第2話
心の中で点Pをジャガーノートで滅多刺しにしながら、凛と奏多の勉強を眺める。
「そうだ。二人とも、夏休みはどうするんだ?」
ふと、長月さんに言われた言葉を思い出し、胡桃とひづみに会話を振ってみる。恐らく、俺は監視が付いた上で、長月さんからバカンス場を提供されると思うが。
「私は実家に帰りますよ。数少ない家族に会える期間ですし、元気な姿を見せないと両親が心配しますから」
「私はこの学園に残る。伊織もまだ本調子じゃないし」
「そうなのか?」
癌の治療はフェンリルがしっかりとやっていたのだが、厄介なことに彼女の体から筋弛緩剤の作用のある成分が大量に発見された。
なんのためにフェンリルが彼女の体に投与していたのかは知らないが、眼が覚めてから数日は寝たきり状態だったらしい。
ようやく起き上がれるくらいには筋力が回復し、面会ができるようになってからは、俺と一度会いに行った。まぁ何やら随分と興奮していたようだったが、随分と元気そうだった。
「リハビリもやっているが、伊織に投与されていた薬がかなり強力で、予想よりも筋肉の回復が遅い……あいつ、もうちょっとシバいとけば良かった」
チッ、とデカめの舌打ちを披露するひづみに、苦笑いで返した胡桃。まぁ、確かにあいつはクソだったな。
……思い出してきたら俺もなんか段々イラついてきた。確かに、もうちょっとシバけば良かったな。
「裕樹はどうするんだ?確か、今日も学園長に呼び出されてただろ?」
「一応、夏休みは体を休めろとは言われたな。監視付きで、恐らくどっかのタイミングで長月さんから場所を指定されるかもしれん」
そして恐らく、監視役は花火様になるだろう。俺専用のジャガーノートができた今、武力で俺を分からせれるのは花火様しかいないし。
「まぁ、瑠璃学園には居られないだろうな。話からすると、戦闘することすら許されないだろうし」
「では、私の家のプライベートビーチにでも来ますか?裕樹さん」
ここで話に割り込んで来たのは奏多だった。おいおい、凛はどうしたんだよと思いチラリと横目で見ると、頭を抱えてウンウンうねっていた。
「て、点Pが移動したあとの三角形の面積……?め、めんどくさいよぉ……」
どうやら、まだ点Pに苦戦している様子だった。
というか、今奏多なんて言った?プライベートビーチ?
「ひづみさん。私の聞き間違いかな」
「いや、私もハッキリ聞こえた。プライベートビーチ」
「お忘れですか?皆さん。私、実家は日本有数のジャガーノート製造会社の社長令嬢ですよ?」
「「「あぁ~」」」
納得だった。
奏多の実家は、『皇技術技研』という、日本だけでなく世界にも優秀なジャガーノートを提供している製造会社だ。瑠璃学園にもこの会社のジャガーノートを使用しているヒロインも多い。
そして、なんと言ってもその名前も轟かせた要因としては、ウチのクラス担任である火蛇穴先生がメインとして使っていたジャガーノートだった。という点がデカい。
「一応私もこの夏は瑠璃学園から離れますが、大体は別荘で夏休みを過ごしますから」
「……?実家に帰らないのか?」
奏多の言い方に疑問を感じて質問をした。
「実家に帰ると、お見合いの申請が多くてうんざりしますから。お父様も了承してます……何より、私にはもう裕樹さんが────」
バッ!と全力で顔を逸らした。後ろからひづみと胡桃さんのジトーという視線が高等部にチクチクと突き刺さる。
「────どうですか?裕樹さん。私と、ひと夏の思い出……作りませんか?」
耳元で囁くように喋る奏多。絶対、この思い出の中には色んな意図が色々と詰まっている。俺分かるもん。さっきまでの奏多の目は、狙った獲物を見定める肉食獣の目をしていた。
「────出来た!奏多ちゃん出来たよって何イチャイチャしてるんですかそこ!」
「あら、残念ですね」
解答が書いてあるノートをペシペシと叩いて奏多を呼ぶ凛。
た、助かった。このままだったら俺、流されて変な気持ちになるところだった。
タダでさえ最近、俺の感情が積み重なって、プラスの感情面が動きやすくなってきていると言うのに。
一か月前までは、凛達と少し密度の高いスキンシップをしてもなんの反応も無かったのだが、ここ最近は、特定の人物と接すると少しだけ心臓が高鳴ってしまうのである。
それのせいで、花火様はもちろんのこと、色んな人にドキドキとしてしまう俺がいる。
「……私、本気ですから」
「っ」
最後に、軽く頬にキスして凛の元に向かう奏多。無意識のうちに、触れられた頬を左手で抑える。
俺、この夏。一体どうなってしまうのか。
誰か……感情のリセットの仕方とか教えてくれないか?こういう気持ちってさ、膨れ上がるだけで冷めるってそうそう無いと思うんだよ。
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久しぶりの更新!毎日残業でなかなか時間が取れない……。
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