第10話
「っ!俺の目の前か!」
「っ……重っ……!」
衝撃で、踏ん張っている足が陥没を起こして沈み始める。
「裕樹さんっ!」
「離れろ!」
奏多とひづみの声が聞こえ、ガンッ!という音と共に、腕にかかる重さが軽くなる。
アビスの正体は、両手が鋭い鎌へと変形した3mくらいの巨大カマキリ。一瞬、忌避感が俺を襲うが、弾き飛ばす。
「やあああああ!!」
凛の一撃を、両腕の鎌をクロスして防御。その隙をついて、後ろから銃弾が飛んできて、ガラ空きの胴体へと当たる。
体制を崩し、浮いた胴体の下をスライディングするように駆け抜けて、右脚を全て斬り落とす。
「チャンス!」
「このまま────!また逃げる気ですか!?」
俺の目の前がぐにゃりとねじ曲がる。どうやら、ダメージを受けたことで、振りを悟ったアビスが逃げようとしたが、このまま逃がすわけが無い。
ジャガーノートを振り、刀身を四つに分けて飛ばし逃げようとするアビスの体周りをグルグルと回転させる。
そして、クイッ、と腕を引っ張ると、ワイヤーがアビスを拘束し、刀身がアビスに突き刺さる。
ドンドンドン!と、三つの銃弾が、アビスの鎌二つと顔面にぶつかり、煙を撒き散らす。
「凛さん!」
「行くよ!奏多ちゃん!」
暴れ、もがくアビスをワイヤー部分と柄部位で完全に抑える。暴れば暴れる程に、アビスの体にはワイヤーがくい込み、体液が溢れる。
「腕貰い!」
そのうちに、ひづみが片方の鎌を斬り落とすことに成功。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
そして、二人の気合いの入った声が響くと、見事アビスの胴体を突き破り、風穴を開けたのだった。
「討伐完了……おつかれさん、二人とも」
「はい。裕樹さんもお疲れ様です」
「裕樹くんが捕まえてくれたお陰で、倒すことが出来ました!ありがとうございます」
パンっ!と二人とハイタッチを交わし、こちらに駆け寄ってきた胡桃さんと、ひづみともハイタッチを交わす。
「こっちに裕樹さんがいて良かったね。多分、私たち以外だったらまだ続いてたかも」
「あんな直ぐに
「いやー、このワイヤーが通じて良かったわ」
一応、ワイヤーが切れないように強化はしてあるが、ちょっと心配だった。けど、A-でも充分に通じたので、専用機は、本当に完成したのだと、自信を持てるようになった。
アビスとの戦闘を終えたあとは、例外なく全員が検査を受けなければならない。
アビスの体液には、ヒロインの魔力循環をおかしくさせる作用があり、処置をしないと一ヶ月間重度の風邪の症状と、体のダルさに襲われる。そうなれば、ベッドの上から一歩も動けない生活が待っている。
もし、かかっていた場合は、急いで風呂に入って体液を落とし、専用の治療機械で体内に入った奴を中和させないといけないらしいが、今回俺は大丈夫だったようだ。
まぁぶっちゃけ言うと、体内にアビスを飼っている俺がその症状になるのかは怪しいところだが、万一ということもある。ということをめちゃくちゃ熱心に花火様に説明され、押し込まれたのである。
「裕樹さん」
「ん?」
合図があるまで、この部屋から出ないようにと言われ、ボーッとしていたのだが、スピーカーから花火様の声が聞こえた。
「検査は終了しました。出ても大丈夫ですよ」
「了解です」
聞こえているかどうかは分からんが、とりあえず返事をしてから部屋の電気を消してから外に出た。
「お疲れ様です裕樹さん。大活躍でしたね」
外にいたのは、花火様だった。一体どこから声を掛けていたのかと思ったが、彼女の持っている端末で疑問はすぐに解決した。
「いえ、トドメを刺したのは凛と奏多ですよ」
「別に、トドメをさしていないからといって、活躍していないとは限りませんし、何より先に、凛さん達の方へ言ったので。裕樹さんの活躍を凄い褒めてましたよ」
「えぇ……?」
あんまり俺今回活躍してないような気もするけど。どっちかと言ったら、遠距離から絶妙なタイミングで銃撃してくれた胡桃さんの方が活躍してた。
「そういえばですが、美音様は大丈夫だったんですか?恐らく、アビスが脱走したのって、実験の途中だと思うんですけど」
「いえ、今回美音さんは全く関与していないようです」
「え?そうなんですか?」
関与していない?であれば、別の生徒?
「どうやら、今回はアビスが自力で部屋を抜け出したようです。美音さんが鹵獲していた部屋を見に行けば、厚さ3mの鉄筋コンクリートが見事に破壊されてたようですから」
「それは……どうしようもないですね」
「今回に至っては、美音さんにお咎めはなし。逆に、次こそは破壊されないように徹底的に意思を砕くって言ってましたね」
「あの人一体どんな実験をアビスにするつもりなんです?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます