第5話
「はいこれ渡すね。本当は説明とかしたいけど、限……界……」
「あ、美音様?」
うみゅぅと謎の言語を発し俺の膝を枕にして寝始める美音様。うつ伏せだと寝にくいと思うので、少し体を回転させて仰向けにさせる。
「………すやぁ」
「よく寝てますね」
「流石に一睡もしてない、ということは無いと思うが……まぁこの人平気で二徹三徹はするからなぁ」
彼女の研究室の端の方で転がっているエナドリの山を思い出す。だからこの人身長が低いのでは?と心理に近づいた気がするが、やめておこう。
「さて、始まるまで時間ありそうだし……ちょっと見てみるか」
「私も見ても?」
「大丈夫」
美音様から力尽きる前に渡されたバインダーを、奏多さんも見やすいように寄せる。すると、必然的に肩と肩が引っ付く形となり、左腕に奏多さんの両腕が──────
「奏多さん?腕組む必要ある?」
「あります」
じゃあいいや。別に、めちゃくちゃ真剣な顔にビビった訳では無い。奏多さんがそうするべきだと思ったなら、俺は彼女の意思を尊重するまでである。
「えぇっと……なになに?」
小鳥遊裕樹15歳。生年月日は2026年6月16日。ここら辺は俺のプロフィールだから関係なし。目をスライドさせていくと、一度受けた健康診断のように沢山の数値やら医学専門用語やら並んでいるが……まぁここは無視でいいだろ。死んでるし。
パラパラと枚数をざっと数える。数十ページあるのが見えて、そのどれもにびっしりと文字が書かれている。ここら辺は後々読むので、今は俺の知りたいところだけを見ることに。
「あったあった。ヒロインプロフィール」
「男の裕樹さんがヒロインというのは中々違和感がありますが……まぁ、魔力保有量UNKNOWN?」
「え?あ、ほんとだ」
ヒロインには、大体魔力をどの程度持っているんだろうな~というほんわかとした指標がある。それが魔力保有量である。
結構この魔力保有量というものが大事で、これがヒロインとしての実力を示す指標だと言っても過言では無い。
ジャガーノートを起動するために必要な魔力保有量は40以上。そして、全世界のヒロイン平均は大体60辺り。
瑠璃学園の魔力平均が75だと考えたら、いかにこの学園にエリートが集まっているか分かるだろう。まぁ、アメリカに80以上しか入学できないエルドラドもあるようだが。
ちなみに、隣にいる奏多さん。この人魔力保有量が99であり、世界最高値である。このまま順調に育っていけば、火蛇穴先生越えも夢では無い。
だがしかし……UNKNOWNか。
「あまりにも多すぎるか、そもそも少なすぎて検出できなかったか……」
「ですが、ジャガーノートを起動できたということはその線はないと思います。恐らく、多すぎたのでは?」
「そうだといいけど」
その方が、たくさんアビスのこと殺せるしな。
そして、その次が一番大事な項目、『覚醒予定ギフト』だ。
ギフト、というものはヒロインが誰しもが持っている特殊能力みたいなものである。
未来を見たり、数百キロも先の光景を見たり、純粋に体を強化したりと、現在では17種類のギフトが発見されている。
その中でも、特に希少なギフトはレア物と呼ばれ、17種類のうちの3種類がこれに該当する。確か、全世界見渡しても100人いるかいないかぐらいの発現率なのだとか。
またまたちなむが、瑠璃学園にはこのレア物ギフトを持っている人が13人いる。俺が知っているのは花火様と凛である。
ほんと、どうなってんのこの学園。希少な人がその辺にごろごろいるんですけど。
さてさて、俺の覚醒予定のギフトは──────
「おや」
「あら」
────こちらもUNKNOWNである。ふぅむ、と一度バインダーを閉じて考える。
「またまたUNKNOWNか」
「こちらも、魔力保有量と同じ理由なんでしょうか」
「それか、未知のギフトか」
口に出して思うがそれは無いか。ここ20年は新たなギフトホルダーは見つかってないし、もう出尽くしたでしょ。
「未知のギフトですか……裕樹さんが殿方ですから有り得そうなのがなんとも」
「いやいや、流石にそこは男とか女とか関係ないんじゃない?」
ギフトは、魔力が人体に影響して発現する能力であり、宿る能力はあくまでも人ができる物の延長線上しかない。なので、急に手から闇の炎とかができるとか、そんなことはありえない。
魔力から来ている。その事から、性別はあまり関係ないとは思うが……。
『あーごほん。それではそろそろ初めさせてもらおうか』
急に訓練所の電気が消え、学園長の声が響く。天井に吊るされたライトスポットが、決闘場所の中央を指した。
『学園最強、世界最強、ワルキューレ─────その称号が欲しいかぁぁぁ!!!』
プシャァァァァ!!!と勢いよく白い煙が訓練所を包み、スポットライトが当てられている場所からゆらゆらと人影が現れる。
『欲しいならば勝ち取れ!世界最強を討ち取ることでな!』
「……いや、めちゃくちゃ演出凝るな」
もしかして、花火様も以外とノリノリだったり?
煙が晴れ、瑠璃学園の制服とは違い、別の装いに身を包んだ花火様が現れる。
肩が露出するタイプのドレス型コスチュームで、白と黒のコントラストがやり花火様を引き立たせる。服全体にフリルがあしらわれており、スカートの長さは左右対称で、惜しげも無く花火様の右脚が露出。すぐ隣から、息を飲む音が聞こえる。
黒タイツによって隠されてはいるが、あまりにも美脚過ぎて全くもって意味が無いようにも感じる。それぐらい、花火様と似合っていて、呼吸を忘れるほどに魅入っていた。
いや、めちゃくちゃ綺麗なんだが花火様。
「あ、あの……裕樹さん」
「ん?どうし────あ」
奏多さんから呼ばれ、やっと俺が今どんな体勢か分かった。
どうやら俺は、いつの間にか彼女を守るような感じで抱きしめていたのであった。
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