第7話 決意
「痛い」
頭を打ち付けたようだ。しばらく気絶していたのか?途中の記憶が曖昧だ。僕はうつ伏せ状態のまま痛めた頭を抑え、ぼやけた視界の中辺りを見渡す。暫く眺めていると全貌が明らかになってきた。森か?広い範囲に渡って草木が生い茂っている。ザーザーと風の音が不気味だ。それに日の光が届いておらず、薄暗いのもそれを際立たせている。
「うわ!」
突如、伊織音は悲鳴を上げる。
なだこれは?僕は今衝撃的な映像を見ている。さっき僕を襲ったヤツが何かに貪り付いているではないか。
「グチャ、グチャ、グチャ、・・・」
一匹かと思ったが違う仲間同士で獲物を奪い合っている。何を食べているんだ。僕が視線を凝視するとヤツが食べているのは明らかに人間だ!それも何人もの。
「ひっ」
その光景に伊織音はあまりの恐怖に身の毛がよだつ思いをした。
逃げないとまずいそう一瞬で思った。
けど、恐怖から力がでない、どうする、どうする・・・僕が逃げるため体を反転させようと目を離した瞬間、僕の目の前が突如真っ暗になる。
「うわぁーーーーーー」
僕の眼前にヤツが居たのだ。数十メートルは離れていた筈なのに一瞬で近づいてきたのだ。
獲物を頬に含ませそれを食べながら僕を舐め回すように見つめてくる。自然界で言うとヤツがハンターで僕が草食動物である。僕がその緊迫から冷や汗を出したと同時に
「キィーーーーー、キィーーーー」
僕の眼の前に居るヤツが呻く。
「くうーーー」
うるさい呻きに僕は耳に手を当てた。周りをよく見ると他のヤツも僕を見るや否や立ち上がり、呼応したように呻めだしており、それが樹海に響き渡っている。
これはまずい、殺される。そう思い力を振り絞る。しかし、立ち上がろうとしたが左手を噛まれてしまう。
「うあーー」
余りの痛さに僕は、悶絶する。
死ぬ。そう思った刹那ゴートンさんに言われた言葉を思い出す。
能力を使わなきゃ能力を使うにはまず、何よりイメージが大切だったっけ。まともにやったことがないのにできるのか!
僕は精一杯想像をした。まだ、死にたくない!何もできてないんだ。やりたくてもできてないんだ。
「うわーーーーー」
伊織音はこれでもかと声を出した。お願いします。伊織音の願いが通じたのか光が出た。
その光は辺り一面を照らした。緊迫状態のためこれが精一杯だ。
「ギィー」
ヤツらの一瞬眩ませることができた。僕はなけなしの力を振り絞り走り出す。
手の出血が酷い。ポタポタと地面に血が垂れる。だけど、命には問題ない程度だ。
僕は次の想像をする。この状況を打破できるもの・・・・スピードか、僕はとにかく足が早くなる様に想像をする。するとみるみる内に早くなっていくやったこれで逃げられる。
僕は、樹海を猛スピードで抜けた。しかし、現実は甘くなかった。僕が安心したのもつかの間、僕の眼前にはヤツがいた。周りを見渡しても至る所に仲間がいる。
「はぁ、はぁ・・」
無理だよ・・・僕は、泣きながらそう思った。生きたいよ!僕は、力を振り絞る。
「おーーー」
その時だ。グレファスが鳴った。
「おめでとうございます。」
何だ?
「新記録達成です。」
グレファスの画面を見ると、時速200kmになっている。
普通なら嬉しいのだろが、この時の僕は違う。でも、この速さなら逃げられるそう思った。
だが、現実は違った。なんと、僕のスピードに追いついて来ているのだ。数値は250kmになっているのに
「いーーー」
もうきついよ!泣きながら走る。最後の力を振り絞る。が、とうとうヤツが僕の体に乗っかってきてしまう。そして、スピードが落ちた所に他の仲間も乗っかってくる。
「うっ」
余りの重さに圧死してしまいそうだ。彼らは
伊織音の体に覆い被さると
「キィーー」
と呻きなんの躊躇いもなく貪り付き始めた。
「 生きたいよ。」
僕は泣きながら今度は口に出して言う。
しかし、無情にも奴らは僕の足を食いちぎり、次に手を食いちぎってしまう。
「うあーーー」
彼等は僕を戦闘不能の状態に追い込むと
急に襲うのを止め、元の方へ僕を連れて行く。
連れて行く最中色々なことが頭によぎる。死んじゃう!一人で虚しく。まぁ、ロクな人生では無かったけど夢も叶えられずに。誰にも気づかれず、心配もされずに・・・目が霞んでいく。でも、僕は最後ありったけを込めて想像をしていた。そして、吐血を吐きながら
「君らは、人を殺めている。僕は君らを殺すつもりはない、でもここで止めないと行けないんだ。」
伊織音は人が変わったみたいに言う。まるで、中二病が発現したみたいに。そう、先程の伊織音は命を奪うことに躊躇いを覚えていた。しかし、死を覚悟した今、何かがプッツンと切れた。守らなきゃ、僕は今確かに見た気がしたんだ、食べられている人の中に生きた人の影を、そう思い、
これから死にゆく人の表情では決してない面構えをし、
「これが僕の全てだ・・ウオーーー」
と声を上げる。すると、大地が揺れゴートンさんとの訓練で出しかけた魔神が出現する。
意識が遠のいていく中僕は細めでその戦いを見つめる。もう一歩も動けない。魔神は敵を発見するや否や斧を振り下ろす。その一撃一撃は周囲の木々を一瞬で一蹴する。しかし、彼等は全てそれを避ける。掴んだかと思っても溶けてしまう。まるで、シカクナマコの様に。彼等は強すぎたもう駄目だ。そう思いながら僕は目を閉じた。本当に・・・さよなら・・・
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