第2話

 その後しばらくは花火様に抱きつかれていた俺。五分くらい経過した後、ようやく解放してくれた。


「……名残惜しいですが、そろそろ私はいかないと行けませんので」


「あ。朝ごはん、食べてないですけど大丈夫ですか?」


 そういえば、朝からあんなことが起こったから花火様に出す料理を作っていなかった。このままだと、空腹の状態で花火様を送り出すことになってしまう。


「大丈夫です。生徒会室による前に、学食の方で軽く食べれるものを貰っておきますので」


「そうですか」


 スっと立ち上がり玄関へ歩き出す花火様。俺は花火様のジャガーノートを持ち上げ、後ろを着いていく。


「それでは、行ってきます」


「はい。行ってらっしゃ────」


 ちゅ、と軽くリップ音。花火様の唇が頬に触れる。


「行ってきますのちゅーです。唇は……帰ってからにしましょう。私が我慢できなくなりますので」


 最後にもう一度、キスをしてから家を出ていった花火様。なんだか、めちゃくちゃ積極的になっているなと呑気にポリポリと頬をかく俺であった。


「……そういえば」


 凛の姿を見ていない。昨日、花火様か凛か。どっちと登校するかの件で、凛には一日中そばに居ることを約束した。


 おはようからおやすみまでと言っていたから、てっきりこの時間帯あたりには来ると思っていたのだが……。


 もしかしたら風邪かもと思い、スマホを取り出す。これは学校支給の無線機ではなく、プライベートのやつ。まぁこれは長月さんが買ってくれたやつなんだが。


 電話帳を開き、凛へと電話をかける。


「……切られた?」


 二回ほどコール音がなった後に、つー、つー、と着信が失敗した音が聞こえた。明らかに、自然に切れるにしては早すぎる。


 もう一回かけ直すかどうかは悩んでいる内に、ピリリリとメールの着信が。


『ごめんね!裕樹くん!ちょっと今忙しくて電話にでれないの!私の方にちょっと用事が出来ちゃったから、約束は明後日でいいかな?』


 という内容だった。


 しかし……明後日?なぜ明日では無いのだろうか。


「……今日は俺も学食で飯食うかな」


 そろそろ一週間経つし、腹に何か入れておこう。


 自分で作るのは、今日はちょっと疲れた。







「ねぇ、アンタ────」


「ん?」


 食堂を目指し、瑠璃学園の中庭を歩いている急に声を掛けられる。パッと見、あそこの木陰でくっついている仲のいい女の子二人以外に、人は見当たらないので俺であると判断をつける。


 くるりと振り返ると、そこには紫色髪を腰ほどまでに伸ばした、黄色眼の少女がそこにいた。


「君は確か、夕凪ゆうなぎひづみさん」


「……覚えててくれてたの?隣のクラスなのに」


「もちろん。同じ一年生の名前と顔は、全部頭の中に入ってるよ」


 これも、強化された脳のおかげである。物覚えも良くなったし、授業の内容も問題なく着いていけているので、とても重宝している。


「それで、どうしたの?夕凪さん」


「ひづみでいい。それと敬語もナシで。私も裕樹って呼ぶから」


「了解。それじゃあ、改めて聞くけどどうした?」


 あまり自分で言うのも気が引けるが、凛曰く。


「裕樹くんってすっごいカッコイイからみんなも声掛けずらいんだよね……あはは」


 との事。何でも、直視した瞬間眩しすぎて自分の感情がぐちゃぐちゃになって逃げることしか出来なくなるんだとか。凛曰く。


 挨拶は頑張れるけど、会話は無理!恥ずかしくて逃げちゃう!が、今のところの学園全体の女子の俺への評価だ。


 なので、俺へと声を掛ける人はやっと刺激に慣れた人か、美音様みたいなもの好きな人や、自殺願望者である。羞恥心の。


「アンタには、入学した時から普通に興味はあったから、ずっと話してみたいと思ってた。普段は……ほら……」


「あー……」


 確かに、俺の傍には普段から花火様や凛、奏多さんがいるからな。相当な鋼の心の持ち主じゃないと話し掛けにくいだろう。


「だからさ、アンタとはゆっくり話したいんだ」


「OK……とは言っても、俺今から学食行くよ?」


「なら丁度いい。私もまだ朝ごはんは食べてないんだ」


 そうひづみが言った瞬間、ひづみの腹からちょっと乙女の尊厳を守るために表現出来ない音が鳴り響く。


 あらまぁ、とその音を聞き流していると、恥ずかしさからか咄嗟に腹を抑えるひづみ。その頬は、少し赤く染っていた。


「……ははっ。飯は大盛りにしとくかな」


「~~っ、忘れろ!忘れろ忘れろ!」


 ポカポカポカと軽く俺の肩を叩くひづみ。「痛い痛い」と笑いながら言っていると、「あんっ」というセンシティブな声が聞こえた。


「ゆ、夕弦様……っ!だ、ダメですよ!裕樹さん達が見てま……っ」


「ごめんね心……ちょっとあの二人の雰囲気見てたら当てられちゃってさ……大丈夫。優しくするから」


「あら^~」


「大胆だな」


 百合の花が咲いています。大切にしましょう。


 しかもあの子、昨日花火様のお見合い決闘に出てたクラスメイトの子やん。なるほど……優しく、されたんですね。


「百合の間に挟まる男は、相場としてボコボコにされる傾向があるからな。暖かい目で時折視界に納めながら離れよう」


「……?」


 朝からいいもん見たわぁ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

尚、暫くしたら百合の子は例外なく裕樹限定で両刀になる模様。


ガ、ガイア……っ!と思った方は応援やフォロー、星評価の方も────特に、星評価をよろしくお願いします(強欲)。

大丈夫。裕樹くんは挟まるんじゃない。全力で向こうが挟みこもうとしてくるんだ。

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