第6話 戦闘の後で

 ダンジョン内に残ったのは俺と『白来』のパーティーだけになった。

 場は悲惨の一言であり、血みどろの光景が広がっている。


「あんた……」


 パーティーのリーダーが俺を見ている。たしか名前はテーゼだったか。

 他のメンバーと一緒に警戒心マックスの状態だ。


「無事で何よりです」

「俺らを助けたのか? どうして。貴族だろ?」


 貴族だろ、か。

 どうやらこの人は貴族に相当の恨みを持っているらしい。


 ふむ。しかし、どう言ったものか。

 理由なんていくらでもある。トップギルド同士の小細工抜きの戦いが見たかったとか、シンプルにレゲとかいうやつが不快だったとか、あとは俺の隠密がどこまで通用するか、とか。

 まぁ、ここは無難に答えておこう。


「困っている人がいたら助けたくなるんです」

「ぷっ! 変わってるな、あんた!」


 大柄の男が吹き出すように笑った。


「ちょっと、失礼だよ~。せっかく助けてくれたんだからさ。ここは素直にありがとうでいいじゃん!」

「そうねぇ」


 可憐な少女が言う。

 それに同調したのは妖艶な女性だ。

 だが、テーゼは疑心を持ったままのようだ。


「レゲとの戦いは横眼で見させてもらった。……たまに魔法具を使われて、こっちまで魔法が使えなくなっていたからな」

「それはすみません」


 恨めし気な目でテーゼがこちらを見る。

 迷惑をかけたことに関しては謝罪する。

 しかし、あくまでも俺の命が第一なので反省はない。

 とはいえ、本題はそこじゃない。


「――あんた強すぎるよ。その年齢でその強さは尋常じゃない」

「褒めすぎです」

「いいや。レゲは卑怯だが『向かい影』のトップだ。トップギルドのトップなんだ。実力は間違いなかった。それを瞬殺できるやつは中々いない」

「それはこの魔法具があったからですよ」


 レゲの持っていた『魔封じ』を見せる。

 実際にそれに偽りはない。


「それ抜きでも十分に戦えていただろ」

「否定はしません。でも、さすがに俺のことを詰めすぎじゃないですか? そちらだって他の数十人を全滅させているじゃないですか」

「俺達は戦闘が生業だからな」


 なんだか剣呑な雰囲気だ。

 よほど貴族が嫌いらしい。

 なんて思っていたら。


「――だから『ありがとう』って言えって!」

「痛っ!?」


 パチーンっと可憐な少女が軽快な手さばきでテーゼの頭を叩いた。


「そうだぞ! ありがとうな、貴族の坊ちゃん!」

「ありがとうございましたぁ」


 大柄の男性、妖艶な女性の頬笑みが向けられる。

 それから、テーゼと少女も続いた。


「……ありがとう。助かった」

「ありがとうございましたっ」


 個性的なパーティーだ。

 しかし、悪い気はしない。


「どういたしまして。それでは、俺はこれで」


 言って、踵を返す。

 案内役の『ユグドラシルの誓い』もいなくなったことだし、さすがに疲れたので帰りたい。

 そうしてダンジョンから出ようとして。


「待て」


 テーゼに後ろから声をかけられる。

 雰囲気から察するに第二ラウンドまではなさそうだが、かなり強張った顔つきをしている。


 やばいな。

 もしかしてレゲの『魔封じ』を持ち逃げしようとしているとバレてしまっただろうか。

 いや、解釈的に俺のものでいいのだけど、ここで喰いつかれては面倒なんだよな。

 なんて思いながらも、平静を装って首を傾げる。


「どうしました?」

「……い、いらい」

「ん?」

「俺達に依頼があったんだろ!」

「ああ、まあ、はい」


 どうやら魔法具とは別件らしい。


「いっ、いつでも依頼しろ! あんたクラスなら俺達の力なんて不要だろうが、少なくとも話くらいは聞いてやるっ」


 テーゼは顔を真っ赤にして視線を逸らしながら言った。

 あまり貴族の依頼を受けたくない様子だったが、相当がんばって恩を返そうとしてくれたらしい。

 他のメンバーの表情も柔らかい。

 ラッキーだ。彼らを助けたのは恩を売る目的もあった。


「それでは、その時はまた頼みにいきます。割引してくれますよね?」

「貴族のくせに値切るかよ。ま、多少は低く見積もってやる」

「ありがとうございます」


 そんな会話をして、俺はダンジョンから出るのだった。

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