第7話

「まぁ、下級生にとって上級生というものは誰しも憧れの存在なので、相性と────あと、好みが合えば大丈夫です」


「下級生もそれでいいのか」


「幸せなら大丈夫なんじゃないでしょうか」


 えぇ~~ほんとでござるかぁ~~?そんな即落ち二コマなんてこと────


「あ、あそこをご覧下さい」


「ん?」


 袖を引き、控えめにとある場所を指さした奏多さんの後に続いて、目を動かす。そこには、先程呆気なく花火様に飛ばされたクラスメイトと、そのクラスメイトの肩に手を回し、なんと顎クイしながら口説いてそうな上級生が見えた。


 めっちゃ顔真っ赤にしてるな。あの子。


「ああいう風に、優しく肩を抱いて、少し強気でいけばほとんど成功しますよ」


「チョロくない?ねぇあの子チョロくない?」


 貴方さっきまで花火様しか目に入ってない感じだったでしょーが!目移りするの早いよ!


「花火様ー!!私の愛を受け取ってくださいましー!!」


「腕を磨いて出直してきなさい」


「きゃあああ!!」


 おっと、そうこうしているうちにもう最後の生徒か。意外と早く────いやまぁ、殆どの生徒を一刀で終わらせているからまぁそんなもんか。


 まだ、凛の姿は見ていない。ということは、必然的に最後の挑戦者は────


「最後は凛さんですね」


「意外と俺、凛の実力知らないんだよな。戦闘訓練でメカアビス相手に戦っているのは見たことあるけど」


 優秀、ということは今朝花火様の口から聞いているし、レア物ギフト持ちということも知っている。しかし、あの戦闘訓練だけでは凛の実力の底は見えていない。


 何せ、あの拘束首トンを初対面の時にカマしているのだ。弱いわけが無い。


 挑戦者入口凛が出てくる。いつもの制服と、あの時見た────


「あれ?」


「あら」


 ────ジャガーノートが違う?


 あの時凛が持っていたジャガーノートは、初心者用御三家ジャガーノートの『ティルヴィング』という大剣タイプのものだったはず。


 だが、彼女が持っているものはどう見ても鎌である。しかも、あんなジャガーノートカタログで見たことがない。


「凛さん、わざわざ『スノードロップ』まで持ち出して……本気でやるつもりなんですね」


「スノードロップ?」


「はい。彼女のためだけに作られた専用機です」


「専用機……聞いたことはあるな」


 専用機とは、数々の功績を上げたヒロインが学園から送られる特別なジャガーノートの事である。


 量産型と違い、ヒロインの特性に合わせて作られるため、戦闘力が桁違いに跳ね上がるらしい。


 耐久力、攻撃力、魔力伝導率が全てヒロイン似合わせて作られるのでベストマッチ。極めれば、淵界のアビスを一人でほぼ壊滅させれるほどの性能を発揮出来る。


 欠点があるとすれば、量産型と違って替えがきかないという所か。壊れでもしたら修理のために製造会社の方へ送らなければならないため、その間量産型を使うこととなり戦力ダウン。


 学園も専用機を直せる技術力は流石に無いため、専用機を使用するためには何個かの条件をクリアしなければならなかったはず。


「よろしくお願いします。花火様」


 専用機の登場により、ざわめいていた会場が静かになり、凛の声が響く。


「専用機……よく許可が降りましたね」


「学園長に直談判しました。それで出番が最後になっちゃったんですけどね」


 あはは、と軽く笑う彼女。対称的に、花火様は眉間を抑える。


「……一応聞きますが凛さん。学園長は許可を出す際になんと?」


「『面白いのでOK!』との事でした」


「あの人は………っ!」


 顔は見ないでも分かる。花火様これ軽くキレてますね。花火様のことだから恐らく専用機も持っているでしょう。デメリットの大きさも知っているから、こんなイベント程度で……なんて思ってそう。


「一つ。いいですか?」


「なんでしょう」


「もし、私が勝ってもプリンセスの座は要りません」


 凛の言葉に、またもや訓練所がざわめき出した。凛は一体何を言ってるんだ?


「いいんですか?」


「はい。それに、私だけ専用機使うってズルいじゃないですか」


「いえ、別に私はそう思いませんが」


 花火様のセリフは別に、見下している訳ではなく本気でそう思っている。それほど凛と花火様の実力差があるのだろう。


 何となくだが、凛が勝てる確率は良くて四割といった所か。


「分かってます。それぐらい私と花火様の間には実力差があることを。でも、これはケジメです」


「ケジメ、ですか」


「はい。あなたと戦って──────堂々と、裕樹くんの隣を歩めるようになるために」


「……彼のため、ですか」


 え、あの子なんてこと言っちゃってくれてんの?しかも、こんな公衆の面前で。


「分かりました。そこまで言うのなら私も今できる全力で戦います。貴方が彼の隣を歩めるか、私が直々に見定めてあげます」


「よろしく──────お願いしますっ!!」


 ガキン!と金属と金属がぶつかり合い、衝撃でソニックブームが発生し、髪が揺れる。


「彼の隣を歩くのは、かなりの覚悟が必要ですよ。私はあります」


「私だって!裕樹くんのためなら例えどんなことがあったって!」


 打ち合いながら、そんな会話が聞こえる。当事者の俺は、頭を抱えていた。


「……愛されてますね。裕樹さん」


「こんな俺のどこがいいんだが……」


「……まぁ私も、気持ちは分かりますが」


「えっ」


 反射的に顔を向けると、少しだけ頬を赤らめてクルクルと指で自分の髪を弄っていた。


「あなたはとても……とてもとても素敵な人なので、あぁなってしまうお二人の気持ちは、痛いほど分かります」


「……はぁ。俺って皆の目からどんな風に映ってるんだよ」


「説明……聞きたいですか?あくまで私の主観になってしまいますが」


「……やめておこうかな」


 それを聞いたら、ほぼ無い感情も揺れ動きそうで困る。


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