第10話

 誰もいなくなった研究所を歩く。正体バレの為に被っていたフードも、もう必要ないと判断して外し、ひづみの後を着いていく。


 もう既に、この研究所で戦闘の音は聞こえない。先程、全ての研究員の駆除と、捕らえられていたヒロインの保護をしたと連絡が来た。


「ここだ」


 目の前にあるドアを蹴飛ばして部屋に侵入する。この部屋は、長方形の部屋となっており、部屋の奥に彼女はいた。


「これは……」


「生命維持装置と治療装置を兼ねている機械だ。伊織の癌は完璧に治ってはいるが、私に言うことを聞かせるため、何かあれば伊織を殺すプログラムが組み込まれている」


「それは……クソみたいなことをしているな」


 目の前には、ガラスと機械で汲み上げられているカプセル。そこに彼女は安置されていた。中は液体で満たされており、口には酸素マスクが繋げられている。


「スイッチ一つで伊織はそのまま窒息死すると言っていた……どうやって助け出すか……」


 コンコンとガラスを手の甲で叩く。これくらいだったら、壊せそうな気もするが……。


「窒息なら、ガラスを割って液体を外に出すってのはどうだ?」


「……そうだな。頼めるか?」


「任せろ」


 少し、ひづみには離れてもらい、ジャガーノートを二回ほど振り、ガラスに傷を付ける。バツ印のように付けられた傷は、そのままピシリとヒビがガラス全体に伝わり、そのまま崩壊する。


「よっ……と。息は……あるな」


 液体が抜け、支えがなくなり倒れ込んできた伊織ちゃんをささえ、口元に耳を持っていき呼吸をしているか確認。そのままお姫様抱っこで持ち上げる。


「伊織!」


「大丈夫だ。瑠璃学園に戻ったら精密検査をすると思うが、息はしっかりとしている」


「そうか……伊織……本当に良かった……」


 未だに目を覚まさない伊織の手を、両手で握りしめるひづみ。彼女の背中が震え、横顔からは、銀の筋が流れているのが見えた。


「……お、ね……」


「っ!」


 か弱い声が、空気を揺らして耳に届く。顔を見ると、ピクリと瞼が揺れて、彼女と同じく黄色の瞳を覗かせる。


「伊織!」


「お、ねぇ……ちゃん」


「待て。今は、この子を休ませてあげる方が先だ。早くこんな所から出よう」


「……そう、だな。話は学園に戻ってからでも沢山できる」


 名残惜しそうに、伊織ちゃんの手を離したひづみは、くるりと背中を向けた。


「行こう。私が先導する」


「分かった」


 走り出すひづみの背をおって、伊織ちゃんに負担がかからないように、慎重に走り出した。


「……おう、じ……さま?」


「………」


 一瞬だけ動揺してしまったが、何とか顔には出さないですんだ。この発言、ひづみに聞かれていた時のことが怖い。







「ひづみさん、祐樹さん」


「花火様。お疲れ様です」


「お疲れ様です」


 瑠璃学園医療用ドクターヘリに、伊織ちゃんを乗せて見送った俺達の元に、既にフードを外した花火様がやってくる。それを見て、俺たちは頭を下げた。


「申し訳ありませんひづみさん。あなた達が最後に来たと言うのに、あなた達に全て任せてしまって」


「い、いえ……その、伊織が捉えられてた所は、私と局長位しか知らなかったので、無理もないです」


「それに加え、花火様たちは全フロア全部屋虱潰しに探していたので、時間が掛かるのも無理は無いと思います」


 俺らが一番最初に伊織ちゃんを見つけれたことは、ひづみがあそこで暮らしていたことが一番でかい。俺は、その恩恵にあやかっただけである。


「そう言って頂けるとありがたいです。あと三分ほどで迎えが来ます。それまで、ゆっくりしていてください」


 と、何故か俺の頭を撫でながら言う花火様。最近、何かと花火様が俺の頭を撫でようとしてくるのは何故だろうか。マイブームにでもなってるのかな。


 ひとしきり撫でた後、本部の撤去作業があると言って離れた花火様。それを見送ったあと、クイッとコートの裾が引かれる。


「……その、祐樹。ありがとう」


「いいって。そんなお礼言わなくても」


「いや、言わないと私の気が収まらないんだ。大人しく、受け取ってくれ」


「……分かった」


 全然引きそうにないひづみに頷く。そう言うと、彼女はほんの少しだけ笑ったのだが、直ぐに不安一色に変わった。


「そ、その……」


 片手で摘んでいたのが、もう片方の手も伸ばして、両方で俺の裾を掴む。


「今回、祐樹に近づいたのはアイツらの指示だった……けど、今度は、支持と関係なしに……また、話しかけてもいいか」


 彼女の体が震えている。確かに、ひづみからしてみれば、これを言うのは凄く勇気を振り絞っただろう。


 だから俺は、会えて軽い感じで受け流す。あまり、ひづみにはこのことを引きずって欲しくないから。


 軽く笑った後に、ひづみの頭に手を伸ばしてくしゃくしゃと撫で回した。


「んっ」


「当たり前だろ。俺達はもう、友達であり仲間だからな。いつでも大歓迎だよ」


「……うん。ありがとう、祐樹」


 そして、彼女は疲れたのか、目を閉じてそのまま俺に寄りかかってくる。そんな彼女を、俺は迎えが来るまでずっと撫でていたのだった。







「芸術は爆発です。スイッチ起動」


「了解。爆弾、起動します」


 迎えのヘリが来た後、花火様がそう支持すると、先程まで研究所があった場所から『チュドーン!』という音が聞こえ、大量の煙が舞った。




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次の話で、この章は終わりです。少し、物語の根幹に関わるかも………?


信じるか信じないかはあなたしだ──────おっと、誰か来たようだ。

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