第8話

「まず、なんと言っても裕樹さんの傍にいると、不思議と心が安らぐ感じがするのです。そして、優しくも紳士的に見守ってくれるおおらかさ……実は私、先程守って頂いたとき、胸がキュンキュンと──────」


「おおっと奏多さーん?やめておこうと俺さっき言ったんですけどー?」


 やだ。不覚にも少しだけ感情が揺れ動いた気がする。これが久方振りに感じる『恥ずかしい』がこれはなんかちょっと嫌だなぁー?


「────ふふっ。冗談です。慌てる裕樹さんが見たかったので」


 そう言って口を手元に当てて笑う奏多さん。これ以上の攻めがないことにホットしたのも一息────


「まぁ、先ほど言ったことは冗談じゃないんですけど」


「んぶっ」


 ──────不意打ちを喰らい、変な声が出る。奏多さんを見ると、やけにニコニコとしていた。これ以上、なにか突っ込むと振りになりそうなので、二人が戦っているフィールドへと目を向ける。


 状況としては、凛が姿を見せないようにかく乱しながら攻撃を与えるヒットアンドアウェイ方式に対し、花火様はその場から動かず、冷静に凛の攻撃を回避している。


 ……っていうか、なんだあの凛の動き。俺の目がバグっていなければ残像らしきものが見えているんだが。


 死角からの一撃や、鎌特有の独特な一撃にもジャガーノートを回転させながら的確に防御していく。


「……っ『ノスフェラトゥ!』」


「!」


 凛がギフトを発動させた瞬間、凛の体が仄かに青く光始める。


 レア物ギフト『ノスフェラトゥ』。時間制限があるが、魔力、体力、そして身体の限界を無くすことが非常に強力なギフトである。


 一説によると、脳のリミッターを一時的に解除することでそんな有り得ないことが出来るのと言われているが、歴史上で10人程度しかいないので殆ど何も分かっていない。


 デメリットというデメリットも無く、強いて言うなら終わった瞬間の疲労がえぐいことと、糖分を欲するとこくらいか。


 ギフト発動により、凛の動きが更に増す。もはや凛の体に纏っている青い光が仄かに残光で見えるという領域。


「……凛の動き、見える?」


「辛うじてなら」


 そうだった。隣にいる人学年一位だったわ。凛より強いのか……あれよりも?


 時々、ガキン!という金属音が聞こえる以外は何をやっているのか全く分からない。多分、高度な読み合いがあるんでしょうが、俺にはまだそこまで実力や経験、何もかもが足りない。


「……流石ですね」


 そしてついに、花火様の牙城が崩れ、凛の一撃を受け止めるのではなく回避した。


「では私も──────『神縅かみおとし』」


「……っ!眩しっ!」


 花火様がギフトを発動した瞬間、突如として眩しい光が発生する。話には聞いていたけどここまでとは……っ!


 片手で俺の目を、もう片方の手で未だに俺の膝でスヤスヤ眠っている美音様の目を塞ぎ、光が収まるのを待つ。


 その間、凛も眩しさで攻撃を辞めて、離れた場所で光が落ち着くのを待っている。


 そして、光がやんだ瞬間。


「………っ!」


 いや、現実には神では無い。だがしかし、どうしても目の前にはがいる。


「ぐっ……頭がクラクラする……」


「これが神縅……っ。こんなにも傾倒してしまうとは……!」


 レア物ギフト『神縅かみおとし』。全容も、どんな効果があるのかも全く謎。唯一分かっているものとしたら、と言ったところだろうか。


 ジャガーノートを振れば魔力の斬撃が出るし、ビームも出るし、なんなら一緒に戦っているヒロインの戦力の底上げだってできるらしい。さっきから、俺の体がほんのり熱く、力がみなぎってくる感覚がする。


 ギフトの頂点だとも考える人がいるほど、強力なギフト。それを神を見に宿したようだと第一覚醒者が言ったことから、神縅というギフト名になった。


 脳を強くハンマーで殴られたかと思うほどに刷り込まれる花火様への信仰心。俺にアビスが宿っているからか知らないが、酷く脳がゆさぶれる。


「裕樹さん……大丈夫、ですか?」


 奏多さんは俺よりも酷くはなさそうだが、少しキツそう。こんな時でも俺を心配してくれるなんて、優しい子である。


「ぐぅ……いや、ちょっと大丈夫じゃなそう……っ!」


「うぅ……あたまいたし…」


 寝てる美音様も少し顔を歪ませながら寝言を言っている。早く慣れろ俺……!


「まけ……ない……!」


「見事でした凛さん。今はゆっくりとお休み下さい。私をここまで追い詰めた人は初めてですよ」


「あうう……」


 ジャガーノートを杖代わりにしながらよろよろと立ち上がった凛だが、ゆっくりと近づいてきた花火様に頭を撫でられて気絶。


「どへぇ~」


 そして、花火様をギフトを解除したのか、頭の重さが無くなり一気に楽になった。背もたれに思いっきりしなだれかかって、深く深呼吸をする。


「ふぅ……ふぅ……なんか疲れた……頭重ぇ……」


 積み上げられた信仰心がゆっくりと消えていく。多分花火様がギフトを解除しなかったら新たに『花火教』というものが新たにできてたなコレ。それぐらい、無意識に花火様を神聖視していた。


「大丈夫ですか?……その、よろしければ横になっても大丈夫ですよ?」


 そう言って、太ももをトントンと優しく叩く奏多さん。そういえば、なんで膝枕っていうんだろうね。そこ圧倒的に太ももなのに。


「いや、なんかどっちかと言うと少し動きたい気分……?少し体が熱いから発散させたいんだよね」


 あれ。長く座っているとちょっと立って腰動かしたくなるでしょ?今それと全く同じ気分。あと、なんて言うの?少し高揚感みたいなのもある。凛と花火様の熱い試合を見てたからかな……。




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