第5話

 ふよふよ浮いている刀身を見続ける。スぃー、スぃー、と浮遊し続ける刀身を目で追う。


 いや……出来ちゃったんだけどこれ……どうすればいいの……?


 当然、専用機というものは易々とできていいものでは無い。


 個人のヒロインと完全マッチングしなければいけないため、少しでも調整をミスると汎用機より使い勝手が悪くなるし、使い手の魔力に耐えきれず爆発四散してしまう可能性がある。


 そういった失敗を繰り返し、何度も何度も微調整を繰り返しながら、やっとの思いで作り上げるのが専用機なのだ。


 それが、変なテンションとノリでうっかり完成して溜まるかぁ!


 いや、してるんですけど……。


 試しに、巻き取り用に、グリップ部分に付けられたスイッチを押すと、ワイヤーが巻取られていく音を発生させながら、ガチャン!と音を立てて一つに戻った。


 蛇腹剣アロンダイト。


 変なテンション時に、『ワンチャンアビスと似たような武器作ったら違和感もないんじゃね?』という天才的(?)な発想から生まれた。フェンリルとの一件以来、自由に触手を背中から生やせるようになった俺は、色々とポージングをさせつつ設計図に書き起こした。


 全長およそ2mほど。柄部位が50センチ、残りが刀身のスタンダードな剣タイプ。砲身を完全に切り捨てたので、余ったスペースにワイヤー約200mが詰まっている。


 刀身部分には、横の切れ込みが5センチ間隔で入れられており、魔力の込め具合で分断させる刀身の長さの調節を可能としている。最大で、30個までならいける。


 この刀身は、全てワイヤーで繋がっているのでどれか一つだけ飛んでいくということは無い。更に、ワイヤーは刀身内で移動することも可能なので、刀身と刀身の間隔もワイヤーの長さ内でなら自由に動かせるというのも強みである。


 そして、ワイヤーには『硬化』と『斬れ味強化』と『伸縮自在』を。刀身には『浮遊』と『硬化』と『斬れ味強化』の魔力刻印もしているため、その気になればワイヤーだけでアビスを倒すことも可能。


 はい、ぶっ壊れです。なんなのこの武器。よく作れたなら俺。


 自分で作った武器に心底驚いていると、ドアがノックされ、扉が開いた。


「ごきげんよう裕樹くん!朝から元気な私が顔を見せに来ましたよ──────って」


 顔を見せたのは凛だった。彼女は、俺の持っているアロンダイトと、俺の顔を二度見した後──────


「えええええ!?出来てるぅー!!」


 と、大声を出したのであった。


「えっ!?ちょっ!?裕樹くん!!」


「ごきげんよう凛。朝から元気だな」


 なんか、人が驚いている姿を見ると、急激に落ち着くよね。凛のおかげで落ち着いたわ。


「ほ、本当に出来ちゃったんですか!?」


「出来ちゃったんだなこれが……」


 試しに、少しだけ魔力を込めて刀身を飛ばす。直ぐに、親指でスイッチを押してから直ぐに戻す。


 ふむ、自然と自分の手足のように刀身を分けることも出来るのか。やはり専用機凄いな。


「あ、ありえないです……私の専用機だってピーキーの性能に、カスタムにカスタムを重ねて、五ヶ月かかったんですよ……?」


「いや、まぁ俺も20回はやり直ししたが……」


 時間だけは腐るほどあるからね。寝ないでいいし、食欲もまだ大丈夫だから24時間フルに活動できるのが強みだから、それを利用してぶん回してただけだし。


「それでもおかしいです。裕樹くんは、自分がおかしいということを自覚してください」


「え、なんかすいません……」


 目のハイライトが若干消えかかってる凛に対し、ついつい謝罪の言葉が口に出てしまった。


「……折角、態々早く起きて、中々専用機が出来なくて落ち込んでいる裕樹くんを慰めてあげる予定だったのに…」


「……いや、なんかその……本当にごめん」


「……そこは難聴系であってくださいよ……」


 ごめんて。


 逆に俺が凛を慰める状態になり、頭を撫でること10分。ようやく立ち直った凛を連れて、出来上がったジャガーノートを鞄に入れてから部屋を出た。


 2mもあるアロンダイトだが、刀身が分断可能なので、マルミアドワーズで使っていた鞄でも十分に入る。そして、今までお世話になったマルミアドワーズは、保管庫へと送っておく。


「とりあえず、これでようやく奏多とどっこいどっこいと言った所か。専用機使わないであの強さだからなぁ……学年最強はちげぇわ」


「あの人は全てが規格外ですから、仕方ないと言えば仕方ないです」


 魔力保有量世界一!ジャガーノート会社の社長令嬢!座学成績学年一位!色々とぶっ壊れである。


「……要素あげたら属性てんこ盛りだな奏多。ラノベの主人公じゃん」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

強さ順

花火>越えられない壁>専用機裕樹≧専用機凛、奏多>凛>裕樹


つまり、花火様が一番強くて可愛いってことよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る