第10話

「アビス……しかも、厄介な動物型……目算、脅威は大体B+程度でしょうか」


 アビスには、その脅威度に合わせて大体のランク付けがされている。


 C~SSの五段階評価で、更に一つのランクにアビスの姿形に合わせて+と-の追加項目が加わる。


 あくまで、一般のヒロインが相手取るとして、B+までだったら一対一で討伐することが出来る個体である。ただし、アビスは例外なくヒロインよりもパワーが強いので一撃でも喰らったら命の危険が伴う。


 Aランクから、ヒロイン達の討伐隊────通称『ギルド』と呼ばれる隊でフルメンバー揃ってやっとこさ倒せる強さ。Sランクが、ギルドメンバー全員行う必殺技『レボルト・フルバースト』と呼ばれる技で何とか倒せる強さ。


 そして、SSとなったら学園全戦力を動員して勝てるか勝てないか。と言った区切りとなっており、アビスの淵界の主は『接触禁忌種』とも言われているらしい。


 そして、今現在俺を真っ直ぐ見つめてくるカンガルーアビスは、花火様鑑定によるとB+。つまり、一般ヒロインがギリギリ一対一で勝てる程度の強さである。


 ──────まぁ、瑠璃学園のヒロインが一般の域で収まるはずないんですけど。


 俺を殺そうと片手を上げたアビスに、一発の魔力弾が当たり爆発する。それを皮切りに、四方八方から魔力弾が飛び交い、アビスを蜂の巣にしていく。


 ここをどこだと思っているのだろうか。ここ、瑠璃学園ぞ?SSクラスのアビスを単騎でボコスカ倒せるような人達がめちゃくちゃいる魔境ぞ?


 そんなん、初っ端から倒されるに決まってるやん。ホントに何しに来たんだコイツ。


「終わりましたね。本来イレギュラーな事態ですが、無事対処できたようで何よりです」


「まぁ瑠璃学園ですしここ」


 アビスは境界ゲートという次元ワープホールを使い、現れる。基本、エルドラドや内陸部の街にはこの境界が出現しないよう、特殊な妨害電波ジャミングが施されているため出ることは無い。


 なら、必然的に考えられるのは────────


「それより花火ー。貴方何時まで裕樹くんにお姫様抱っこされてるのよー」


「そーだそーだ羨ましい!そこかわれー!」


「え………~~~っ!」


 茶化しているのは、花火様と同じ三年生の人か。花火様がようやく自分がどういう体勢でいたのか気づいた花火様は、頬を赤く染めるのであった。


「す、すいません裕樹さん。助けて下さりありがとうございます………その、下ろしてくれて大丈夫です」


「俺こそ、女性の体を不躾に触ってしまい申し訳ない」


 ゆっくりと花火様を地面に下ろす。件のアビスは既に、肉体をつなぎ止めている魔力を保有することが出来ず、崩壊していた。


「……これ、どうなるんです?」


「アビスの体は基本魔力で構成されているので、その内魔力となって空気中に消え去るので放置で構いませんよ──────ところで、ですが」


 花火様は俺の背中を撫でる際に、地面に置いたジャガーノートを手に取り──────


「決闘の続き、どうしますか?」


「いやー、流石にそんな気分では無いですね」


 凄まじい出落ちを見たので、すっかり戦う気は無くなっていた。


 ま、あのままやり合ってても負け濃厚は確実だったので、ダサい姿を見られなかっただけマシか。


「そうですか。残念ですね」


「なんでですの?」











「被験ナンバー084。聞こえるか」


「はい」


 訓練所で、アビス登場の騒ぎが収まった頃、瑠璃学園の敷地の端で、何やら耳に無線機を嵌めて会話をしている少女がいる。


「実験はどうだったか?」


「はい。アビスはそうそうに倒されましたが『誘引装置』で推定ランクB+を呼ぶことに成功しました」


「ふむ。実験は成功だな──────ところで、084の報告にあった例のイレギュラーの情報はゲット出来たか」


「はい。後に、ワルキューレとの戦闘動画を送ります」


「ワルキューレ……あぁ。月下花火か。それはいいデータサンプルだ」


 クククッ、と無線機から気持ちの悪い声が聞こえ、少女は腕を擦る。


「……情報は渡しました。やりたくもない実験の手伝いもしました。なら、早く妹を────」


「まぁ待て084。まだ我々は君からの情報に満足していない」


「なっ────約束が違う!」


「そんなに大声を出していいのかね?バレたら君も無事では済まないだろう?」


「っ……!」


 ギリッ、と奥歯を噛み締めて声を出すのを耐える。握る拳からは、ぽたぽたと赤い血が流れていた。


「次の任務だ。イレギュラーと接触し、なんとしてでもコンタクトを取れ」


「……それが終わったら、妹は返してもらいます」


「もちろんだとも。期待している」


 ブツっ、と無線が切れた事で脱力し、勢いよく近くの木に身を預け、ズルズルと座る。


「……っ!クソっ!」


 ガッ!と木を叩きつけ、少しでも気を紛らわせようとするが、全く意味もない。


「ふっ……ふふ……大丈夫だからな伊織……お姉ちゃんが……お姉ちゃんが必ず、お前を……」


 耳の無線機には、狼の紋章が太陽に照らされて輝いていた。


 ガサリ、と遠くの木が揺れたような気がした。



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同じ時間帯に予約投稿してますので、次の話へGO!

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