第11話

「ふぅー、ごちそうさまー。お腹いっぱい~」


「まぁ、あんだけ食べたならそうだろうな」


 凛が食べ終わるのを見届けた後、俺たちは海が見える堤防へやってきた。今日の予定は入学式だけなので、午後からは完全に自由時間というわけだ。


 そこで、凛がお気に入りの場所に連れてってあげるとの事だったので、こうして堤防までやってきたということだ。


「ここは、夕方になると太陽が沈む様子が見れてとても綺麗なんです。たまに私、時間を忘れて見ていたことが何度か」


「あー、分かる気がする。綺麗な景色って、時々無性に眺めたくなることあるもんな。だが、それより」


「どうしたの?」


 俺は、自分より上にいる彼女に向かって声をかけた。


「そこ登ってただでさえ危ないのに、後ろ向きながら歩くな」


「大丈夫です!私、何回もここに来てるから慣れてます!」


「そういう問題じゃないんだがなぁ」


 見てくださーい!と言い、堤防の上でくるくると回る凛。ヒロインだから、多少の高さから落ちたところで怪我なんてしないだろうが、もし海に落ちたらとか考えると、背筋がヒヤッとする。


 俺がすることは、凛がもし足を滑らせたか何かで落ちそうになった時、すぐに助けられるように見ておくことだ。


「裕樹さんも、こっち来ます?」


「行かないよ。とにかく、凛は落ちないように」


「大丈夫ですって。ヒロインなんですから、ここから落ちたところで大したことは────あ」


「ほら言わんこっちゃない!」


 振り向きながら歩いていたことにより、少し段差につまづいてしまった凛。あまりにも早いフラグの建築である。


 幸いなことに、海の方に体勢は崩さなかったようで、無事に受け止めることに成功。お姫様抱っこのような形になり、受け止めた凛と目が合った。


「………何か言うことは?」


「ご、ごめんなさい」


「よし」


 全く、いくら怪我しないと言っても、痛みはあるだろうに「ひあっ」──────ひあ?


「あっ、ゆ、裕樹さん……っ!そ、その……手!」


「手……?あ、わり」


 なにぶんお姫様抱っこをするのは初めてなので、少し受け止め方をミスり、右手が凛の胸を触っていた。


 危ない危ない。多分言ってくれなかったそのままだったわ。欲求とかないから胸触っても気づかなかったわ。


 スッ、と腕をスライドさせ、今度はしっかりと肩を抱く。これで大丈夫か。


「……あの、乙女の胸を触っておいて、普通そのままにします?あと、大概の人は慌てるのでは?」


 ジト目で凛が俺を見る。


「いやー三大欲求とかないから別に触れても特に何も思わないんだよね」


「……それはそれでちょっと複雑です」


 フン!と腕の中で顔を背ける凛。しかし、暫くしたら少し頬を赤くしてまた俺を見る。


「あの……裕樹さん?いつまでこの格好なんですか?私、恥ずかしいんですけど……」


「俺の忠告聞かなかった罰ね。寮に戻るまでは反省の意も込めてこのままにしまーす」


「だ、ダメです!他の人に見られたらと思うと恥ずかしいです!」


「俺は恥ずかしくないんで大丈夫です。しっかり反省するように」


「裕樹さん!もう!裕樹さん!」


 顔を赤くし、胸をポコポコと叩く凛。はっはっは。そんなことしても可愛いだけだぞ。観念しなさい。










「ふうむ……アオハルだねぇ」


 そんな二人の様子を、わざわざ双眼鏡を使って見守っていた人がいた。


「裕樹さんは溶け込んでいますか?」


「あぁ。早速一人手篭めにしたらしい。いやはや、手を出すのが早いことで」


「……は?」


 もちろん、その人物は瑠璃学園学園長の長月美冴である。きちんと溶け込めるか不安だったからこっそり見守っていたが、不安は杞憂だったようだ。


「まぁまぁ花火。そんな圧出さない」


「し、失礼しました学園長」


「まぁ、少年がモテモテだからって、あまり嫉妬しないように」


「べ、別に嫉妬なんて……少し、しかしてませんけど」


「いやいや、あの威圧で少しおかしい」


 花火に顔を向け、呆れたようにため息を吐いた美冴。そして、花火の持っている資料を見た。


「ふむ……今年も多いな」


「すみません学園長。今年もご迷惑をかけます」


「いや、問題は無いさ。花火の『お見合い決闘』は見てて楽しいからな」


「学園長!?」


「はっはっは」





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これにて、第1章は終わりです。次回から第二章『学園最強のお見合い事情』に続きます。

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