第5話 一緒にお勉強
夕食を寮の食堂でエルグランドと一緒に食べると、オリバーは1度自室に戻った。これから風呂に入りに行く。寮には大浴場がある。寮の部屋には風呂がないので、オリバーはいつも大浴場に行っている。成績優秀者の個室には、狭いがシャワー室があった。エルグランドはいつもシャワーで済ませているらしい。夕食の時に、大浴場に一緒に行かないかとエルグランドを誘ってみたが、真っ赤な顔で断られた。友達同士で一緒に風呂に入っている生徒達はいっぱいいるので、実は密かに憧れていたのだが、エルグランドが嫌なら仕方がない。オリバーは今日も1人で風呂に入った。
パジャマの上に薄手のガウンを羽織って、エルグランドの部屋に行くと、エルグランドの部屋に以前は無かったものがあった。小さめのテーブルと折りたたみ式の椅子である。
オリバーはエルグランドを見て、テーブルを指差した。
「どうしたの?これ」
「寮監に頼んで借りてきた。俺の机だけじゃ一緒に勉強できないだろう」
「あ、そっか。ごめん。何も考えてなかった。ありがとう。エル」
「……別に」
「早速勉強しよっか」
「うん」
オリバーはエルグランドと向かい合って座り、テーブルの上に教科書とノートを広げた。各授業の課題をして、明日の授業の予習をする。静かな部屋に、カリカリとペンを動かす音と教科書を捲る音だけが響いている。オリバーはノートから視線を上げて、チラッと正面のエルグランドを見た。エルグランドは真剣な顔で本を読みながら、黙々とペンを動かしていた。早々と課題を終わらせて、自主勉強に入っているようである。オリバーは再びノートに視線を戻した。エルグランドに少しでも追いつきたい。オリバーはエルグランドから声をかけられるまで、集中して、教科書を読み、ペンを動かし続けた。
「オリバー」
「んー?」
「休憩しないか」
「あ、うん」
オリバーはペンを置いて、伏せていた顔を上げた。エルグランドが立ち上がり、勉強机の上に置いてあった水差しからコップに水を注ぎ、オリバーにコップを差し出した。オリバーはお礼を言って、コップを受け取った。エルグランドは自分の分の水をコップに注ぐと、コップを片手に再び椅子に座った。
エルグランドがじっと真顔でオリバーを見た。
「分からないところはあるか?」
「いまいち飲み込めないのは何個もあるよ」
「教える」
「いいの?」
「うん」
「ありがとう。助かるよ」
「……来週、変身魔法の授業でペアを組んで実習するだろう?」
「あー……うん。らしいね」
「一緒にやりたい」
「僕とペアを組んでくれるの?」
「……お前が嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ。僕とペアを組んでくれる人なんていないだろうから、どうしようかと思ってたんだ。ありがとう。エル。本当に助かるよ」
「とっ、友達だしな!」
エルグランドが微かに目元を赤く染めて、目を泳がせた。どうやら照れているらしい。オリバーは小さく笑って、パジャマのポケットから小さな紙袋を取り出した。
「エル。これ、おばあちゃんが送ってくれたクッキーなんだ。一緒に食べよう」
「……いいのか?」
「うん。エルと一緒に食べようと思って持ってきた」
「あ、ありがとう」
「おばあちゃんの手作りなんだよ。先週、いっぱい送ってくれたんだ」
「……手作りのクッキーなんて初めて食べる」
「今食べても十分美味しいんだけど、焼き立てはもっと美味しいんだ。おばあちゃんがクッキーを焼く時はいつも手伝ってた。焼き立てを摘み食いしたくて。まぁ、摘み食いの筈がいつも本気食いになってたけど」
「ふはっ。オリバーって食い意地張ってるのか?」
「あー。うん。食べるの好きだし。そうなのかも」
「ふーん。その割に痩せてるよな」
「体質かなぁ。食べても太らないんだよね。エルも痩せてるよね。晩ご飯少なめだったけど、あれで足りるの?」
「足りてる。あんまり量は食べない」
「お腹空かない?」
「空いたら干した果物を食べてる」
「なるほど」
オリバーは小半時程エルグランドとクッキーを食べつつ話をして、それなりに遅い時間まで一緒に勉強をし、エルグランドの部屋を出た。
エルグランドに分からないところを教えてもらったのだが、エルグランドの教え方は丁寧で分かりやすく、すっと頭の中に入ってくれた。
オリバーは自室のベッドに寝転がって、布団を被って目を閉じた。いつもよりも長く濃い勉強をしたので、脳みそが疲れている。しかし、エルグランドと一緒に勉強するのは、とても楽しかった。食事も、会話も、お互いにぎこちなさがあるが素直に楽しい。まだ友達になったばかりだし、これからぎこちなさも無くなっていくのだろう。
明日の朝は、エルグランドが部屋にオリバーを迎えに来てくれる。一緒に朝食を食べて、学舎へ行く予定だ。
オリバーは、くふっと笑った。明日が本当に楽しみだ。
オリバーは少しうとうとした後で、がばっと起き上がり、ベッドから降りた。勉強机に座り、机の引き出しから便箋と封筒を取り出す。祖父母に手紙を書かなければいけないのを忘れていた。友達ができたこと、夏季休暇に連れて帰ることを知らせなければ。
手紙を書きながら、オリバーはゆるく口角を上げた。
今年の夏は、きっと忘れられない思い出がいっぱいになる。エルグランドに、オリバーの故郷の色んな所を見せてやりたい。一緒に勉強して、一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、いっぱい話をして。楽しい予感になんとも胸がワクワクしてくる。
オリバーはウキウキとした気持ちのまま、手紙を書き終えた。
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