第6話
「よしきた!聞いたか渚!」
「はい。想像以上の成果ですね」
場所を移動して、視点は学園長室。SOUNDONLYと出ているホログラムから、ひづみの『助けて』という声が聞こえたことで、美冴達の心に、更なる闘志が燃える。
実はだが、裕樹が美冴から受け取っていた双眼鏡には、盗聴器が仕掛けられており、先程の裕樹とひづみの会話はバッチリと聞かれていた。
「渚!フェンリル研究支部周辺にいる『マルドゥーク』と、救出部隊はどうだ?」
「マルドゥーク及び、救出部隊合計40名。各自配置に着いています。何時でも襲げ────失礼しました。救出の準備出来てます」
「あいわかった。ヒロイン諸君────殲滅せよ」
『『『『『『『了解』』』』』』』
「それでは全員、担当に別れて行動をお願いします。最優先目標は、ひづみさんの妹さんの救出です」
埼玉県フェンリル研究支部襲撃作戦の指揮を取るのは、ワルキューレの称号を持つ学園最強のヒロインである月下花火。現在の彼女の格好は、全身を黒のコートで覆い、フードも目深に被っていた。
この格好はならば、どこの誰がやったかは分からないだろう。
花火は総指揮のため、今回の襲撃作戦の為に作られた本部から動くことは無いが、ここには世界に名を轟かす優秀なヒロインと、対人戦用ギルドである『マルドゥーク』も存在している。
万が一にも、失敗する要素はない。
『施設のコントロールシステム、ハッキング成功』
『隠し通路の爆破成功。フェンリル研究員を発見』
『アビスアーマー装着者と接敵。交戦を開始します』
最後のヒロインの通信を聞き、少し眉目を顰めた花火だが、まぁあの人ですから問題ありませんか、と頭を振る。
「各員、油断しないで作戦にあたって下さい」
「……その、本当にいいのか?」
「当たり前だろ。遠慮する必要なんてどこにもないんだから」
現在、俺とひづみはひづみの妹である伊織ちゃんを救うため、超特急で現場の埼玉県に向かっていた。
数分前、どこから飛んできたのか知らないジェット機が俺達の近くに着地した所で、長月さんからの連絡が来た。
現在、既に施設に襲撃をしているヒロイン達がいるから、後続部隊として合流すること。
「あんなにも怒りに溢れてたんだ。発散、したいだろ?少年」
「感謝します」
およそ20人くらい余裕で乗りそうなジェット機。パイロットの人にお礼を言おうとしたら、まさかの知っている人でびっくりした。
「……後方科の人ってそんなこともするんですね」
「なにせ、後方科ですからね」
パイロットの人は渚様だった。
ジェット機に乗ったあと、渚様から渡された真っ黒の全身を覆う様なコートを着用し、空の旅を続けて五分。どれだけ飛ばしたのか、久々に見る東京の街並みが見えてきた。
「もう一分もしないで上空を通ります、扉を開けるので、下降の準備を」
「分かりました」
さて、スカイダイビングの経験はないがまぁ何とかなるか。……ところで────
「あの、ひづみさん」
「どうした?」
────あの、なんで貴方様はスカイダイビングらしき荷物も持たないで、開いたドアの前に立っているのでしょうか。
え、だってここ上空1000mくらいだよ?いくらなんでも肉体が強化されたヒロインでも、それは流石に──────
「はいどーん」
「ちょっ!?ひづみぃぃぃぃ!!!」
俺の腕を引っ張り、そのままジェット機の外へと身を投げた俺とひづみ。いってらっしゃーいという、渚様の呑気な声を聞き、俺たちは紐なしバンジージャンプをする羽目となった。
「ひづみ!?ひづみさん!?一体何をやってるんでござるか!?」
「ふふっ、裕樹。口調変」
「ひづみのせいなんだけど!?」
あばばば!!地面が、地面が近づ────ってあれ建物じゃね!?明らか緑の森の中に白の四角形があるんですけど!?
「大丈夫。裕樹、着地準備」
「……ええい!失敗したら恨むからひづみぃぃ!!」
ひづみが俺に向かって手を伸ばすので、その手を取ってから着地準備に入る。
もうこうなったらヤケクソである。俺たちは、そのままフェンリルの屋根をぶち破り、二回ほど床を貫いた後にようやく止まった。
「……心臓に悪い」
「初めてにしては上出来」
しっかりと足から着地できた俺に対し、右手の親指をサムズアップする。まぁたしかに、衝撃からして見れば全然痛みとかないし、普通に出来たけどさぁ……。
「もう経験したくないなこれ」
「大丈夫だ。ヒロインになるためには通る道だから」
「過酷すぎでは?」
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ちなみに、裕樹くんは上空1000mでしたが、普通のヒロインはまず最初に200mからやります。それでも、大多数のヒロインが背中から墜落したり、横になった状態になったりと悲惨な結果になります。
尚、頭から落ちても怪我はしないです。
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