第3話 激闘!巨大ガニ!
「ひゃああああああっ!?」
私とミルティちゃんは思わず抱き合って悲鳴を上げた。目の前には馬車ほどの大きなカニが、巨大なハサミを突き出しながら威嚇している。食べ物を釣ろうとしていたら、私たちの方が食べられそうなんだけど!?
「キシャシャアーッ!!」
「こっち来ないでぇーっ!!」
巨大カニはハサミを振り回しながら襲い掛かってきた! こんな化け物相手にどうしろっていうの!?
「カニさん、やめてください!」
「ミルティちゃん!? 飛び出したら危ないよ!」
「このカニさんとお話してみます! わたくし、こう見えても海の生物ですので!」
「話出来るの……!?」
そうか! ミルティちゃんはなんと言っても下半身が魚! だから魚介類的な物とは意思疎通が出来るんだ!
「カニカ、カニ、カニカニカ」
「キシャアアアアアッ」
「カニ!? ニカカ、カニカーニカニ!」
「キシャアアアアアアッ!!」
な、なんて言ってるんだろう……。全然分からないけど、なんか、話せてるようには見えないんだけど……。
「コルクさん! 駄目でした! 何言ってるのか全然分かりません!」
「分からないんかい!?」
ついツッコミを入れてしまった……。いやそんな感じはしてたけども! 獰猛な巨大ガニは、訳の分からないやり取りをさせられて、ますます機嫌が悪くなっているように見えた。
「キシャアアアアアッ!!」
「コルクさん! 危ない!」
「ミルティちゃん!!」
カニが私に向かってハサミを振り下ろした。私が反応するより前に、ミルティちゃんは私を突き飛ばし、私の代わりにハサミの直撃を受けてしまった……。ミルティちゃんは……背中から大量に出血していた。
「うああああッ……!」
「そ、そんな……! ミ、ミルティちゃん……」
「コ、コルクさん……逃げて……くださ……」
ミルティちゃんはそのまま動かなくなってしまった。私なんかを庇って、嘘でしょ……?
「キシャアアアアアアッ!!」
「ゆ、許さない……」
出会ったばかりだけど、セイレーンがなんなのか全然分かってないけど。でも、この子は、親よりも、姉よりも、里の誰よりも私と普通に接してくれた。私を庇ってくれた。そんな優しい子を傷付けるなんて、絶対に許せない……!
「“ヒッパレー”!!」
“ヒッパレー”を唱え、魔力の糸をカニの身体に巻き付ける。この術が戦いに使えるのかなんて分からない。でも、私はミルティちゃんの仇を取るんだ!
「うおりゃあああああああっ!!」
「キシャアアアアアッ!?」
“ヒッパレー”の力でカニを思いっきり空高くぶん投げる。私にはカニを直接攻撃する手段はない。なら、高さを利用する! 一撃で倒せるくらい、高く高く空へと“引っ張る”!
「くらえええええええっ!!」
魔力の糸を一気に引き寄せ、カニを地面に叩きつけた! 地面は砂とはいえ、あの高さと勢い。無事でいられるはずはなかった。カニは衝突音を響かせながら泡を吹いて力尽きていた。
「やった……やったよ……! ミルティちゃん……」
涙が溢れてくる。友達になれたかもしれないのに、なのに、その子はもう動かない。虚しい。ツラい。私はまた、独りぼっちでこの島で過ごさないといけないのかな……。
「凄いですねコルクさん! あんなおっきなカニさんを、たった一人でやっつけるなんて!」
「えっ!? ええええええっ!? ミルティちゃん!?」
私が悲劇のヒロインを気取っていると、ミルティちゃんは何事もなかったかのように起き上がり、ケロッとしながら私の勝利を称えていた。なにこれ? 私の涙は、一体なんだったの……? いやでも、ミルティちゃんが無事で良かった!
「ミルティちゃん、死んじゃったかと思ったよ! なんでそんなに元気なの!?」
「あっ! いえあの……。わたくし、ちょっと身体が丈夫と言いますか……。ちょっとやそっとじゃ死なないんですよね……」
「そ、そうなんだ……。凄いね……。背中の傷も綺麗に治ってるし……」
「コルクさんに褒められました……! わたくし、なんだかとても嬉し……がくっ」
「えっ!? 元気って言ったじゃん!? なんでそんな死にそうになってるの!? やめてよ! 私を置いて逝かないで! 」
「お、お腹がもう限界です……。大怪我を治すには、それなりにエネルギーを消耗しますので……」
「あっ、そっか……。何か食べる物探さないと……って」
食べ物なら目の前にあるじゃないか。さっきまで大暴れしていたカニはもう動く気配はない。私はこんなご馳走を釣り上げていたんだ!
私はカニの足を両手で掴み、全身の力を込めてなんとかもぎ取った。すんごく重い。こんな大きなカニ、今まで見たことない。魚だと捌くのも焼くのも大変だけど、カニならすぐに食べられる。さっきまで憎かった巨大ガニが、救世主に思えてきた。
「あ、でも殻を剥くのはどうしよう……。カニのハサミ使えるかな……」
あのカニのハサミは、ミルティちゃんの身体をいとも容易く斬り裂いていた。普通のカニよりも鋭利なハサミに違いない。私の予想は的中し、殻をハサミに当てるとスルスルと綺麗に切れ込みが入っていった。
「ほら! ミルティちゃん。カニの足だよ!」
「う、うぅん……。カ、カニ……!」
ぐったりと砂浜に横たわっていたミルティちゃんは目を覚まし、私が手渡したカニの身に一心不乱にかぶりついた。口いっぱいにカニを頬張り、幸せそうな表情で涙を浮かべていた。
「うんまいですぅ! コルクさんのお陰でこんなに美味しいカニさんが食べられました! 本当にありがとうございます!」
「いやいや、そんな……。私の方こそ庇ってもらっちゃって……。本当にありがとう、ミルティちゃん!」
ミルティちゃんと話していると、心がポカポカしてくる。この子と会えて良かった……。私一人だったら、きっと心が沈んでおかしくなっていた。
それから、私はミルティちゃんと一緒にカニを食べた。本当にビックリするくらい美味しかった。一緒に食べてくれる人がいる。だから、余計に美味しく感じていたと思う。一回の食事で到底食べ切れる量じゃない。しばらく食料は心配いらないかな……。
「あとは、水があれば良いんだけど……」
そんなことを言っていると、ぽつぽつと肌に水滴が当たる感触が襲ってきた。雨だ。なんてちょうどいいタイミング。私は、食べ終えたカニの足の殻を受け皿にして、雨を溜めた。
「なんだかとってもラッキーですね! わたくしたち!」
「うん! そうだね……! ラッキーだ!」
無人島に追放されて、人生最悪の日だと思っていたのに、ラッキーだなんておかしいな……。いろんな感情が襲ってきて、なんだか涙が溢れてきてしまった。
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