第7話 激突!スシBAR!

 怪鳥に連れ去られながら、大空の旅を続ける私。よくよく考えれば、“ヒッパレー”をゆっくり伸ばせば海へ降りられたのではないだろうか……。でも、もう小舟も見失ってしまったし、今さら海へ降りたところで、私は海上で漂うしかなくなる。それこそ最悪な状況だ。


 もう怪鳥に身を任せ、どこかへ連れて行ってもらうしか、私に残された道はなかった。


「あはは〜、潮風が気持ちいいな〜……」


 半ば現実逃避しながら、怪鳥の遊覧飛行を満喫する。そういえば、空を飛んだのは生まれて初めてだった。このカオスな状況に目を瞑れば、心地よい空の旅を楽しめるかもしれない。……目を瞑れないのだけれども。


「うん……? あれはなんだろう……」


 よーく目を凝らすと、視界の先に何か盛り上がっている山のような塊が見えた。


「あれは、島……!?」


 もう無人島はこりごりだと思いつつ、私は近付いてくる島をじっくり凝視する。あちこちに四角い物体が点在している。……建物がある!


「ミルティちゃん! 島が、人が住んでる島が見えたー!」


「ほ、本当ですか!?」


「ありがとう怪鳥さん! 君のお陰で私は救われた! そのまま、そのまま、ゆっくりと島に近付いて……!」


 島はぐんぐん近付いてくる。多くの人が行き交い賑わいを見せる港町。大きな船に小さな船。様々なデザインの船が港に停泊している。町には水路が張り巡らされ、さながら水の都と言った様相だった。


「やったぁ! 助かったぁ! 私は無人島から生還したんだー!」


 今まで溜め込んでいた感情を爆発させて、私はお腹の底から喜びを吐き出していた。最高の気分の中、怪鳥にぶら下がっている“ヒッパレー”が不穏な揺れを起こしていた。


「えっ? 何この揺れ……? ちょ、怪鳥さん、落ち着いて!」


 嬉しさの余り騒ぎすぎたのが原因か、今まで快調に飛んでいた怪鳥の機嫌が絶不調に陥っていた。口にくわえている“ヒッパレー”を今にも振り落としそうな勢いだった……!


「わあああああっ!? お願いやめて、ごめん! 許して! こんなところで落とさないで!!」


 まだまだ地上との距離はある。落下死か大怪我か、どちらにせよ落ちたらタダでは済みそうにない高さだった。私は怪鳥さんに必死に命乞いをするが、その騒がしい声にさらに腹を立てているように見えた。


「このままじゃ落とされる……! こうなったら、“ヒッパレー”を伸ばして着陸を……」


 私はさっき考えた方法で地上に降りようと試みる。でも、怪鳥の飛行速度は上がっていて、そう簡単に着地出来そうにない……!


 それでもなんとか、少しずつ地上との距離を近付けていく。怪鳥に振り落とされる前に、衝突のリスクを減らさなければ……。


「あっ! 怪鳥さん! 前、前!」


 私の眼前に2階建ての建物が迫ってきた! このままじゃ激突する! この速度で壁に叩きつけられるなんて冗談じゃないよ!


「ど、どこか降りられそうな場所は……!」


 私は辺りを見渡す。真下に2階建ての建物の1階部分の屋根が見えた。あそこなら飛び移れそう! このまま激突するくらいならもうイチかバチかだ!


「いちにーの、さん!」


 私は意を決し、“ヒッパレー”を解除して屋根に向かって飛び込んだ! 衝撃を吸収するため身を屈める……! 怖い……! 神様……!


「うわああああああああっ!!」


 この世の終わりのような大きな音を立てながら、私は屋根をぶち抜け、そのまま建物の中に落っこちてしまった……。


「痛ぁ……。私、生きてる……? 身体は……? なんともない……?」


 全身の骨が砕け散ったかと思いきや、奇跡的に無傷で済んだようだった。良かった……本当に死ぬかと思った……。


「あああああああーッ!?」


 安堵していたのも束の間、私を見ながら絶叫している人物が視界に入った。ヤバイ……。家を思いっきり破壊してしまった……。


 家の主は、金髪の2本のおさげ髪を下ろした気の強そうな女の子だった。動きやすそうな軽装の上から、黒いエプロンを着ていた。


「あんた! いきなりウチの店をぶっ壊すなんて良い度胸してるわね!」


「ごごごごめんなさい! これはわざとじゃなくて、怪鳥に連れて来られて落とされたんです!……え? 店?」


 今まで家だと思っていたけど、よく見ると、カウンター席や、丸いテーブルと椅子が並べられていたり、メニューが貼られていたりと、どう見てもここは飲食店のようだった。私のお尻の下でバラバラになっているのも、並べられたテーブルのうちのひとつだった。幸いにも、お客さんは誰もいなかった。


「スシBAR『MAGOKORO』! アタシの店よ! この港町『ミナル』で、海鮮料理の激戦区で、アタシ1人でコツコツと切り盛りしていたというのに! あんたは! そんなアタシの店をぶっ壊したのよ!」


「ひいぃっ! 本当にすみませんでした! 今はお金とか全く無くて……どう償えば良いのか……」


 どうしよう……。事故とはいえ屋根をぶち抜いちゃったのは事実……。しかも女の子1人で切り盛りって、そんな苦労人のお店を私は……。


「金が無いなら仕方ないわね……。身体で払ってもらうわよ!」


「えええええええっ!?」


 身体ってどういう……。もしかして、臓器売られる? それとも、何かいやらしいことをさせられて……。どっちの想像でも冷や汗が止まらなかった……。私、これからどうなっちゃうの?

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