」
このボロボロは無人島で過ごしたせいなんだけど……。と、そんなカッコ悪いこと言えないので、私は笑って誤魔化すしかなかった……。
「それで町長。ひとつお願いがあるんですけど。あの馬鹿デカいウニ。アタシがいただくことは出来ますでしょうか」
「もちろん! 構いませんぞ! 討伐を果たしたのは他でもない、お2人なのですからな!」
(……よっしゃ、これこれ。これさえ貰えればもうなんでも良いわ!)
ユノちゃんは小声でヒソヒソと私に耳打ちしてきた。ユノちゃんは感謝されるのが苦手なようで、ずっとソワソワしていて早く切り上げたそうにしていた。
「では、町長。アタシはあのウニを売り捌……市場に提供する手続きをしなければならないので、この辺で」
「そうですか、何か困ったことがあれば、いつでも言ってくだされ」
町長はヘコヘコしながら立ち去っていった。野次馬も散り、ようやく解放されたユノちゃんは大きな溜め息をついていた。
「あぁ~……肩凝ったぁ……。ミルティも、もう出て来ても大丈夫よ!」
「ぷはっ、コルクさん、ユノさん。お疲れ様でした!」
「ごめんねミルティちゃん……。ミルティちゃんが一番身体を張ってたのに、仲間外れみたいになっちゃって……」
「いえ、わたくし、目立つ訳にはいきませんので……。わたくしのことを黙っていてくださって、むしろ感謝しています……!」
「ま! その代わり、アタシがたっぷり労ってあげるわ! 仲間内だけで祝う方が気楽でしょ?」
仲間……。今日一日で本当にいろいろありすぎたけど、ミルティちゃんとユノちゃんとは、仲間で友達になれたんだ。なんだか嬉しいな……!
「その前に、もうひと仕事あるけどね。コルクにあの化け物ウニの運搬、頼んでも良いかしら? あんなの運べる人、他にいなくてさ」
「あ、うん。“ヒッパレー”を使えば簡単に運べると思う」
私は“ヒッパレー”を唱え、巨大ウニを魔力の糸で引きずって市場まで運んだ。“ヒッパレー”の引っ張る力は、あんな大きさでも全く問題なく動かせるのだった。
さらに“ヒッパレー”でウニの中身を取り出し、いつの間にかユノちゃんが用意していた大量のカゴに分けていった。
「あ、あれが港で暴れていた巨大ウニか! なんてデカさだ!」
「あんなにデカくて、身の方はどうなってんだ!?」
市場では、海の男たちのどよめきの声が上がっていた。ユノちゃんは腰に手を当て、不敵に笑っていた。
「そう言うと思って、ここに試食分のウニを用意したわ! アタシはすでに味見済み。文句ない食材よ!」
「どれどれ……」
男たちはウニの小さな切れ端を試食していく。身体をビクビクと痙攣させている……。私はまだ食べてないから、本当に美味しいのか不安になるリアクションだ……。
「ぐわあああああっ!! なんじゃこりゃあ!! とんでもなくうめぇじゃねぇか!!」
「まろやかでクセもなく、それでいてコクのある味わい……。それがこんなに大量に……!?」
「フッ……。さぁ、どうする? いくらで買う?」
ユノちゃんの挑発的な笑みから、嵐のような値段交渉が始まった……。高い値段を付けた買い手からウニは売れて行き、あっという間に全て売れてしまった……。
「いやぁ〜、儲かった〜! 屋根の修理なんかもう余裕よ! うっは〜!」
「全部売れちゃったんだ……。私もちょっと食べてみたかったかも……」
「何言ってんのよ! もちろん、自分たちが食べる分は残してあるわ! 今日はこれでウニパーティーと洒落込みましょう! アタシが腕によりをかけてスシを握るから!」
「ウニパーティー……!」
ウニはパスタで食べたことがあるけど、スシにするとどうなるんだろう。完全に未知の領域だ……。
そんなこんなで、私たちはユノちゃんの店へと戻ってきた。今までゆっくり外観を見る余裕がなかったけど、お店は2階建ての木造建築で、私がぶち破ってしまった黒い瓦で覆われた屋根。ガラスと格子状の木の枠で作られた入口。その入口の上の方には、切れ込みの入った四角い布が垂れ下がっている。港町の他の建物とは雰囲気の違う、なんとも味わいのあるお店だった。
「さぁ! うにの軍艦巻きよ! 衝撃的な美味しさだから覚悟しやがれ!」
「こ、これが……!」
軍艦巻きとはなんとも物騒な響き。ウニは光り輝いていてとても美味しそうだけど、得体の知れない黒い紙のような物が、ライスに巻きつけられていた。スシはまだまだ謎多き食べ物だ……。私は手掴みで恐る恐る口へと運んだ。
「んぐっ!?」
口の中に濃厚なコクが溢れた! ライスが纏う磯の香りも良いアクセントになっていて、まさに軍艦から爆撃を受けたような破壊力だった……。
「ど、どう? 味の方は……?」
「あっ、ごめん! 美味しすぎて逆に何も言えなくなっちゃって……」
「ふふんっ! そうでしょう、そうでしょう!」
「むぐむぐ! 本当に、凄く美味しいれすっ!」
「ミルティちゃん、顔が凄いことになってるよ!?」
ユノちゃんは満足そうに頷いた。そんな私たちの傍らでは、ミルティちゃんが口いっぱいにスシを頬張っていた……。私は思わず吹き出してしまった。
「いやぁ〜! そんなに美味しそうに食べてもらえるとやっぱ嬉しいわねぇ〜! ほらほら! ウニなら食べ切れない程あるんだから! 遠慮しないでどんどん食べなさいよ!」
私たちは、夜がふけるまでウニを満喫した。本当に美味しくて、本当に楽しくて、最高の時間だった。
ウニパーティーの後。私は、予定通りユノちゃんのお店に住まわせてもらうことになり、お風呂にも入らせてもらった。無人島で入れなかった分、ようやく汗と汚れを落とせて本当に気持ち良かった……。
「はぁ~あ……。生き返る……」
お風呂の天井を仰ぎながら、私は今までの自分の人生が、幻だったように思えてきてしまった。昨日までの私は、魔法使いの里の屋敷に住んでいて、使用人にお世話をしてもらい、両親と姉たちにも優しくしてもらっていた。
それが、魔法が変わっているというただそれだけのことで、私の人生は大きく変わってしまった……。魔法使いの里では、恐らく今までも、まともに魔法が使えない人間は私と同じ目に遭っていたのかもしれない……。
「私は、知らないことだらけだったんだなぁ……」
屋敷でぬくぬく過ごしていた間は知らなかった人間の裏表。生きることの大変さ。友達というかけがえのない存在。短い間に、私はたくさんのことを学んだ、と思う。でも、まだまだだ。
「私はもう今までの生活には戻れない……。だったら、これからを、後悔しないように生きたい……!」
私は新たな決意とともにお風呂を出た。気分も身体もサッパリ! これから頑張ろう! ユノちゃんから借りた寝間着に着替えて、私は心地よい疲労感とともに眠りにつくのだった。
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