学園最強のお見合い事情

第1話

 意識が沈む。


 昨日は、ようやく訪れた眠気に身を任せ、部屋に用意されていた豪華なベッドで横になって寝た。


 塵も積もれば山となるとはよく言ったものである。横になった瞬間寝た自信はある。


 と、言うことはこれは夢か?


 ゆっくりと目を開ける。視界に移るのは、閉めたからカーテンから覗く朝の陽光──────ではなく、どこまでも真っ暗な光景。


 俺の体は、まるで深い水の中に沈んでいくような感覚。体を動かそうと藻掻くも、指先にひとつも動かない。


 これが噂の金縛りか?なんて思っていたら、視界の先から一つの光が落ちてくる。


「………」


 それは、俺の目の前で止まったかと思うと、急に人の形をした────いや、これはだ。何となくだが、そう思う。


 しかも、女の子。なぜ俺の夢に女の子が現れたのか全然分からず、眉をしかめる。


『あなた』


 声が響く。光の体がゆっくりと俺の手を握ってくる。


『お願い、あなた。どうか、どうか私の────』


 顔が近づき、その子の口と俺の口が繋がったところで──────


「………あ、裕樹さん」


「………」


 ──────目が覚めた。目線の先にはなぜか知らないが、花火様の顔がそこにある。まぁ、立派なお胸様が視界の半分を閉めているため、花火様の顔は半分しか見えないが。


 少し、状況を確認しようと目を動かす。俺の隣に枕に使っていたものがあったので、つまりこれは膝枕をされているということか。しかも、頭なでなでのオプション付き。


 俺がこんな状態でなかったのなら、もっと素直に喜べたものの……。やれやれと思いながら心の中でため息を吐いたあと、花火様の顔を見る。


「ごきげんよう花火様。一応聞きますが、この状態は一体?」


「ごきげんよう……その、裕樹さんが珍しく寝ていたので……つい」


「つい、ですか」


 なら仕方ないか。理由なき行動に理由をつけろと言うのもおかしな話か。


 そういえば、もう既にここに花火様がいるということは時間的にもうすぐ花火様は登校の時間か。今から朝ご飯作っても間に合いそうにないか


「すいません花火様。朝ごはんの準備できてなくて」


「いえ、今日は学園の授業は全生徒免除されてますので、慌てなくて大丈夫ですよ。勿論、生徒会の仕事もないです」


「……全生徒?」


 俺が、この学園に入学してからもう二週間がたった。


 最初は、廊下を通る度にキャーキャーと黄色い悲鳴が湧き上がり、目を合わせて会話をすると赤い顔をして逃げられる、ということが続いていた。だが、二週間も同じ学び舎で過ごしていくうちに、そういったことは無くなり、今では俺もクラスメイトに複数の友達ができた。


 純粋に嬉しい。皆良い子で俺すっごい感動した。


 話を戻すが、瑠璃学園の予定表は頭の中に入っている。こんな間近で、全生徒授業免除になるようなイベント事あったっけな。


「はい。なので、今日は一緒に登校しましょう」


「分かりました。とりあえず、朝ごはんの準備しますね」


「はい。よろしくお願いします」


 着替えるので、花火様には今朝の献立を伝えて、先にリビングに行って材料の準備だけしてもらう。その間に、俺はぱぱっと瑠璃学園の制服に着替え、姿見で軽く身嗜みを整えてからリビングへ向かう。


 リビングに行くと、調理の準備を終わらせた花火様が、ソファに座ってテレビを見ている。ニュース内容は、全国の桜前線を報道しているようだ。


 お花見かぁ……。今こんな時代だからな。どこからアビスが襲ってくるか分からない以上、花見場所は凄く限られている。いずれ、安心していける時代が来ればいいが。


「それで結局、今日って何かイベントがあるんですか?」


「……私から言うのは物凄く自慢みたいなので、あまり言いたくはないんですが……裕樹さん、『守護ガーディアンの誓い』は知ってますか?」


「はい。それなら入学する前に読んだ本に書いてありましたよ」


 守護ガーディアンの誓い。それは、瑠璃学園が独自に行っている校風の事で、上級生と下級生が結ぶ契約のようなものである。


 上級生を守護者ガーディアン、下級生を守護対象プリンセスと呼び、師弟契約を結ぶというもの。


 上級生は、卒業するまで下級生の面倒を見て、ヒロインとしても、人間としての成長を促し、生活の時はずっとと言っていいほど傍で見守る。当然授業の時は別々だが、空いている時間帯はニコイチである。


 師弟の絆は、深くなるほど効果は増し、戦力の強化にも繋がるとの結果もでている。まぁ、深くなりすぎてそのままくんずほずれつな百合百合の関係になることも少なくないらしいが。


 花火様は三年生である。三年生の生徒であるならば、殆どと言っていいほどにプリンセスの下級生がいるはずなのだが……。なぜ自慢みたいになるのだろうか。


「実は、私にはまだプリンセスとなる下級生はいません」


「え、そうなんですか?」


 じゅわぁぁぁぁとベーコンがフライパンで焼ける音がする。ちょっと話を聞きたいため、フライパンを持ち上げて静かにさせる。


「てっきり、もういるものかと」


「その……自分で言うのもあれなんですが、私には生徒から人気がありまして二年生の頃には、下級生から『私を花火様のプリンセスにしてください!』とたくさんの要望がありました」


「え?普通は上級生の方から申し込むはずでは?」


「えぇ。そうなんですが……私の一つ下の世代は、やけに血の気が多い方が居たので……」


「あぁ……」


 確かにそうである。有名なヒロインには大抵『二つ名』というものが多いのだが、凛達から聞いた話によると、そういう系の二つ名持ちの人が多かったな。


「プリンセスにするのは一人だけ。あまりの多さにどうすればいいか、学園長に相談しに行ったんですが」


「嫌な予感がするなぁ」


 ここ数週間の付き合いで分かったことだが、あの人中々ぶっ飛んでいる。面白そうなことに目がないと言うか……まぁそういうことである。


「そこで学園長がいいました。『なら、一人ずつ戦って花火が育てたいと思った子をプリンセスにするといい』と」


 あら?以外とマトモな事言ってる。





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まだ寝てないから今日判定!セーフセーフ!

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