第9話
「さて、改めてだが入学おめでとう。私としては、繰り上がり組も、編入組も、入学組も分け隔てなく仲良くしてくれると嬉しい」
ヒロインは、女の子なら誰でもなれるという訳ではなく、体内に魔力を持っているかつ、魔力保有量の数値が50以上であることが最低条件である。
ジャガーノートは、魔力によって起動し、契約をすることでその効果を十全に発揮する。そしてさらに、人によってヒロインに覚醒するのに個人差がある。
一番遅くて16歳の頃には、ヒロインとしての才能があればジャガーノートを握れ、戦場に立つことできる。
幼少期から才能を発揮し、ヒロイン育成機関────通称『エルドラド』で英才教育を受ける子もいれば、中学卒業後にギリギリでヒロインとして覚醒する子もいる。瑠璃学園は、中等部からの繰り上がり組だけでなく、外からも積極的にヒロインを集めようとしている。
その理由は、太平洋に浮かぶ淵界──────瑠璃学園から直線距離4000キロメートル先にある通称『沖ノ鳥淵界』の完全破壊を目的としているからだ。
世界におよそ500以上もあるとされる淵界だが、沖ノ鳥淵界は、特に規模が大きく、世界でも10番目以内にも入るほどの大きさなのだとか。
「自己紹介だが……まぁ、お熱い視線を独り占めする色男からにしておこう。小鳥遊裕樹」
「はい」
「お前からだ。気張れよ色男」
「俺は別に色男ってほどイケメンでは無いが……まぁいいか」
席から立ち上がり、ぐるりと顔を見渡してから、右手を胸に当てる。
「小鳥遊裕樹だ。色々あってここに入学することになったが、男だからという理由で仲間はずれにされるのは寂しいから、是非仲良くしてくれると嬉しい。よろしく」
笑顔大事。笑顔の起源は威嚇だなんだとか言われてるけど、柔らかい雰囲気作りも必要なため、最後に笑っておく。
「「「「「…………」」」」」
「……あれ?」
無音である。少しぐらいは拍手起こってもいいんじゃない?と思っていたが、全くの無音。というか誰もこっち見てないじゃん。さっきまで見てたでしょー!
やっぱ俺、嫌われている。
チラッと火蛇穴先生を見る。何かを察した火蛇穴先生は、ため息を一つ吐くと一番前にいる席の生徒を見ろという風に顎で示した。
「………?」
さすがにそこまで行くのは面倒なので、前の生徒の顔を前から覗き込むように移動する。勝手に顔を覗くのも悪いと思うが、今は一大事。一体どんなことが──────
「……気絶してる?」
いやそうはならんやろ。
すっげーことが起きた。自己紹介で全員気絶させた奴なんて俺一人ぐらいなんだろうなー……。嫌われ確定です。
はぁ、とため息ついて外の天気を眺める。いい天気だな、俺の心は涙の雨でいっぱいです。
チラリと横目で見ると、明らかに全員俺から距離を取って囁いて話している。話題は多分俺の事。だって俺の事見てるし。
今現在は自由時間。あれから気絶状態から復活した生徒は全員無事に自己紹介をすませ、12時まではこの教室から出ては行けないが、仲を深める時間となった。
ま、仲を深める相手なんて今の俺には居ないんですけどね……へけっ。
「あ、あの~……」
「ん……?」
そのままボーッと外を眺めていると、机の下からぴょこんと顔だけ出すように座っている少女と目が合った。
見覚えのある茶髪をサイドテールにしてまとめ、近くで見るとくりくりで可愛らしい黒目が俺を覗く。
「あれ、あの時の……」
「お、覚えててくれたんですか!」
「勿論。首トン忍者さん」
「く、首トン忍者!?」
いやだって、目の前から急に消えたと思ったら首トンさせて意識を狩るとか忍者でしょ。
「首トン忍者じゃないです!自己紹介聞いてました!?」
「勿論。
「よ、良かったです……これから首トン忍者と言われるかと」
「たまに言うかも」
「たまに!?」
あかん。この子弄ってると楽しい!まぁ実質初対面だから今日はこのぐらいにしておくけど、まさか同じクラスだったなんてびっくりだな。
「冗談。とりあえずよろしく。ほぼ初対面だけど、知ってる人がいてくれて助かった」
「よろしくお願いします。裕樹さんと呼んでも?」
「おう。俺は?柊さんって呼んだ方がいい?」
「いえ、気軽に凛で結構ですよ。裕樹さん」
「んじゃ凛ね。よろしく。ほい握手」
「はい」
差し出した手に、何故か両手で掴まれてブンブン回される。
「所で、俺って嫌われてたりする?」
「え?……あ、いえいえ!多分みんなそういう事じゃないと思います!私がやっと刺激に耐えれるようになっただけで──────」
「刺激?」
「──────いえ!何でもないです!ただ、ちょっと裕樹さんがカッコよすぎるので、話しかけるタイミングを伺ってるんですよ!」
「カッコイイ、ねぇ……本当にそう思う?」
ちなみに、自分では全く思わないよ。今まで告白されたことないし。
自分の見た目は、黒髪黒目の至って普通のジャパニーズ顔。確か、俺の父方の母親がイギリス人で実はクォーターだったりするが、イギリス人っぽさは俺にはどこも無い。
まぁ、普通より整っている方だとは思うが、今朝の入学式のようにあんなに顔を真っ赤にさせるような破壊力は俺にはないと思うんだが……。
「はい!少なくとも、私はそう思います!」
「……そっか」
そう言って、彼女はニコリと花が咲いたように笑った。
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