第4話

「失礼します」


「うむ。入りたまえ」


 その後、そうそうに飯を腹につめた俺は、学園長室に足を運ぶ。文面からして、マジで急いだ方が良さそうだったので、階段は全部ジャンプで超えた。この体便利すぎる。


 ガチャりとドアを開け、一番最初に目に入ったのは見知らぬ女性だった。制服を着ているが、見たことの無い人。恐らく雰囲気的に三年生か?でも、雰囲気だけ三年生なら奏多さんもそうだし……。


 水色の髪を腰ほどまで伸ばし、息を飲むほどに美しいストレート。そして、その眼は左が琥珀色、右が少し濃い赤目のオッドアイ。


 すっげー、オッドアイなんて本当にいるんだーとか思いながらぺこりと会釈すると、向こうも返したくれた。


「すまない少年。せっかく来てもらってあれだが、ソファに座って少し待っててくれ。渚、相手を」


「はい。学園長。さ、裕樹さん。こちらにどうぞ」


「どうも」


 ふわりと笑った顔に、綺麗だな~と思いながらソファに腰掛ける。


「お飲み物、入ります?」


「あ、大丈夫です」


 ポットとティーカップを持った渚様……で、いいんだよな?渚様が聞いてきたが、さっき飯食べたばっかりだし、飲んだら吐いちゃう。


「そうですか。では、改めて自己紹介をしましょうか」


 居住まいを但し、渚様はその豊かな胸に手を置いた。


「私は天馬渚てんまなぎさ。後方科の生徒会長────ジャンヌ・ダルクを勤めているわ」


「小鳥遊裕樹です。しかし、ジャンヌ・ダルクですか……」


 百年戦争時に活躍したオルレアンの乙女の名を冠した役職ねぇ。


「私は恥ずかしいんですけど、世襲名ですのでどうにも……」


「なに!カッコイイじゃないかジャンヌ・ダルク!ワルキューレも、ヘファイストスも、立派だろ!」


「神や偉人の名を冠したものは結構痛いと俺は思いますが」


「同感です。学園長」


 まぁ厨二病系の人達だったら喜ぶと思いますがね。俺?俺はもう既に卒業したよ。世界の裏の神とか、そんなの名乗ってなかったから。


「……まぁいい。今はこの話をするために渚と少年を呼んだ訳では無い」


「……話しても、いいんですか?」


「構わん。それに、少年の助けも必要だからな」


 ドカり、と対面に座る渚様の隣に座る長月さん。その態度は、いつもふざけているような態度ではなく、とても真剣だった。


「少年。フェンリルという会社に聞き覚えがあるか?」


「フェンリル……?フェンリルならもちろん聞き覚えがありますよ」


 えーっと……確かあの企業は……あぁそうそう。



「「……っ!?」」


 人類のために、アビスから身を守るためのシェルターを作ってくれたり……ってあれ?


「……知っていたのか?」


「え?……いや、あれ?」


 なんでだ……?何でこんなこと知らないはずなのに、こんなにも胸からドス黒い感情が溢れ出てるんだろう……。


「待ってください学園長。少し、様子が」


 俺が知ってるフェンリルは、人類のために、アビスが出現しないように電波妨害ジャミングを開発したり、怪我人を治療するための病院を建ててくれたり、地下シェルターも作って、いざと言う時の避難場所も作っている。


 俺が知っているのは、『人の為に』役に立っている。そんな企業だ。


 でも、今のは俺の意思とは関係なく、口が勝手に喋っていた。一体どういう……?


「……少年。もう一度聞くが、知っていたのか?」


「……いえ。今のは口が勝手に喋っていて……というか、俺もびっくりしてるって言うか……」


「そうか……まぁいい。分からないなら、説明をしておこうか」


 長月さんが真ん中にあるテーブルを叩くと、フェンリル社のロゴマークである狼を象ったエンブレムが映し出されているホログラムが浮かび上がる。


「単刀直入に言うが、フェンリルは全世界のヒロインがアビスの次に倒すべきと認識している第二の敵だ。恐らく、アビスが地球上からいなくなれば、VSの構図になることは目に見えている」


「えっ……はぁ?」


 ちょっと話が大きすぎて理解ができない。どうしてたかが一つの企業からそんなスケールがデカい話になるのだろうか。


 確かに、このご時世において、フェンリルは今や世界一の大企業と言っても過言ではない。確かに今は、対アビスということで全世界が手を取り合っているが……。


「一つずつ、ゆっくりと説明する。質問は、私の説明が終わったらで頼んだ」


 そして俺は、長月さんから聞いたフェンリルの所業に、どうしても怒りが隠せられなかった。


 すごく簡単に言うなら、どうやら認識は俺が最初に口走った内容で大体あっている。


 実験のために人を攫ったり、人工的にアビスを作っていたりしているらしい。更に許せないのは、それを街に放ち、どさくさに紛れてヒロインを拉致しているらしいのだ。


 それを聞いた瞬間、もうダメだった。心から激しい怒りが湧き上がり、心臓がどくどくと振動。本当なら、今すぐにでも場所を突き止めて破壊し尽くしてやりたい。


 それをしなかったのは、変化を感じ取った渚様のおかげである。異変を直ぐに察知した渚様は、急いで俺の隣へと座り、俺の体を強く抱きしめ、宥めるように頭を撫でてくれた。


 瑠璃学園のみんなの事は好きだ。こんな得体のしれない俺を、暖かく迎えてくれたから。


 だから今は、必死に抑えてくれる渚様に免じて、フェンリル────いや、名前を呼ぶのも嫌だ。


 あんなのクソ狼でいいだろ。フェンリルとかいうゴミの掃き溜めが集まったような企業なんて。


 今は、ひっそりと蓋をしておく。この怒りを、解放する時までは。



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クソ狼がやった悪いこと

・人体実験←現在の法律で禁止されている

・拉致、誘拐←もちろん犯罪

・人工アビスけしかけて街破壊←そもそも人類の敵作って何しとるん?


まぁもちろん。これぜーんぶ物語の根幹に関わってくるんですけどね。ガハハ。


はぁ。自分で書いておいて許せねぇ。早くボコボコにさせたい。

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