第9話

「そいつは、私が殺す」


「………」


 ひづみの目を見る。彼女は、黄色の眼がまっすぐ俺を見ている。


「……分かった。存分に殺れ」


「あぁ。ありがとう」


 ひよっているようだったら、そのまま俺が刺していたが、彼女は覚悟を決めていた。俺はこいつらを人として見ていないが、ひづみは大丈夫なんだろうかと思ったが、まぁ大丈夫だろ。殺してた俺を心配していたくらいだし。


 でも、このまま何もしないのはやっぱり癪なので、最後に顔面を踏みつけてから離れる。鼻の骨を砕いた感触がしたが、まだ死にはしないだろ。腹貫かれても動く元気があったのなら。


 ボロボロに寝ている奴に、ひづみが近づき、片手でジャガーノートを持ち上げる。


「ま、待て084番!いいのか!そういうことをしていいのか!」


「うるさい」


「ぎゃあああああああああああ!!!」


 無表情に、作業的に、一瞬にして奴の四肢を切り裂いて達磨状態に。血飛沫が彼女を濡らすが、その目は何の感情も乗せてはいない。


「あっ、……ま、し、死にた────」


「ま、助けてくれたことに対しては、そこら辺の石程度には感謝してるよ」


 血に濡れることもお構い無しに、奴の胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「でも、お前達は私を────私たちを弄び過ぎた。地獄でももういっぺん死んでこい」


 そして、空中に奴を投げ飛ばすと、そのまま脳天から真っ二つにその体を切り裂いたのだった。


「おつかれさん。恨みは晴れたか?」


「スッキリ。もうなんの憂いもない」


「そりゃよかった。だが」


「ん……」


 俺は、来ているコートの裾でひづみの顔に着いた血を、少しフードを上げてから拭いた。


「あんまり、顔は汚すなよ。綺麗な顔が台無しだ」


「………ばか」


 ひづみは、恥ずかしそうに少し顔を逸らしたのだった。








 私と、妹の伊織は、小さい頃フェンリルに助けられた。


 孤児院で過ごしていた私達。ある日、妹の伊織が癌になってしまった。


 癌の治療には、莫大なお金がかかる。孤児院には、そんなお金は無いため、伊織の手を握って泣いてばかりのあのころ、あの男が私達に声をかけた。


 ま、今にして思えばヒロイン適正のある私達に恩を売って、実験台のモルモットにしてやろうと画作していたのだろう。フェンリルへの感謝の気持ちは、三日で消え去った。


 それから、私は実験台として生きていくことになった。病気が治ったばかりでまだ弱い伊織が、実験に巻き込まれたら伊織は死ぬ。ヒロイン適正のある実験体は、貴重なためか、私の意見『伊織の代わりに全部私がやる』は素直に通った。


 変な注射器を打たれたり、身体中に電気を流し込まれたり、フェンリルが作っている人工アビスの実験台になったりと、散々な日だった。


 そんな日々が続いて二年ほど。野外実験の護衛役として、移動していた時に瑠璃学園に救われた。


 私はもう、その頃にはヒロインとして覚醒していたので、そのまま即戦力として瑠璃学園に入学……いや、この場合は転入?まぁいい。在籍することになった。


 でも、私はずっと伊織の事が気掛かりだった。伊織は、私が呑気に学園に助けられている間にも、奴らの魔の手は忍び寄っている。


 その時、私に一件の着信がかかる。


「……もしもし」


「久しぶりだな。被験ナンバー084番」


「!?」


 その日から、私のスパイ活動が始まったのだった。


 依頼内容は、役に立ちそうなレア物ギフトを持っている生徒の情報や、強いヒロインの情報。心苦しく思いながらも、私はフェンリルへちょっとした嘘を交えながら渡した。


 それさえ守れば、伊織は無事なのだから。


 瑠璃学園の生徒の情報は、フェンリルにとっては宝の宝庫。流し続ければ、情報の精査やらで時間が取られ、伊織には手を出せない。そう思った。


 そして、遂に『祐樹と接触。クリアすれば伊織を解放する』という任務を受けた。


 どうやら、奴らはもう祐樹を捕らえたような気になっていて、ヒロインに関係する実験道具を全て別の施設に移し、祐樹専用の実験場にしていたらしい。


 任務は今、私の顔に着いた血を拭っている祐樹によって止められ、元凶であるクソ野郎も殺せた。


「よし、取れたな」


「ん……その、祐樹……ありがとう」


「気にすんなって。仲間を助けるのは当然なんだからさ」


 フード越しに、頭を撫でられる。すると、今まで普通だった心臓が急に早鐘を打ち始め、顔に熱が溜まっていく。


 ……待って、おかしい。さっきまでこんなこと無かったのに、急に祐樹の事がかっこよく────


「……ひづみ?なんか顔が赤くなってる要な気がするけど大丈夫か?」


「……っ!み、見るなバカ!」


 慌てて祐樹の手を払い、フードを両手で抑える。


 おかしい……こんなのおかしい!


 我慢できなくて、チラリとフードを上げて祐樹の顔を見る。そしたら、彼は少しだけ首をコテンと倒した。


「……っ」


「……ほ、本当に大丈夫か?」


「だ、大丈夫だ!」


 嘘。本当は全然大丈夫じゃない。


 だって、こんな恋をする乙女の反応なんか、普通であるわけないじゃんか。








「そういえば、なんでフード被ってるのに俺とひづみの正体当てれたんだアイツ」


「アビスアーマーは身体強化もされてるって言ってたな……骨格とか見えてたんじゃないか?それと、ここの入口はアイツ以外だと私くらいしか知らないし」


「なるほどなぁ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

と、かるーくひづみ姉妹の過去話+心情話でした。やはりイケメンだなこの主人公。


このヒロインにどストライクに突き刺さる行動しかしない主人公。ハッキリ言ってヒロインキラー

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