第6話

 戦闘訓練。経験者であろうと、初心者であろうと、高等部に入学したら必ず三ヶ月は教導官のもとで受けなくてはいけない授業である。


 魔力工作科である美音様がはっちゃけにはっちゃけまくり、作り上げたメカアビス────通称『マシギナリックエンペラースタウト四世』。


 なぜそんな名前にしたのか。一体一世や二世はどこに行ったのか。その真実は美音様しか知らないため、みんなはメカアビスと呼称している。


 だがしかし、変な名前だからと侮るなかれ。メカのくせにやけに早い俊敏力や、そこら辺のアビス以上の攻撃力を誇る一撃。更に、装甲ですら機械型のアビスより硬く、一定時間で自動修復してしまうというおまけ付き。


 怪我だけはしないように、生身に当たった場合はセーフティが高速でかかるようになっているため、骨折などの危険性はない。だがしかし、ジャガーノートで打ち合うと腕が痺れるくらいの攻撃力はある。


 更に言うと、俺、アレに初見で負けた。


 いや、あんなん初見殺しすぎやて。スタート同時に高速で後ろに回ってくるし、攻撃パターン多すぎるし、あと普通に力が強い。


 まず、スタート背後移動からの横振り一撃で、クラス大半のヒロインが死亡判定。俺含む五人が空中に逃げて、残りの十人が前転で回避したり、攻撃を受け止めたりして地上で回避。


 まず地上組。ジャガーノートぶっ飛ばされたり、回避後に複数の触手で追撃されて死亡判定。これを掻い潜ったのは凛のみ。


 空中組。逃げ場もなく回避も難しい触手の360度全方位追撃で俺と奏多以外が死亡判定。間髪入れずに飛んできたミサイルに気を取られ、直撃。俺、死亡判定。


 攻撃に転じた凛だが、複数の触手でジャガーノートを絡め取られ、至近距離ガトリング(痛くない)で死亡判定。


 唯一残った奏多が、全てを掻い潜って一撃を当て、勝利判定。所要時間は45秒。


 つまり、これが本当の戦いなら奏多以外生きていないということである。


 まぁぶっちゃけ言うとこのメカアビス。危険度ランク換算で行くとS+はくだらないらしいので、あんまり気にしなくていいと花火様には言われたが、本番ではこれは通じない。


 戦闘なんて、初見殺しは当たり前。更に、アビス討伐に行くためにはコイツを30秒以内に倒せないと出撃の許可さえおりない。


 という、鬼畜な戦闘訓練なのだが、まぁ慣れればほぼ全員が倒せるようになっていた。30秒を超えているクラスメイトもいるが、まぁ見ている限り時間の問題だろう。流石は瑠璃学園と言ったところか。


 今ではどれだけ早く倒せるかというタイムアタック的な意味も込められている。現時点でクラス最速は奏多の8秒。次に凛の10秒と来て、俺の15秒。


 ちなみにだが、歴代最速は花火様の0.7秒である。まぁ予想出来てた結果だよね。


「だがしかし!俺は今日学年最速を超えるぞ〇ョジョー!!」


「裕樹さん……?いつもとテンションがちょっと……」


「あははは……専用機が出来てテンションが上がってるんだ。男の子だね、裕樹くんも」


「まぁ。それは可愛らしいですね」


 現在の訓練が終わったのを確認してから、火蛇穴先生に言って順番予約をしてもらう。


「……美冴から聞いているが、出来たのか?」


「はい。出来ましたよ」


 持っている鞄を見せて、自信満々に笑みを浮かべる。それを見た火蛇穴先生は、フッ、と笑った。


「そうか。期待しているぞ小鳥遊裕樹。歴代最速を越えろ」


「いやー、流石に花火様越えはちょっと……」


 それは絶対に無理。


 三人ほど、戦闘訓練を見届けてから、専用のフィールドに入る。


「頑張って、裕樹さん!」


「おう。おつかれさん」


 俺の前に訓練を終えたクラスメイトとハイタッチをしてから入れ替わる。パンっという子気味いい音を響かせてから、鞄からジャガーノートを取り出した。


「……あれ?」


「裕樹さんのジャガーノート……」


「マルミアドワーズじゃない!?」


 俺を見ていたクラスメイトがザワザワし出す。火蛇穴先生が端末を操作し、メカアビスを起動させた。


 ジャガーノートに魔力を流し、いつでも分裂させれるように待機。あとは、合図を待つだけである。


 メカアビスの形は、真ん中の球体を本体として、足が四本、背中に伸縮可能の触手(型機械)が10本。


 アビスの目を模した赤色の瞳が俺をギョロギョロと見つめる。


「始め!」


「!」


 メカアビスの攻撃パターンとして、まず最初は超高速で近づいてくる。これを基本として、大振りなのか、ガトリング連射なのか、ミサイルぶっぱか、触手攻撃で別れるのだが────今回は大振り!


 ジャガーノートをメカアビスの大振りに合わせて、縦に振る。ぶつかった衝撃の勢いを利用して、同時にジャンプしてローリングのように躱す。


 魔力を流して、アロンダイトの刀身を11個に分裂させ、指揮棒のように腕を振るう。もう既にコチラに攻撃を開始していた触手の数に合わせ、同じように刀身をぶつけていき余った一つの刀身を本体へと飛ばしていく。


「チェックメイトだ」


 ガガガガ!と、触手と刀身がぶつかる。その分の衝撃がワイヤーを通じて腕に来る。予想以上の衝撃に多少驚きはしたが、もう既に王手はかけた。


 一拍遅れて、メカアビスが吹っ飛んでいき、機能停止する。攻撃を受け止めた上での反撃。


 所要時間は、およそ四秒。


 完全勝利である。


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メカアビスさん。こんな強いのにアビスを倒せないんですよ。無機物で無意思だから、魔力を保有できないんだ……。動力は電気。コンセントで充電可能。

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