第11話

「さて、すまないな少年。こんな朝早くに」


「いえ、まだ睡眠欲の周期には余裕があるので大丈夫ですよ」


「周期」


 伊織ちゃんを助け出した次の日、俺は朝早くから長月さんに呼び出され、学園長室にいた。窓から差し込む朝日が、ようやく上がり始め、長月さんの顔を照らす。


「昨日はありがとう。大丈夫だったか?」


「その大丈夫が精神を指しているとしたら全く問題ないですね。むしろ、清々しい気分です」


 昨日は、かなりのストレスが発散出来たため、感じていた殺意は大分薄れた。普通に過ごしていれば問題は無いだろうが、また目にしたら溢れ出る予感はする。


「そうか……。時に少年……昨日、なにか違和感は感じたか?些細なことでいい」


「……違和感、ですか?」


 と、言われ少し考えてみるが、全くもって分からない。まぁたしかに、人の形をした生き物を殺したことになんの忌避感も感じていないのは少し疑問だが、まぁそこら辺は一回死んでるから。で説明が着く。


 他に違和感……?ダメだ。分からん。


「……すみません長月さん。降参です」


「ふむ……まぁ仕方ない。過去、この話をして違和感を持ったヒロインは一人もいなかったからな」


「えぇ……」


 じゃあなんで呼んだんすかね、と思いながら続きを促す。


「少年。少女達が、顔色を変えないで、違和感は覚えないか?」


「………あっ」


 そういえばそうである。俺はもうアイツらを別に人として見てなかったから何も感じないが、ヒロイン達はそうもいかないだろう。デリケートな子ならば、一生心に引きずる可能性が高い。


 確かにひづみも、本部に戻った時も、誰も気にしていた様子は無かった。まるで、彼女たちも何も感じていないような────


「これはまだ仮定だが……魔力には、フェンリル所属の人間に対してだけ殺意衝動を増幅させる効果があるのでは無いか。と、私含む魔力工作科は見ている」


「!」


 確かに。というのもあれだが、フェンリル研究所内では、常に殺意が溢れ出ていたことは覚えている。


「そして、これもまた仮定だが、アビスにも襲う優先順位というのも存在してるんじゃないかと見ている」


「え……いや、いやいやいや」


 流石にそれはないでしょ……。だって、アビスは魔力によって操られている化け物で、人ならば皆等しく襲うはずだろ。


「偶然かどうか知らないが、一人のヒロインがアビスとの戦闘時に、フェンリルが乱入しようとした時があったらしい。勿論、その少女はフェンリルの正体を知っていたから何とか離脱しようとしたんだが、奴らがアビスの視界に映った瞬間、ヒロインを無視してフェンリルの奴らに襲いかかったそうだ」


「……ほんと、何ですか?」


 俄には信じ難いことである。もしかしたら、気まぐれに殺そうとしたのかもしれないし。


「まだ確証数……というか、本当はそんなこと起こって欲しくは無いが、過去三件とも、アビスはフェンリルを執拗に狙った」


「……なるほど、アビスもヒロインも、使い方は違いますが魔力を体内に宿してますからね」


「その通りだ。まぁフェンリルのヤツらを殺したあとは、普通にまたヒロインの方に襲いかかってくるため、どっちみち倒さないといけないのだが」


「……謎、ですね」


 でもまぁ、確かにこれだけの共通点があるとするなら、人ではなく魔力の方に焦点を当てるのは無難か……。


「このことから、我々は一つの結論を出した。ぶっちゃけ仮定の仮定の結論だが、あながち間違いでは無いと思う」


「それは?」


「恐らく、アビス──────」







 ────アビス、そして魔力はフェンリル。もしくはフェンリルの前母体によって造られた可能性が高い。


「まぁでも、確かに話を聞いている限りでは大きく外れてる訳じゃなさそうだな……」


 長月さんから聞いた話で、頭がショートしそうになったので中庭の木陰で休んでいる。


 長月さんが言っていた内容を、一つ一つ噛み砕いて頭に落とし込む。二つ目の仮定については、俺が一度その場面にでくわせたらいいのだが……長月さんのお説教が少し怖い。


「分かんねぇなぁ……」


 ゴロン、と横に寝転がり目を閉じる。心臓横にいるアビスに意識向けて、何か答えてくれないかなーとか思っていたら、横からザクザクと雑草を踏みつけ、近づいていくる音が聞こえた。


「ねぇ、アンタ」


 ゆっくりと瞼を開く。そこに居たのは、俺に下着を見られないように少しだけスカートを抑えながら覗く、黄色の瞳が特徴の彼女。


 一瞬、ひづみと言いかけた口を閉じる。この言葉は、きっと今彼女が求めている言葉では無い。


「君は確か────」


「夕凪ひづみ。


 しゃがみ混み、言いかけた俺の口を人差し指で塞ぐ彼女。


「そして、これからもよろしく。祐樹」


 指を離し、はにかむ彼女に、俺も笑顔で答える。


「あぁ。小鳥遊祐樹だ。よろしくなひづみ」


 一昨日とは違い、何の打算もない友達同士の挨拶。


 ここから俺達はまた、友達として、仲間として、絆を深めていく。



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ということで第3章でした!新ヒロインのひづみちゃん!皆さんは気に入って頂けましたでしょうか!


第3章では、かなりこの世界の闇に触れたと思います。伏線もめちゃくちゃ張りましたので、答え合わせが来た時に「あぁー!」となってくれたら嬉しいです。


この小説が面白い!続きが気になる!と思った方は是非、応援やコメント、星評価の方をよろしくお願いします。目指せランキング一桁。ダンジョン配信系に風穴開けたいんです……。


次は、第4章『作ってあそぼ!ジャガーノート制作!』でお会いしましょう。


それではまた、夢の中で

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