第8話
ジャガーノートを持っている手に力が入る。
「飛んで火に入る夏の虫とはよく言いますが、わざわざイレギュラーの方から────」
「黙れ。その口を閉じろ」
ひづみを地面に下ろしてから、一直線に男に向かいジャガーノートを振り下ろす。
「おやおや。血気盛んですね」
「その余裕の態度、いつまで持つか楽しみだな」
今の俺は、相当頭がクリアの状態だ。普段より相手の動きが見えて、体も普段よりよく動いている。
振り下ろしたジャガーノートは、やつの背中から生えている触手に受け止められる。手に伝わる硬い感触。流石にこの程度は耐えるか……めんどくせぇ性能をしている。
「この程度です────かっ!」
「!」
ジャガーノートを触手で掴んでいる間に、左右の両手で殴ってくるが、俺の目にはハッキリと見えている。
速い、が技術もない単調の直線攻撃。首だけを動かして余裕で躱す。
「なんだ?デカい口叩いてその程度か?」
「────チィ!」
「祐樹!加勢する!」
俺の後ろから現れたひづみは、大剣型のジャガーノート『カラドボルグ』を力一杯振り下ろす。自身の背丈より大きく、その一撃は流石に答えたのか、両手をクロスして守ったが大きく下がる。
「流石に硬いか……」
「ひづみ、あの装甲知っているか?」
「噂にしか聞いたことないが……あれは恐らく『アビスアーマー』だ」
「ご名答。084番」
パチパチと、大仰に拍手をするアビスアーマーを着込んだ男。
「私達男は、そこのいるイレギュラー以外は魔力を操れませんからね。ならば、最初から魔力を持っている奴らを操ろうという提案が出まして」
「……なるほどな。さっきから項が疼くと思ったらそれが原因か」
お見合い決闘の時に感じた痛みほどではないが、コイツが出てきてから常に項ががザワついていた。
恐らく、あの装甲にはアビスの一部、もしくはアビスを改造したものが使われているんだろう。確かに、殺さなければ消えないからな、アイツらは。
「便利なのですよコレ。身体能力も跳ね上がりますし、アビスを使っているので、襲われることもありません────なので、ヒロインを拉致するには丁度いいんですよ」
「殺す」
聞きたい情報は聞けた。早くこいつを殺さないと、俺の心が怒りと殺意で溢れてどうにかなってしまいそうだ。
幸い、今までヒロインを拉致していると言ってる割にはそこまで脅威を感じない。ぶっちゃけ、花火様の方が強い。
「ひづみ!まずはあのアビスアーマーというやつを壊す!あれさえ剥がれればあとは雑魚処理だ!」
「いや、あの装甲相当硬い。普通のアビスだったら、私の一撃で吹き飛ぶはずだ。だから、中身を潰した方がいい。流石に衝撃までは完璧に逃がせないだろ」
「……なるほどな」
確かに、さっきのひづみの一撃は少し痛そうにしていた。
なら、徹底的に壁とか床とかに叩きつけて、さらにその上から逃がさないように衝撃食らわすか。
「よし、俺があいつの攻撃を捌く。ひづみは遊撃を頼む」
「分かった」
簡単な作戦会議。アイツに聞かれているだろうが問題は無い。それより、圧倒的火力と手数で、押して押して押しまくる。
「ほらほら!どうしますか!」
「……めんどくせぇ触手だなアレ」
アイツ自身に脅威は無いが、一番めんどくさいのは背中から生えているあの触手である。躱すことは簡単なのだが、迂闊に詰めると捕まりかねないし、攻撃力だけはあるので、喰らえばやばい。
……なら、俺も同じのを出すしかないか。目覚めた時は確かに、俺の背中にも触手が生えていた。前試した時は出来なかったが、今なら何となくできる気がする。
ドクン、と心臓が一回強く鼓動し、心臓の隣にいるアビスに意識を向ける。
お前、俺の体に寄生してるんだろ?なら、このクソ野郎を殺すために力を貸せ。
そんなことを思ったからかどうか知らないが、何かが脳へと接続する感じがした。意識しなくても分かる。確かに今、俺の背中からはアイツと同じようにアビスの触手が生えているだろう。
「なっ……!貴様もだと!?」
「これで一対一はイーブンだな。ま、俺を相手にしながらひづみの攻撃をかわすことなんて出来ないと思うけどな」
俺へと襲いかかってくる触手を同じように触手を以て制す。突然増えた感覚に一瞬だけ動揺したが、感覚としては腕を振っているのと同じだ。まぁ一気に八本くらい増えたから少し脳の処理が大変な気がするが、誤差の範囲である。
「倒れろ!」
「クッ……!」
「吹っ飛べ」
「グフッ……」
ひづみの攻撃を躱すために、一瞬だけ視界が逸れたのを見逃さなず、無防備な腹に膝蹴りを噛ます。流石に効いたのか、苦しそうな声が聞こえ、心做しか触手が垂れる。
それを見逃す俺らじゃない。膝を退けた直ぐに、ひづみが間髪入れないで奴の背中からジャガーノートを振り下ろす。無防備の背中に食らった一撃は、相当でかく、床に倒れ伏した瞬間、俺が足で頭を踏む。
そして、逃がさないように先程ひづみが入れた一撃と、全く同じところに俺のジャガーノートを突き刺した。
「グッ……あああああああああ!!!」
「流石に貫いたか……腹側までは無理だったか……」
バキン!とアビスアーマーを砕く音と、腹を貫いた感触。そして、一部が砕かれたアビスアーマーは、魔力を維持できなくなって、消える。
「グッ……うぅ……まさか……ごホッ、この、私……が……!」
「どこに行く」
「ガッ」
頭を踏まれながらももがく男に、死なない程度に蹴りを入れて仰向けにする。
「選べ。このまま無様に蹴られて死ぬか、今すぐその頭をぶち抜かれて死ぬか────どっちがいい」
「ま、待っ────」
「待つかボケが。死ね」
お前は、待てと言われて待った事があったのかよ。
気に入らないので、さっさと殺そうと思い、恐怖を煽るようにジャガーノートを持ち上げ、振り下ろそうとした瞬間────
「待って!」
────その言葉で、手が止まる。
「お願い祐樹。待って」
止めたのは、ひづみだった。
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戦闘シーン下手くそすぎてちょっと不完全燃焼かもしれん。もっと酷い目に合わせても良かった
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