第5話 トップギルド
俺の手には魔法具がある。
奉天総の魔法具で『魔封じ』というらしい。
なかなかに便利そうだ。
歯車の形をしていて、円の中央にはボタンらしきものがある。
「お、おいおいおい……きひひ、ここはガキの遊び場じゃねえぞ? だれだ、おまえ?」
可憐な少女を片手に抱いている男、レゲが言う。
少女はレゲから離れようともがいていたが、今は彼と同じく驚きながらこちらを見ている。というか全員こっちを見ている。
かく言う俺は魔法具に夢中だ。
「これかな? 起動と停止のボタンは」
「ばっ、やめろっ!!」
レゲの手が俺に向けられるが、振り払う。
ボタンをぽちりと押す。魔法具から気配が消えた。
瞬間。
場が凍結し、十人ほどが吹き飛んだ。
眼前のレゲが慌てた様子で向き直る。
「く、くそがっ! てめえら構えろ!」
おお、どうやら『白来』のメンバーが息を吹き返したようだ。
戦闘は一気に加速して、さっきの余裕な空気感は消えていた。
「だ、大丈夫っ? テーゼ!」
可憐な少女が、テーゼと呼んだ男の下に駆けて治癒魔法を施している。
どうやらレゲは驚きのあまり放してしまったみたいだ。そして、彼の視線の先には俺がいる。
「覚悟しろよ、クソガキっ! てめえのせいで計画がパーになったじゃねえか!」
「クソガキに奪われて終わる程度なら、計画って言わないんじゃないですか?」
「うるせえ! どっちにせよ魔法具がなくとも殺すつもりだったんだ! ここで戦闘したっていいんだよ! てめえらやるぞ!!」
そうして戦闘が始まる。
なるほど。『ユグドラシルの誓い』が逃げ出すのもわかる。トップギルドの戦いはすごい。ダンジョンがさっきから揺れている。攻撃の応酬が止まらない。
しかも、四対多数であるにも関わらず『白来』のメンバーが勝っていた。
「どうします? お仲間がやられてますよ、加勢しなくていいんですか?」
「はぁ……はぁ……! て、てめえ……!」
レゲは肩を上下させながら目を尖らせている。
俺から魔法具を奪おうと挑んできているが、どれも空振りしているので息が苦しそうだ。
「うーん。まあ恨む気持ちもわかりますけどね。先にあっちに合流した方がいいと思います」
「だまれ! 俺だってなァ……! トップギルドのエースなんだよ!」
疾風。
レゲを中心に強い風が舞う。
魔法だ。
ダンジョン内の岩や壁が風に斬られている。
「そうですか」
剣を抜く。
レゲの魔法は不可視だ。
触れれば斬られる。
かなり強力だといっていい。
「もう魔法具ごとぶっ壊してやるよ! クソガキぃ!」
レゲの手がこちらに向く。
魔力を俺に集中させたのだろう。
「ぽちり、と」
魔法具を起動させる。
風が止まる。
「はっ……!?」
レゲの間の抜けた声が届く。
別の場所で起こっている戦闘も一瞬だけ止んだ。
が、今はそんなことどうでもいい。
隙だ。
――魔法具をオフにする。
身体能力を強化。
肉迫する。
レゲも反応するが、
遅い。
そもそもの戦闘能力もこちらが高い。
息を吐いて。
剣を縦に振る。
レゲが魔法を行使しようとして手をこちらに向ける。
同時に魔法具を再び起動する。
しかし、その必要はなかったようだ。
レゲの肩から先には、もうなにもなかった。
「あぁぁぁぁっ!? お、俺の腕が! 俺の腕がぁぁ!?」
レゲの顔が青ざめる。
なくなった肩を抑えながら悲鳴をあげる。
「……」
「……ぁ……あんた何者だよ……! どうしてそんなに……!? なっ、どうして……!」
レゲは完全に戦う気力が消えたようだ。
もはや俺が近づいても抗おうとしなかった。
「さよならです」
「やめ……っ」
首を跳ね飛ばそうとして、なかなかうまく斬れない。何度か斬ってようやく完全に胴体と離れた。
魔力がなければこうも難しいものなのか。
物体の強化もできないから剣の切れ味も悪いな。
手の感覚をたしかめる。
(……)
なんてことはない。魔物を殺した時と同じだ。コイツらが魔物と変わらないケダモノだからだろうか。あるいはここがゲームの世界かもしれないからだろうか。もしくは――。
ともかく。
リーダー格を失い、『向かい影』は見る影もなくなった。
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