第1話

「我々は、貴方を対フェンリル特殊部隊『マルドゥーク』へ勧誘したいと思います」


「……へ?」


 こちらに振り向き、手を伸ばす、我が瑠璃学園が誇る最強。『ワルキューレ』の名を冠するのは、生徒会長である月下花火つきもとはなび様。


 青髪を夕日に靡かせ、こちらを見る金色の瞳ら、真剣そのもの。


「えっと……」


 とりあえず、マルドゥークってなんぞや?


 頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。まぁ、対フェンリルって言ってるくらいだから、何をやるのかは想像つく。


「分かりました。入ります」


 まぁ、俺が花火様の頼みを断るわけないんですけど。まだまだ推測の域はでないが、こうして俺を勧誘する以上、一人でも戦力が欲しいと言った所だろうか。


「……私が言うのもアレですが、すぐ答えるんですね」


「そりゃそうです。花火様の頼みを断るわけないじゃないですか」


 普段からお世話になりっぱなしだし、花火様の好意に応えたい。俺はまだ、今花火様に抱いている気持ちは、恋心には昇華していない。でも、こんな時だからこそ、俺ができる範囲で応えたいと思う。


「……ありがとうございます。裕樹さん」


 俺の手を取り、笑みを浮かべる花火様。そして、そのまま隣に立って、俺の右腕を抱いてくる。


 花火様の身長は、俺より少し低いくらい。ふわり、といい花の匂いが鼻腔をくすぐる。ちなみに、どんな花の種類かは分からない。


「家に行きましょう。そこで、マルドゥークに関しての説明を行います」


「分かりました」


 花火様と歩幅を合わせ、校舎内を歩いていると、ふと気になることが出来た。


 それは、一緒にアビスを撃退したメンバーの四人のことである。あの四人なら、俺の部屋の前で待つことくらい、平気でやると思ったが。


「花火様。凛達ですが、四人はどこに──────」


「裕樹さん」


 いるんですか?と言おうとして止められる。花火様から、優しく頬を摘まれた。その顔は、どこか不満げである。


「私がこうしているのに、今は他の子の話題を出すのはNGですよ。今は、私だけを見て、私だけを感じてください」


 ぎゅむ、と腕を抱く力が更に強まる。


「……すみません。失言でした」


「分かればよろしいんです」


 摘むのを辞め、最後にていっ、と優しくつつかれた。何それ可愛い。






「飲み物は何にします?」


「いえ、今はそれほど喉が乾いていないので、大丈夫ですよ」


 いつもより、二人の時間を楽しむためのんびりと帰路に着いた俺たち。家に着く頃には、既に日は落ちていた。


 道中、人目につかない陰のある場所で、プリンセスの可愛さにやられたガーディアンのコンビがゆりゆりとしていた────というより、中庭でめちゃくちゃイチャついてる百合ップルが非常に多かった。


 まだ校舎にいる時点でも、そこらでプリンセスに抱きついてイチャコラしてたり、真正面から手をにぎにぎしあってイチャコラしてたり、なんならガッツリマウストゥーマウスしてたりと、凄かった。


 流石にあの中を堂々と腕を組んだまま歩く度胸は花火様には無かったため、裏門の方から帰ったのも、遅くなった原因の一つである。


 リビングに移動して、向かい合うようにして座る。


「さて、まずはマルドゥークについて説明をしましょうか」


「よろしくお願いします」


 ペコリ、と頭を下げる。


「先程裕樹さんにも言った通り、マルドゥークは対フェンリルを想定して作られた非公式ギルドの事です」


「非公式、ですか」


 ギルドは、結成されたら一般に情報が公開されるようになっている。


 どのギルドが、どんな人材を持っていて、どこに出撃させるのが得策か。また、エルドラドの方は、どの部隊に応援を頼むのか。などなど、そういった理由で顔写真と一緒に、瑠璃学園のホームページで紹介されている。


「非公式であるがゆえに、色々と黒い事もやってますよ。例えるなら、この間裕樹さんも一緒に行ったあの研究支部でのことならば──────」


「研究員の皆殺しですね」


「────はい。正解です」


 あの時、俺とひづみが乗り込んだ時、廊下には既に沢山の血飛沫と血溜まり、そして死体が転がっていた。


 更に言うと、俺とひづみが一番最初に最下層にまで辿り着いたのは、部屋の隅々まで探し回り、鏖殺していたから。


「表のギルドでは、研究支部に乗り込むことはしませんが、裏ではヒロインの救出を行います。でも、あんな奴らでも外で殺すと騒ぎになりますので」


「……確かに。外だと報道されますし、明らかに刃物って分かりますもんね」


 アビスが現れてないなら、必然的に疑いの目が掛かるのはヒロインの方だろう。それは避けたいところ。


「ですが、研究支部でだったらどれだけ殺そうが構いません。最終的に爆発させますし、死体は土に沈む。大体、研究支部は人里離れた場所にありますから、情報操作もしやすい。処刑場としては、最高の場所だと思いませんか?」


「思いますね。誰にも知られず死ぬにはピッタリの場所だ」


「それを行うのがマルドゥークの役目です。フェンリルを殺すことに躊躇いなく、アビスと同程度の火力で暴れ回る事が出来る対人集団。私達の目標はただ一つ──────フェンリルの、完全破壊」




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それと、文字数も10万文字を超えましたので、明日からは一日一話投稿にします。まぁ、暇だったら二話投稿するんですけど。

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