第10話

 パキン、と拳を入れた所からヒビが入る。そして、男はきりもみ状に回転しながらぶっ飛んで行った。


「ぐふっ」


 そして、今の一撃でアビスアーマーもぶっ壊れたようで装甲が魔力となって空気中に溶けてなくなる。


 ぶっ飛んで行った男に近づき、アロンダイトを振り上げた。


「まっ──────」


「死ね」


 首を飛ばした。勢いよく吹き出た血が床を濡らしていく。アロンダイトについた血を血ぶりで落とし、大きく息を吐いた。


 研究員を殲滅させたことで、心から溢れていた殺意が徐々に収まって行き──────俺は、自分自身に対して悪態をついた。


「……俺の馬鹿が……」


 思い返すのは、先程目の前で助けられなかった少女について。何が助けられなかっただ。殺意衝動に身を任せ、必要以上に痛めつけ、救助を遅らせたのは俺だ。


 あの子を殺したのは、俺もじゃないか。


 死体を踏みつぶし、歩みを進める。


 せめて、奥にいる子だけは助けようと。


 アンテナを使い、反応が消えていないかの確認をしてダッシュで向かう。辿り着いたのは、地下二階で見た牢屋と、全く同じ部屋だった。


 慌てて鉄格子に近づき、腕力で引きちぎる。床で倒れている彼女を抱き起こし、呼吸をしているか確認する。


「……ふぅ」


 どうやら、今回は間に合ったようだ。


「あ、なた……は……」


 ハイライトが消えていた目に光が少しだけ戻り、震える声で言葉を紡ぐ。


「……助けに、来てくれた……の?」


「っ、もしかして、君が助けを呼んでたのか?」


 よくよく聞くと、俺に助けを求めていた声と同じ声だった。


「そう……あなたが、私の……なんで、男の人、が魔力を、持っているか、しら、ないけど……あなたになら、いいかな……」


「とりあえず。直ぐに皆と合流だな。早く治療をしてあげないと」


 肩と膝裏に腕を延ばし、持ち上げようとしたら、優しく肩を捕まれ拒否された。


「……閑乃さん?」


「あの、ね……?わた、しを……殺して?」


「────は?」


 言われた言葉に、脳が真っ白になった。


「死ぬのは、怖いけど……あなたの手なら、わたし……安心、して逝ける、気がするの……」


「……いや、いやいや。ちょっと待って。そんな、どうして諦めることを────」


「わた、しね……今、体がどんどん、アビスに、なってる……の」


「────え、あ……え……」


 ゆらり、と彼女の瞳が揺れる。よくよく見ると、少しずつ、瞳がアビスと同じ、青白い色へと変わって行っている。


「……だ、ダメだ……まだ時間はあるはず……そうだ。アビスの体液を浴びた時に、中和させる専用の治療装置を使えば」


「………」


 力なく、彼女は首を横に振る。


「分かる、の……体が……意識が……アビスに乗っ取られて、いるのが……あ」


 肩を掴んでいた手が、ゆっくりと下がり胸を手を当てた。


「あなたの、ここに、アビスがいるの、ね……なんとなくだけ、ど……分かる」


 今まで反応がなかった項が、小さくだが反応を始める。


「おね、がい……わたし……死ぬなら、ヒロインとして、死にたいの……」


「………っっっ!!!」


 理解、してしまう。この人はもう、助からないのだと、何となくだけど感じてしまう。


「ぐぅ………うぅ……っ!」


 歯を食いしばり、手をゆっくりと閑乃さんの首へ持っていく。殺さないといけない気持ちと、殺したくない気持ちが、心の中でせめぎ合う。


 触れる首は、柔らかくて細い。今すぐにでも、力を入れれば折れてしまう程にも、か弱い。


 ゆっくりと、力を込める。首にかけられた力を感じとり、彼女は目を閉じた。


 ──────ねぇ、聞こえる?


「っ!」


 とたんに、心に響く彼女の声。


 ────ありがとう。君が最期の見届け人で良かった。


「……そんな、そんな事ない……」


 ────最後に、君の名前が知りたいかな。


「……小鳥遊。小鳥遊裕樹」


 ────そっかぁ。裕樹くんっていうんだ。


 彼女の目から、一滴だけ涙が零れ落ちた。


 ────さようなら、裕樹くん。出会いは一瞬だったけど、いい出会いだったと心から思えるよ。


「……俺は、そんなことない」


 ────酷いなぁ。そこはお世辞でも同意しとこうよ。


 彼女の唇が、少し笑った。


 ────それじゃあね。ありがとう。私を人として殺してくれて。君、最高にカッコイイよ!……さよなら。


「っ」


 そして、ついに触れていた彼女の手が力なく落ちた。もう、彼女からの声を聞こえない。


「あ……あぁ……」


 もう、誰も殺したくないと誓った直後に、これだ。


「あぁ……あああああああああああああああ!!!!」


 目から涙が溢れ出る。背中に、誰かの手が触れ撫でてくれる。振り返ると、花火様がそこにいた。


 涙と、鼻水だらけになった俺を、嫌な顔をしないで優しく抱きしめてくれた。


「うっ……ごめんなさい花火様……っ!誰も……誰も助けられなかったっ!!俺が未熟なせいでっ!」


「……いいんです、裕樹さん。今は……思いっきり泣いてください」


「クソっ………クソォ!……うわああああああああああ!!!」


「存分に泣いて、感情を私にぶつけてください……だって、私はあなたのガーディアンなんですから」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

曇らせってこれであってるんか……?書いたことないから分からないし、なんか他の人の曇らせ小説と違ってちょっと薄い……?


いや、でも助けると誓った直後に、自身の手で殺さないといけないシーンは、かなり曇らせだと思うんだが……うむむむ……わからん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る