第7話

「ほぉ……動きが段違いじゃないか小鳥遊裕樹」


「……分かります?」


 メカアビスが機能を停止させると、火蛇穴先生が話しかけてくる。


「一線を退いたとはいえ、目までは衰えてないからな。……今まで、お前は攻撃をする時に一瞬だけ腕が止まる瞬間があったからな」


 フィールドにあがり、俺に近づいてくる火蛇穴先生。


「お前は私に言わなかったが、顔には今まで出ていたぞ?」


「え、まじです?」


「大マジだ。あからさまに眉を顰めてたからな」


 マジか。と思いながら眉間を揉んでみる。今までそんな顔してたのか。


「だから、いつお前が相談に来てもいいように、私も色々と調べてたんだがな……全く。手のかからない生徒だことだ。嬉しいやら悲しいやら」


「ちょっ……」


 先生が、俺の頭に手を置いて優しく撫でてくる。手を払おうと思ったが、今まで俺を見てくれてたことに対して、罪悪感が湧き上がったので、払うに払えない。


「ま、とりあえずお疲れ様。良かったな、色男」


「……色男っていうのやめません?」


 なんだか、少しこそばゆい気持ちになったのでちょっと話をずらした。そいつは聞けない相談だな。と、頭を二回ポンポンとした火蛇穴先生は、そのままフィールドを降りていったので、俺も後を追って次の生徒と交代する。


「お疲れ様です裕樹さん。すごく、カッコよかったですよ」


「ありがとう。ルナさんも頑張って」


 パチン、とクラスメイトとハイタッチして、凛と奏多の待つ所へ戻る。二人は、態々立ち上がって拍手をしてくれた。


「別に、態々立ち上がらなくてもいいんだぞ?」


「いえ。せっかくの偉業達成なのですから」


「とても凄かったです!」


「ありがとう」


 二人がわざわざ開けていてくれた真ん中に入り、もう一度芝生の上に座る。フィールドに目を向けると、ルナさんが攻撃を上手く攻撃を掻い潜っている所だった。


「しかし、四秒ですか……。また、超えるべき壁が出来上がりましたね」


「しばらく、追いつかなくていいんだぞ?その間、守ってあげれるから」


「あら、大人しく守られるだけの存在ではありませんよ?」


「そうです!私も追い抜いて、背中を合わせられるようになりますから!」


 フンス!と胸あたりで握り拳を作る凛。仲間であり、腕を競い合うライバル。今の雰囲気がとても心地よく、誰からとなく笑いだした。


「さて、全員終わったことだし、これからどうす──────」


 バチッ、と弱々しいが項に痛みが走り、後ろを向いた。視線の先には、魔力工作棟のある位置。


「裕樹くん?」


「裕樹さん?一体どうされ──────!!」


 突如として、学園内にけたたましく響くサイレンが鳴った。


 瑠璃学園がサイレンを鳴らす時、実は音が二種類ある。


 一つは、海からアビスが近づいてきてる時。今までに二回ほどなった事があるが、防衛任務に出ていたギルドがどちらも撃退したため、こちらはさほど問題ではない。


 問題は、もう一つの方。それは、魔力工作棟でが何らかの手段で脱走してしまった時である。


「一体何をやらかしたんだ美音様……っ!」


 鹵獲されたアビスに対し、実験権限があるのは美音様の含む一部の生徒のみ。しかし、積極的に実験をするのは美音様だけなので、必然的に犯人が分かってしまった。


 分かりたくないのに、分かってしまった。


「しかし、この時期で脱走アビス騒動ですか……今この時期、多くの二、三年生の先輩方はいませんのに……っ」


 一部の生徒を除き、現在の先輩方は本土の方に行っており、領土奪還作戦を行っている。


 春夏秋冬と、一つの季節で1回毎に行われる大規模作戦。一週間掛けて行われるそれは、『陥落指定区域』と呼ばれる、人が住めなくなった地域に、ヒロインを派遣してアビスを殲滅させるというものである。


 花火様は生徒会なので、学校に残っているが、主力部隊は本土に行っているため不在。しかも、花火様は指揮を執ると考えられるから、戦場に出ることもない。


 つまり、俺ら一年生でこの騒動を解決するしかないのである。


「……ハッ、学園が初めての戦場になるなんて」


「緊張してますか?」


「まさか。早くも専用機が役に立ちそうでうずうずしているよ」


 本来ならば、哨戒任務とかで実際のアビスに対してお披露目するはずだったんだがな……まぁいいか。


『一年生の皆さん。現在、魔力工作棟からアビスが脱走しました。危険度ランクはA-です。五人一組で捜索にあたり、討伐をするよう協力願います。繰り返します。一年生の──────』


「────聞いてたか!五人一組でチームを作って討伐に当たってくれ!まだ、目標タイムに到達していない生徒は、申し訳ないが、今は避難の方を────」


「……裕樹さん」


「あぁ。とりあえずあと二人……どうするか」


 俺と凛と奏多が組むことは既にアイコンタクトで決めた。


「私、一人連れてきますね!」


「任せた凛。あと一人は────ん?」


 ピリリリ、と端末がメールを受信する。取り出すと、ひづみの名前が出ており、『すぐ行く』と簡潔に表示されていた。


 ふむ、どうやら五人。決まったらしい



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次話から『あそぼ』の部分です。裕樹くんの周りにはトラブルが絶えませんね(大体作者のせい)


面白いと思った方はフォローや、応援、星評価の方をよろしくお願いします。ランキングよ……っ!伸びろっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る