第8話

「………んっ?」


 また一人、フェンリル研究員の脳天を破壊し、地下一階の制圧を終えた瞬間、言い様もない寒気に襲われた。


 ブルっと背中を震わせ、周りを目で見て、アンテナで周囲を確認するも反応は感じない。


 ………なんだったんだ?今の。


 なんとなくだが、この任務終わったらめんどくさい事に巻き込まれそうだなー、と思いつつ意識を変える。


 もう、この研究所にいる人数も残り数人となっていた。


 地下三階に反応が三つ。地下二階に反応が五つ。そのうち、魔力の反応を感じ取れたものがあるので、二人は拉致されているヒロインだ。


 しかし、地下二階の方は反応が固まったところにあるから殺しやすくて助かる。とっとと終わらせて、ヒロインを救出して帰る。


 ────そのはず、だったのに。


「────!?」


 地下二階に足を踏み入れた瞬間、鼻を塞いでしまいたくなる程の悪臭が漂ってきた。あわてて顔を隠している兜からミニ触手をにゅるりと出して鼻を塞いで臭いをカット。


 地下二階降りてすぐのフロアは、まるで牢屋のようになっていた。左右に、鉄格子で区切られた部屋が五つずつ。


 ────牢屋の奥なんて、見なければよかった。


 たまたま目に入った、階段近くの牢屋。その中には、どこの学校の物かは分からない制服を着た、少女が横たわっていた。


「………は?」


 制服は乱雑に破られており、放置され、少し汚れが着いた肌には、何やら少し濁った白色のような液体が撒き散らされ────彼女は、息をしていなかった。


「………ハ?」


 ぐしゃり、と鉄格子を力任せに握りつぶす。そのせいで大きな音が出てしまったが、今はそんなことどうでもいい。


 そのまま、力任せに鉄格子を引きちぎり、俺が入れる大きさまで曲げて、中に入る。よくよく見ると、床にも白色液体が散らばっていたが、そんなことを気にせず、彼女の傍らに膝を着く。


 優しく、肩に手を回して少し浮かせてから、瞼を閉じさせた。


 この状態を見れば、彼女がいかに暴行を与えられていたのかが、手に取るように分かる。玩具のように弄ばれ、汚し、そして殺す。


 とくん。


「なんだ!さっきの大きな音は!」


「知らん!とにかく、お前は所長に連絡しておけ!」


「クソが……いいとこだったんだけどな……」


「まぁいい。どうせ、あの被検体ももうすぐ死ぬとこだったしな」


 会話が、聞こえる。


 心臓の音が、やけに大きく、激しく鼓動するのを感じる。


「………ごめんな」


 せめてもの仇として、あの四人は苦しませながら殺すとするよ。


 頭が沸騰するぐらい熱い。本当は、力の限り暴れ回りたいが、心は嫌な程に冷静だ。


 そうか。こんな感じだったな。




 怒りっていうのは。





 とくん。










「……あれ、あそこの鉄格子、曲がってね?」


「ほんとだ……おい。アビスアーマーの準備もしておくことを所長に伝えておけ」


 大きな音がしたので、駆けつけた四人は警戒心を高める。元々この地下二階にはここの所長含めた六人までしか入ることを許されていない。


「分かっ────は?」


「どうし────ぐわぁぁぁ!!!」


 連絡をしようとポケットに手を突っ込んだ瞬間、四人の男の足に、何かが突き刺さった。


「あ、アビスの触手!?」


「しかも機械型っ……ぐうっ……!」


 力が抜け、まるで跪くように倒れた四人の耳に、こつ、こつ、と床を歩く足音が聞こえた。


「……なっ!?」


「ば、馬鹿……な……」


「何故……何故ここにいるっっっ!!!!」


 四人が目にしたのは、髪の一部分が血を更に赤くしたような色に変色し、瞳がまるでアビスのように青白くゆらゆらと揺蕩う裕樹の姿である。


「一人ずつ、公開処刑だ」


「な、何を……ぐわぁ!」


 裕樹は、背中から生えている触手を、一つに纏め、大きな手を作った。それを、右端にいた男へ向けると、頭を掴んだ。


「クソっ……離せ!」


「誰が離すかよ。しかし、足を貫いた筈なのに意外とパニクってないなこいつ……何かやってるか?」


 まぁ別に今はどうでもいいが。と呟いた裕樹は、頭を離すとそのまま腹に一発ストレートを叩き込んだ。


「ガッ……」


 確実に、肋骨を粉砕させた。体がくの字に折れ曲がったところを、顎の骨を蹴り砕くついでに仰向けにさせる。


「丈夫なら、有難かったな。これで存分、あの子たちの分も痛めつけれる」


 そして、裕樹は背中から四本の触手を出すと、手の甲、足の甲を貫き、床と固定させる。


「ぐっ……うううっ!!な、何が目的だ!」


「言ったろ。公開処刑だって」


 男へ近づくと、裕樹が右足を上げる。


「絶対楽には殺さない。一人一人、これから丹念に丹念に痛めつけ、死んだ方がマシだと思えるくらいの────地獄に招待してやるよ」


「や、やめ────」


「潰れろ」


 そして、裕樹は人の枠組みを超えたその力で────男の股間を思いっきり踏みつけたのだった。


「あああああああああああああああああああ!!!!!」



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……二話連続で三人称視点か。ちょっと多用しすぎたか?いや、でも話の内容的ここはどうしても……ぬぐぐぐ……

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