第5話

「別に、俺らが何者かなんてどうでもいい事だ」


「男……!?もしかして、貴様がイレギュ────ガッ!?」


「その汚い口を開くな。汚れる」


 呑気に喋っている内に、速攻で距離を詰めてジャガーノートを腹に突き刺す。


「お前に口を開く許可を与えたつもりは無い────死ね」


 そして、突き刺した状態から、腕をそのまま横に振り腹を斬り裂いた。こちらに倒れ込みそうになったので、蹴り飛ばしてそこら辺に捨てた。


 ぐるり、と現場を見渡す。見た限り、他の人が伊豆波さんを見つけた形跡はない。ということは、必然的にコンテナの中に伊豆波さんはいるのだろう。


 飛び乗り、伊豆波さんの姿を探す。本来なら、真っ暗で何も見えないだろうが、魔力は視界も強化してくれるので、僅かな光だけでも問題なくあるける。


 伊豆波さんは────いた。コンテナの奥で、壁を背にして眠っているのが見えた。


「この状態でも寝れるとは……何かフェンリルに薬でも打たれたか?」


 パッと思いつくのは、超強力な睡眠薬の類。フェンリルの内情について詳しくない俺が考えても、まぁ大したことは出来ないと思い、彼女を抱き抱える。


「裕樹くーん。伊豆波様いた?」


「いたぞ凛。ジャガーノートもあるから手伝ってくれると助かる」


「はーい」


 トットッ、と足が近づくのを確認してから立ち上がる。……やっぱ軽いな。


「伊豆波様、大丈夫そうかな」


「見た限り、呼吸音に乱れは無いから大丈夫だと思うが……とりあえず、花火様のとこに行こう」


 伊豆波さんを抱えたまま、花火様の所へ戻る。任務完了の報告をしていたのか、誰かと通信を取っていたようだった。


 俺に気づいた花火様は、会話をやめてこちらを向いた。


「お見事です裕樹さん。素晴らしい初陣でしたね」


「気分はフェンリル見たから最悪ですけどね。どうぞ」


 会話をしながら、伊豆波さんを花火様へ引き渡す。何故かフェンリルにはそんざいがばれているが、存在がバレているが、一応俺は秘密の存在である。


 もし、目覚めて、目の前にいるのが男だったら、通報案件である。


「……症状を見る限り、やはり『ドールズ』が使われてますか……渚を呼んで、解毒薬を持ってきてもらわないと……」


 またまた知らん単語が出てきた。だけど、名前からしてもうアカン系の薬っぽい。


 やっぱ、フェンリル潰すしかねぇなー、と思っていたら──────


 ────助けて


「!!」


 あの時と同じ────花火様に、マルドゥークに来るか誘われた日と、同じ声が聞こえた。


 衝動的に、声がした方向へと振り向く。恐らく、この先まっすぐ。


「裕樹さん?」


「どうしたの?裕樹くん」


「…………」


 行かなくてはならない。そう心が訴えてくる。


「ごめん凛、花火様……俺、行かないと」


「え!あ、ちょっ!裕樹くん!」


 俺はそのまま、森の中を突っ切る。


 目的は、声がする方向に走るだけ。体感だが、意外と近い。


『……裕樹さん?一体何をしてるんですか?』


 耳に着けた無線から、渚様の声が聞こえる。


「すみません渚様。俺、どうしても行かないと行けなくて……」


『……はぁ』


 盛大なため息が聞こえた後、カタカタとタイピング音が聞こえた。


『仕方ないですね。ナビゲートしてあげますから、すぐに終わらせてくださいね』


「ありがとうございます。渚様」


『ご褒美は、私に膝枕をさせてくださいね』


「………させる?」


 普通逆では?ボブは訝しんだ。


『それより、何故単独行動を?』


「助けを呼ぶ声が聞こえたんです」


 信じて貰えないかもしれないが、確かに聞こえたのだ。最初の1回なら、まだ気の所為と思うことも出来たが、二回も聞こえたのならもう明確である。


 誰かが、俺に助けを求めている。


『助け……ですか。あ、裕樹さんの進行方向に、フェンリルの研究支部がありますね』


「本当ですか?」


 と、言うことは俺に助けを求めているのはヒロインになるのか?だがしかし、俺はヒロインの言葉を交信できるというトンデモ能力は持ってない。


『とりあえず、もし見つけても突入するのは少し待ってください。学園長に襲撃許可を求めます』


「分かりました」


 本音を言えば、今すぐにでも突入したいが、これ以上迷惑は掛けられない。


 五分くらい森の中を走っていると、小さく人工の明かりが目に入る。それを視認して、走るスピードを落としてからゆっくりと近づく。


 体勢を落として、草陰に身を隠すように覗くと、二階建ての工場のようなものが見えた。目を凝らすと、屋上の壁に、ご丁寧にフェンリル企業ということを示すエンブレムが刻印されている。


「ここがあのクソ狼共のハウスか……」


 前は上からしか見たことがなかったから分からなかったが、意外とデカいんだな。無駄に金かけやがって。


 更に言うと、ここからまだ地下にも伸びているのだから、どれだけ儲けているのか。


『裕樹さん』


 無線機から、渚様の声が聞こえた。


『突入許可が降りました。学園長からも直々にぶっ潰せとの伝言が』


「分かりました。ではぶっ潰します」


『私達も向かいますが、事後処理もありますので少し遅れます。それまで、お一人ですが大丈夫ですか?』


「一人……なら、少し丁度いいか」


 前から────あの時、アビスアーマーを見てから考えていたことがあった。今はまだ、研究所襲撃がヒロインだとバレていないが、バレた時が大変であると。


 身バレ顔バレは黒コート深フードがあるから大丈夫だと思うが、その時はヒロインが大バッシングを受けてしまう。


 であれば、本当にアビスのせいにしてしまえば解決なのでは?と考えたのである。


「渚様」


『なんでしょう』


「俺は今から、人間を辞めます」


『はい?』


 今は、今だけは、俺は心も体も異形へと落とす。


 さて、蹂躙開始だ。



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愛知県に移動中なう(引越し中)

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