第8話
「裕樹くーん!連れてきましたよー!」
「おう。おつかれさん、凛」
パタパタと、一人の女子の手を掴んでこちらにやってきた。
「よろしく胡桃さん」
「うん。よろしく」
中学一年生の頃から、この瑠璃学園で生活しており、狙撃の腕だけならば世界でもトップクラス。自身の髪色と合わさり、『
正直、二つ名とかちょっとかっこいい。俺も欲しい。
使用しているジャガーノートは、ギリシアの製造会社『オリンポスアルケミー』社製の、『ケーリュケイオン』というジャガーノートを使っている。
刀身の幅が30センチ程度しかなく、長さも70センチ程度。最低限の近距離戦だけ使えるようにしてあるが、本命は遠距離からの狙撃である。
本来のジャガーノートであれば、射撃形態時の射程はおよそ70m程度しかないのに対し、ケーリュケイオンは300mの長距離射撃が可能だ。
しかも、ジャガーノートの射程という概念は、『風圧や、風速、弾の起動が逸れる要因を強引に無視できる距離』というものであり、腕があればさらにそれ以上の狙撃が可能。
彼女は、一キロ離れた場所から針の穴を通すような精密の射撃が可能なのである。それを可能としているのが、彼女のギフトである『千里眼』である。
まぁ簡単に言うと、遠くのものを見ることが出来るという、双眼鏡顔負けのギフトなのだが、彼女はそれの扱いがとても上手い。
実は、ギフトにも自身の習熟度によって、アビスのようにランク付けされているらしいのだが、彼女はそれを充分に極めたと言ってもいいS級である。
相変らず、この学校ぶっ壊れてるなとも思った瞬間だった。
「それで裕樹さん。あと一人は決まってるの?」
「あぁ、隣のクラスの────」
「おまたせ」
胡桃さんの問い掛けに答えようとしたら、待ち人が来た。
「……なるほど、ひづみさん」
「アンタは、胡桃か」
「知り合いだったのか?」
会ってそうそう、互いの名前を口に出したことにビックリしたが、そういえばこの学校がエスカレーター式でもあることを思い出した。まぁ、お互い中等部出身だから知ってても当然か。凛達ともそうだったし。
「うん。去年、同じクラスだったの。ひづみさんがいて、凄く心強いよ」
「私も。バックアップ、期待してる」
「それでは、五人揃ったことですし────」
「小鳥遊隊!しゅっぱーつ!」
「え?俺?」
何故か俺がリーダー的ポジションに据えられた。周りを見ると、既に何組かはアビスの捜索に向かっていたので、俺達も移動を開始した。
瑠璃学園が存在する
つまり、何が言いたのかと言うと──────
「ご、ごめんね裕樹さん。私、どんくさくて……」
「良いって。気にすんなよ」
────めちゃくちゃ捜索範囲が広いのである。
ヒロインの森での移動手段は、主に木の枝から木の枝に飛び移る忍者式。利点としては、移動速度が早くなるし、視点が高いため遠くまで捜索できるなどなど。様々なメリットがあるので推奨されているが、まぁ慣れるまでは普通に難しい。
ヒロインにも、運動神経は存在する。なので、運動神経が多少良くないヒロインがこれを実行しようとすると、木の枝から足を滑らせることがあるのだ。
そして、つい先程それを実行してしまった胡桃さん。地面に激突する前に俺が抱えることに成功したが、心配なのでそのまま抱き抱えている。
「それに、胡桃さんにはこの後狙撃で沢山活躍してもらうから、体力は温存させないとね」
「……ありがとう」
「むー……」
「私もドジすれば良かったかしら……」
「たらしめ……どれだけ堕とせば気が済むんだ……?」
なお、三人からの厳しい視線は気にしないことにする。
『ポイントFでエクシア隊が二分前に交戦。対象未だに迎撃できず。怪我人なし』
本部からの情報を元に、移動を開始する。アビスが脱走をしてからもうすぐ一時間経とうとしているが、慎重なアビスなのか。未だに戦闘報告が二回しかない。
「厄介だなめんどくせぇ……」
「実験体にされてましたからね。もしかしたらアビスがヒロインに対して恐怖心でも抱いてるんじゃないですか?」
「ありえそうだな。美音様だし」
「ありえそう。美音様だから」
「あの人ほんと信用されてねぇな」
まぁ、腕は確かだけどたまにやらかすからな美音様。伊達に研究狂とは言われてねぇわ。
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美音様やらかし集
・アビス脱走(計六回)
・地下18階で謎の爆発
・部屋一つを爆発で吹き飛ばした
・新装備の使用者は大体魔力欠乏症で倒れる
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