第9話

 その後も、30分ほど森の中を捜索したが、ぜんぜんアビスは見つからない。


「……本当に居ないな」


「アビスサーチャーでも持ってくれば良かったな」


 アビスサーチャーとは、その名の通り、アビスを捜索することができる装置である。捜索範囲は、半径およそ100m程度しかないが、反応をキャッチ出来れば必ず居場所を突き止めることが出来る。


 まぁ何でかは知らないが、アビスサーチャーの形はネコミミみたいな形をしており、反応があるとピコピコと動く。それが可愛くて、アクセサリーとして普段使いしている生徒もいるほどである。


 ちらりと4人を盗み見て、全員がネコミミを装着した姿を想像してみる。ふむ。驚くほど似合うな。


「そういえばですが、裕樹さんは花火様のお見合い決闘の時、アビスが乱入してきたことにいち早く気づきましたよね。それと、今日も反応していました。あれは出来ないんですか?」


 視界の端で、ビクン!と大きく背中を跳ねさせたひづみを捉えつつ、奏多からの質問に答える。


「いや、あれは……なんというか、アビスが明確に攻撃の意思的なものを持たないと分からないんだよな……」


 今の状態のように、アビスが攻撃意志を持たないで逃げている、という状態だと、俺の謎能力も発揮しないのである。この感覚を使いこなせれば、アビスサーチャーの役割も出来ると思うが、まだまだ未熟です。


「裕樹さんはそんなことも分かるの?」


「ぶっちゃけると、何ができて、何ができないのかは、俺自身ですら把握していない」


 なんたって、俺みたいな前例一度も無いからね。居ても困るが。


 今まで出来ていることも、ふとした事で気づいたり、時間経過で分かっていることの方が多いいのだ。ま、気長に待つしかない。


「話は変わりますが、裕樹くんは『ギルド』に興味ありますか?」


「ギルド?……あー、ギルドねぇ」


 今まで何度か単語が出たような気がするが、細かな内容は思い出さないようにしていた単語だ。少し、昔の記憶を引っ張り出して思い出す。


 ギルドとは、アビス連合討伐隊の名称であり、6~15人の少女達で構成される部隊である。


 人数が増えたことで、戦術的な動きが必要になるため、基本的には仲のいい先輩後輩同輩で組むことが多い。守護ガーディアンの誓い関係で、ギルド内にはガーディアンとプリンセスの組み合わせが殆どで見ることが出来る。


 また、ギルドに所属すれば、個人で活動するよりも広い範囲で活動することが出来るし、ギルド専用の隊室も準備される。更に、『レボルト・フルバースト』と呼ばれる必殺技も解禁され、名声を高めれば専用の隊服を作れるなどなど、メリットが沢山ある。


 現在、瑠璃学園で最強と呼ばれるギルドは『ハミングバード』と呼ばれる、14人で構成された部隊である。


 三年生が3人。二年生が7人。一年生が4人の、二年生が主力の部隊であり、去年の頃から『世界最高峰』等と呼ばれている。やっぱりこの学園おかしい。


 ちなみにであるが、生徒会は全ギルド統括長という肩書きになるので、花火様はどこにも所属していない。


「興味が無い、訳では無いんだが……」


 この学園のギルドを前に一通り見て、入りたいという気持ちは確かにある。メイド服みたいなガーターベルトが素晴らしい隊服のギルドとか、めちゃくちゃ興味あったんだが。


「ほ、ほんと!じゃ、じゃあ……あのね、わた──────」


「長月さんから入るのを禁止された」


「────しのってえええええ!?」


 理由は単純。お前、一回どっかのギルド入ったあとの学園の女子達の行動を想像してみろと言われた。


 はて、と言われて考えてみる。なんでかは知らないが、俺はこの学園で、クラスメイトとひづみ以外には、アイドルのような感覚で接されている。


 廊下を通る度に逆ナンされるし、守護ろう(守護ガーディアンの誓いの意)ってめっちゃ先輩方に言われるし、なんならめちゃくちゃ強引に迫られたこともある。


 そんな人達が、俺がギルドに入ったら──────と、考えたところで俺は震えた。


 そんなん、絶対着いてくるに決まってるやんと。


 自惚れではない。逆に言えば自惚れて欲しかった。試しに花火様に「俺がギルド入ったらどうします?」って聞いたらさ、なんて帰ってきたと思う?


「今の立場かなぐり捨ててでも、貴方と同じギルドに入ります」


 と、ニッコリ言われた。頷かないといけなかったよね。俺のわがままで学園のギルド崩壊させる訳にはいかんし。


「まぁ、仕方ないですかね……」


「裕樹だし」


「えぇぇぇぇ………」


「……それはちょっと残念かも」


 ひづみと奏多は、長月さんの意図を察したのか、同情するかのように背中をポンっと叩いてくれた。まぁ二名は納得いってなかったけど。


「はいはい。無駄話はそこまでにした、早くアビスを────!」


 ズキン、と捜索する前に感じたあの時よりも、強い痛みが項を襲う。


 これは間違いなく、濃厚な殺気の気配。


「全員警戒!近くにいるぞ!」


「「「「!!」」」」


 ジャガーノートを取り出して、魔力を込めて起動状態にして、五人で背中合わせになるように武器を構える。


 そして、俺の目の前の空間が、ぐにゃりとねじ曲がったのだった。



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もうすぐ10万文字!書き始めた頃は、ドラゴンノベルスの受付終了まで間に合うか不安だったが、何とかなりそう

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