第6話

「すまん」


「え……」


 バッ!と彼女の体から手を離し、フィールドを見る。あれか。煙の量が思ったよりも勢い強かったから、咄嗟に守ってしまったようだ。


「……え、嘘。そんなあっさり?もうちょっと狼狽えるとかあってもいいはずでは……?」


 いや、期待通りの反応できなくてごめんね?ほら、感情なんてほぼ死滅してるみたいなもんだから……。


 赤くなっている顔でボソボソと奏多さんが言っているものの、俺はバッチリと聞こえた。だがまぁ、返事は返さないでおこう。


「……お、一人目か」


 挑戦者が入場する入口から出てきたのは、赤髪の生徒である。所持しているジャガーノートは、アメリカの会社が作った『ケラウノス』か。


「貴方は」


「お久しぶりでございます、花火様。愛しのアシュリーでございます」


 見事なカーテシーを披露し、心の中にあるオタク心が少し反応した。すげぇ、リアルで初めて見た。


 しかし、アシュリー……様か。一年生で見たことないから恐らく二年生だろう。


「えぇ、お久しぶりですねアシュリーさん。貴方、今年も参加するのですか?」


「えぇ、わたくしのガーディアンに努まるのは花火様しかいませんので」


 知り合い……というか、アシュリー様は去年も参加し、今年も挑戦者としてあの舞台に立っているようだ。


「最近の花火様は、一年生の殿方にゾッコンのようですね。確かに、あのお方も中々素敵な御仁だと思いますが──────」


 あ、一瞬目があった。


「──────今、この瞬間だけは!わたくしの事を見つめてください!『バースト』!」


「ぬおっ!?」


「キャッ!」


 豪快な砂埃が舞う。今、俺に見えたのはアシュリー様がギフトを発動させ、10m以上もあった距離を一瞬にして縮めてジャガーノートを上段から振り下ろした事のみ。


 放出系ギフト『バースト』。自身の魔力を一気に解放することで瞬発力、攻撃力、殲滅力を倍以上に高めることができる一撃必殺の技。使い手次第では、小規模のアビスの群れならば1発放つだけで殲滅することができる強力なギフトなのだが──────


「腕を上げましたね、アシュリーさん」


「……今年も、ダメ……でした────きゅう」


 ──────デメリットとして、しばらくの間魔力欠乏症になり、気絶してしまうのが弱点である。


 なので、基本的にとどめを刺す時か、先程アシュリー様が使ったような一撃で全てが終わる時くらいしか使わない。


 フィールドでは、アシュリー様渾身の一撃を、花火様がジャガーノート片手で受け止めていた。その後、気絶したアシュリー様を抱きとめる花火様であった。


 ……うん、花火様強くね?


「……アシュリー様は、学外にも名前を轟かせる瑠璃学園屈指のヒロインです。その人を、ああも簡単に御するなんて……」


 隣にいる奏多さんも絶句している。


 これが世界最強か。


「……これ勝てる人いるの?」


「無理では?」


 学年最強の奏多さんが言ったらそりゃおしまいよ。


 その後も──────


「花火様!結婚を前提とした誓いを────!」


「ふんっ!」


「きゃあああああ!!!」


 その後も──────


「花火様!守護ガーディアンの誓いを結んで、そのままくんずほぐれつの関係に──────!」


「ハッ!」


「ひええええええ!!」


 その後も………。


「花火様大好きです!私と清いお付き合いを──────!」


「私はノーマルです!」


「ええええええ!!!」


 ………とまぁ、こんな感じで花火様への告白をちぎっては投げちぎっては投げをする手合わせが二時間ほど続いている。


 ……うん、何故これがお見合い決闘と言われてるか分かった気がする。これは確かにお見合いだわ。まぁ、それよりも何倍も向こうは殺伐としている訳だが。


『あっはっはっはっ!!たまらん!花火、お前また人気上がってないか!』


「学園長は黙っててください!」


「あ~~~れ~~~~!」


 うわ、今の人長月さんのついでみたいな感じでやられたぞ。可哀想……。


「ぐふっ……怒ってる花火様も……それはそれで素敵──────がく」


 あー……まぁ、本人が幸せならOK何じゃないですかね。


「はぁ、なんか見ていて疲れてきた……」


 疲れは感じにくいはずなんだけどね。何でだろうね……。


「大丈夫です。初めはみな通る道です」


「奏多さんも去年初めて見たはずなのでは……?」


「まぁ……慣れましたので」


「えぇ……」


 ニコリと笑う奏多さん。だがしかし、目の奥は笑っていないような気がする。ちょっと怖い。


「なぁ奏多さん」


「はい」


「ふと思ったんだけどさ、この決闘が終わったあと、下級生の皆のガーディアンってどうなるの?」


 この学園は、ヒロインとして強くなるために守護ガーディアンの誓いを結ぶことを強く推奨している。確か、今日この決闘に参加している人数は200人を超えていたはず。


 流石に、これだけの人数を野放しにするのを学園は了承しないだろう。これからの損失がデカすぎる。


「実はこれ、上級生の方がプリンセスにしたいヒロインを見つけるという趣旨も兼ねているんですよ?」


「え、そうなの?」


「はい。花火様に敗れて傷心中の生徒に優しく『どしたん、話聞こうか?』と声を掛けることで、誓の結びやすさアップです!」


「いや、グッ!じゃないんですよ奏多さん。上級生のやっていること一昔前に流行ったチャラ男のセリフでしょそれ」


 嫌だよ?いくら美少女でもそんな感じで話しかけられても。俺が女の子でも嫌だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

上級生「花火(様)に負けて悔しいよね。よかったら愚痴聞くよ?」


下級生「え、好き……///(トゥンク)」


こんな感じです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る