第11話 UNION

 飛行するウニの目のような物から赤い光線が放たれる! 私とユノちゃんはかろうじてそれを避けた……! 光線が当たった地面は、高熱でドロドロに溶けていた……。


「そんな武器もあるなんて聞いてないわよぉー!」


 トゲならユノちゃんの銛で防ぐことが出来るけど、あの光線は発射速度が速いし、銛で防げるような威力にも見えない。形勢は一気にひっくり返ってしまった……!


「また赤い光線が来る……! 仕方ない! 一旦ズラかるわよ!」


 私たちは、ウニの光線攻撃から逃れるため、やむを得ず港から町の方へと引き返し始めた。ミルティちゃんの方は上手く逃げられただろうか……。


「ウニさーん! こっちですー!」


「ミルティちゃん……!?」


 そうか、ミルティちゃんはこっちの状況がよく見えてないんだ! “ヒッパレー”が引き千切られたのに気付いて、また自分に攻撃を引きつけようとしてるんだ……!


「ミルティー! そいつはもう今までのウニじゃない! 早く逃げなさーい!」


「えっ……!?」


「ギギギィーッ!!」


「うああああああッ!!」


「ミルティちゃん……!!」


 空飛ぶウニがミルティちゃんに向かって飛び去り、その直後、ウニの周囲が激しく発光した。ミルティちゃんのあの悲痛な悲鳴……。光線に撃ち抜かれちゃったんだ……!


「ミルティちゃん! 今、助けに行くから……!」


「ちょっと待ちなさいよ! 闇雲に飛び出したらあんたもやられるだけ! 気持ちは分かるけど、あの子は再生能力があるって言ってた。まずは様子を見て……」


「ごめん、ユノちゃん。ここは譲れないよ……。ミルティちゃんは友達だから、今すぐ助けに行きたい……!」


「コルク……」


「無茶なことを言ってるのは分かってる……。でも、私はもう自分の気持ちに嘘をついて後悔したくない……!」


 私はさっき、ミルティちゃんと正直な気持ちで向き合えなかった。だから、どうしても助けに行きたいというこの気持ちに、嘘をつきたくなかった……!


「あぁ〜ッ、もう! 分かったわ! あんたの好きにやんなさい! 骨は拾ってやるから!」


「あ、ありがとう! 行って来ます!」


 私はウニへ向かって駆け出した。攻撃目標を見失ったウニは、すぐに私に気付いていた。光線を撃たれる前に、私は右手を前へ突き出す!


「“ヒッパレー”!!」


 魔力の糸は真っ直ぐ前方へ伸びていく。私が狙っていたのは民家の屋根。そこへ“ヒッパレー”の先端の玉を引っ掛けて固定させる。そして、私のことを思いっきり引っ張るように念じる。


「うぐッ!!」


「コルクが飛んだぁー!?」


 身体がグンッと前へ引っ張られた。魔力の糸に引っ張られる反動を利用して大ジャンプ! “ヒッパレー”で何かを引き寄せるのではなく、私自身を目的の場所まで飛ばす。咄嗟に思いついた割には上手く行った!


 赤い光線が私に向かって放たれたが、“ヒッパレー”の反動で高速で飛んでいる私の速度に追いついていなかった。このまま一気にミルティちゃんのところまで行く!


「おっとと! ミルティちゃん! どこ!?」


 私はウニの死角になる民家の影に着地し、再び港に戻ってきた。そのままウニに見つからないように海面を見渡す。ミルティちゃんの姿は見えない。怪我を負って弱っているのか、どこかに身を隠しているのか……!? 


「ギギギギ……」


 後方が赤く光るのが視界の片隅から見えた。ウニから光線が発射された!? しまった……。海を見てたから、反応が遅れ……。


「コルクさん!」


「ミルティちゃん……!?」


 私の前にミルティちゃんが飛び出してきた……! そのままミルティちゃんは自分の身を盾にして、私を庇っていた……。


「くああああああッ!!」


「ミルティちゃん! 大丈夫!? 私なんかを庇って……」


 ミルティちゃんのお腹は焼けただれていた。すぐに再生を始めているみたいだけど、苦痛で歪む顔が目に焼きついて離れなかった。ごめん……。助けようとして、逆にミルティちゃんをまた傷付けちゃうなんて……。


「私なんかじゃ、ないですよ……。コルク、さんは……友達、ですから……!」


「…………!」


 ミルティちゃんは、私のことを、痛い思いをして守ってくれた……。その思いを無駄にしたくない……! このまま、アイツにやられる訳にはいかない! 私はまた攻撃される前に、ウニに狙いを定めた。


「ギチギチギチ……」


 さっきからずっと気になっていたんだ。ウニのあの赤く光っている部分はなんなのか。あそこから光線は放たれている。だったら、あそこを攻撃すればいいじゃないか!


「“ヒッパレー”!!」


 “ヒッパレー”は発光体へ向かって突き進む! ウニの反応速度は、魔力の糸の速度に追いついていない!


「ギ、ギギィ……!」


 “ヒッパレー”の先端の玉は、鉤爪を持つ手の形に変形し、発光体をガッチリ掴んだ。また赤く輝き始めている。でも、これで終わりだ!


「引っ張れええええええっ!!」


「ギギィアアアアアッ!!」


 私は、発光体を思いっきり引き抜いた……! 本体から引き抜かれた赤い目は、弱々しく光を失い、ウニの上部は地面に墜落していた。


「ど、どうなったの……?」


 もう光線は飛んで来ない。トゲを飛ばす気配もない。ウニは完全に動きを止めていた。あの赤い目のような物体、やっぱり、あれがウニの弱点だったんだ……。


「大丈夫!? コルク、ミルティ!?」


「ユノちゃん……!」


「コイツ、もう動いてないわよね……? あんたが倒したの……?」


「ううん、私だけじゃないよ……!」


 私とミルティちゃんは顔を見合わせて笑った。これは、みんなで考えて行動して“引き寄せた”勝利なんだから。ユノちゃんも私の言いたいことを察して笑みを浮かべてくれた。


「それにしてもこいつ、一体なんだったの? あんなに苦労して討伐して、食べられもしないとなると腹立たしいにも程があるんだけど……」


 ユノちゃんは、ウニの中を覗きたそうに背伸びをしている。ウニはユノちゃんの倍以上の高さがある。中を見るのは骨が折れそうだった。


 と、思いきや、ユノちゃんは銛を地面に突き立てると、銛の柄を足場にして開け放たれたウニの上へと飛び乗っていった。器用だなぁ……。


「こ、ここここ、これはぁ!?」


 ウニの中を覗き込んだユノちゃんは絶叫した。な、なんだ……? 一体中はどうなっているんだろう……。


「コルク、あんたもう屋根の弁償のことは忘れて良いわ!」


「えっ……!?」


「この中に、極上のウニの身が詰まってるのよ! この大きさなら、市場でとんでもない額で売れるでしょうね! うはははははーっ!!」


 ウニの上で高笑いするユノちゃん。その姿は海賊のように品がなかったけど、それは黙っておくことにした……。

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